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僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
初めてのヴァーチャルリアリティ
16/45

因果応報という言葉の真理を突きつけられて絶叫が木霊した件

 反撃の一手とは言っても、僕の持つカードはあまりに少ない。というか、殆どない。

 弓という遠距離攻撃と〈遠視〉によるターゲッティングの範囲の差。これだけで人数差を埋めることは出来ない。


 僕は、追っ手を完全に引き離したと確信した時点で、潜伏行動に移る。

 既に狼のテリトリー内であり、万が一にもこの状況で狼に見つかったら終わりである。冷静に考えれば、死に戻りしてもいいのだけれど、それはなんか悔しい。仕掛けられた以上、一矢は報いてやりたいものだ。


 そうこうしているうちに、連中が小川沿いに現れ、後続と合流したようだ。〈遠視〉スキルを発動させ、観察する。森の中に潜伏した状態で〈遠視〉ギリギリの距離での観察だ。そうそう見破られるものでもないだろう。


 人数は5人、か。


 まずは、オーソドックスな勇者様スタイルの、光の勇者君。ライトなんちゃらって名前だったな。まあ、僕の中では勇者君で登録されてしまったのでこの際名前などどうでもいいだろう。


 二人目はやはりヒューマンの男性でこちらも剣使いのようだ。装備品は、勇者君ほど整ってはいない。皮鎧に幅広の剣を佩いている。


 三人目は、ドワーフ男性。こちらは斧使いで、見た目タンク仕様か。金属鎧に大盾でがっちりと固めている。僕にとっては一番苦手なタイプかもしれない。


 遅れて合流してきたのが、エルフ女性とフェアリー女性の二人だ。どちらも魔法使いタイプのようだが、おそらくはフェアリーがヒーラー寄りだと予想できる。


 彼らはしばらく何か話しているようだったが、どうやらパーティチャットでの会話であるようで、音も拾えなかった。


 しばらく観察を続けると、彼らが動き始めた。どうやら三手に分かれるようだ。


 単独での防御能力の高いドワーフが単独、勇者がエルフと、剣2号がフェアリーと組むようで、それぞれが異なる方角へと足を向けた。


 では、こちらも行動を開始するとしよう。


 まずは、彼らが簡単に合流できない距離まで離れるのを待つ。待つと言ってもただその状況が出来るのをじっと待つというわけではない。

 最初の獲物は、剣2号とフェアリーだ。まずは、ヒーラーを潰す。これが鉄則だろう。なにより、フェアリーの防御力は極めて低い。体重が軽いため、ノックバック耐性が異様に低いのだ。

 ヒューマン以上の重さのキャラクターなら普通に足を止めての打ち合いが出来る状態であっても、フェアリーならば、簡単に弾き飛ばされてしまう。弾かれれば、詠唱は中断する羽目になるので、フェアリーは最もソロに向かない種族というのが現在の定説である。

 しかし、パーティプレイになると途端に化けるのがフェアリーという種族でもある。豊富なMPから導かれる継戦能力は実際、メロンソーダさんを見ればよくわかる。


 可能な限り離れた状態で、彼らを追跡する。位置取りも忘れないようにしなければならない。

 彼らの動きは、探索に慣れた者の動きではない。基本的にはネットなどで情報を仕入れたり、先行者が開拓した狩場などで安定した戦闘を行うタイプなのだろう。

 そんな彼らが分散したのは、弓使い一人くらいなら、どうとでもなるという自信であろう。

 そしてそれは間違いではない。ガチでぶつかり合えば、おそらくは僕はどの組にも勝てない。

 だから、僕は卑怯で姑息な手を使う。そもそも5対1で喧嘩売ってきた相手に卑怯者呼ばわりされる筋合いはないからな。



「いい加減出て来いよー、チキン野郎。いやー食べられる分チキンの方が上等じゃねーかなー」


 下手な挑発だと思う。なんというか、ボキャブラリーが足りない。

 相手の歩くコースから襲撃地点を割り出す。

 ここはアクティブモンスターである狼のテリトリーであるため、それらを避けながらの行動だ。さすがに相手もモンスターには最低限の警戒はしているようだ。

 とは言え、狼の感知は視覚ベースである。この森の中では狼の視界も遮られていて、簡単には絡まれることはない。野生の狼がそれでいいのかとも思うが、これはゲームなのだからそういう仕様だ。


 あと、少し。もう少しだけ前に出ろ。もう少しだ……


 襲撃ポイントまであと数メートルというところでいったん彼らは立ち止まった。

 見つかったか?


 しばらく、2号は辺りを警戒していたが、どうやら、僕に気付いたわけではないようだ。


「ねえ、もうあんな奴どうでもいいんじゃない? 森の中歩くだけなんておもしろくなーい」


 フェアリーが声を上げた。これは通常チャットモードだ。


「そうもいかねぇよ。あいつをとっ捕まえてフラグ消しさせないと、俺ら街にもろくに入れねぇんだよ。くそ、ライトのバカを焚き付けたのは間違いだったか?」


 どうやら、仲間内での悪口を言うためにチャットモードをパーティモードから切り替えたらしい。


「人間狩りの方が面白いとか、絶対嘘じゃん。あんな雑魚にいいように振り回されてさ」


 何が人間狩りだよ。やられる方の身にもなれって。というか、やられる方の気持ちはすぐにわからせてやるけどな。


 あと2メートル……1メートル…… 視界を広げ、仕掛けを確認する。……よし、今ならいける


 ……あと2歩……1歩……今だ!


 僕は身を潜めていたブッシュから立ち上がり、弓に矢をつがえる。何本かの木が相手との間に立ちふさがっているが、その隙間に狙い目がある。

 そこは十分に僕の射程内。だが、相手の魔法の範囲外。


 最初の矢は、狙いをたがわず、フェアリーの背中に命中した。相手が不意打ちにパニクっている間に次の矢を構える。フェアリーは、自分に対してヒール系の魔法の詠唱を始めているが、そこは僕の狩場だ。そこに棒立ちというのはあまりお勧めできない。


 2本目の矢もまたフェアリーに命中する。


 フェアリーの弱点は、その脆さにある。耐久度(VIT)の低さに加えて、HPそのものにもマイナスの修正がある。その代り、体の小ささからくる回避へのボーナスがある。フェアリーが徹底的に回避特化すれば前衛に出ることもできるという話だが、ここに一つ落とし穴がある。

 ほとんどの場合フェアリー、特にヒーラー系スキルを持つプレイヤーは、パーティを組むときに最も人気のあるスタイルと言って過言ではない。

 臨時パーティの募集をするプレイヤーの掛け声は、街の風物詩ともなっているが、ヒーラーの確保こそが最も重要な要素となっている。逆に言えば、フェアリーヒーラーを確保さえすれば、リーダーの仕事の8割は終わったと言っても過言ではない。

 つまりは、フェアリーヒーラーはほぼ敵に殴られることなくゲームを進めることが出来るのだ。それはすなわち、〈回避〉スキルを持たないか、持っていてもスキルが上がっていない傾向にあるということだ。

 そんなフェアリーが、回避行動もとらずに詠唱をしている。これほど当てやすい的はない。


 そして、フェアリーの弱点はもう一つ、ノックバック耐性の弱さである。

 FFOの攻撃には基本的にすべてノックバックのレベルがある。通常攻撃にも存在し、攻撃を受ける側のノックバック耐性と比較することでその後の状態が決まる。

 弓による攻撃は、ノックバック値は低く、並の重量のキャラクターならばそこまでの問題はない。むしろ、矢の持つ貫通属性の方が問題となる。だが、浮遊しているフェアリーは極端にノックバック耐性が弱いため、矢弾による攻撃ですら詠唱妨害が生じる。

 これがあるため、フェアリーが前衛に向かない最大の理由となる。

 むろん、その致命的な弱点を補って余りあるほどの後衛適正の高さがあるのは言うまでもない。


 直撃とは言え二発で沈めることが出来るほど弱くはない。さすがに二射する間に、2号には気づかれたようだ。


「てめぇ! 不意打ちとはきたねえぞ。逃げんじゃねえ、いまからてめえをぶっ殺してやる!」


 剣2号は、僕に向かって走り出した。三射目の準備は出来ている。そして、僕は第三射を放つ。


「撃つのがわかってて当たるかよ!」


 2号は横っ飛びにその矢を躱す。そして、にやりと笑った。もう一走りで僕との距離は詰められ、完全に剣の間合いに入る。そうなれば、彼の勝ちは揺るがない、そう判断したのだろう。

 だが、彼は二つ勘違いをしている。


 一つ目は、今の一矢は、彼を狙ったものではないということだ。


「アーツ【ツインアロー】」


 彼が態勢を整える前にアーツを発動させる。狙いは、三射目が直撃してさらにHPを減らしたフェアリーヒーラー。そのアーツが止めとなり、彼女のHPバーはなくなった。


「前衛が盾にならんでどうするよ。ついでに言うと、そこは、狩場だ」


 僕は宣言する。彼が僕の方へ走って距離を詰めるのは計算の内だ。というより、剣士が弓使いと戦うなら距離を詰めるのは当然。だから、罠を張ったのだ。


 ぐるるるるる


 なにかの唸り声が響く。それは、アクティブモンスターが獲物を見つけた時の声。襲い来るは狼。


 狼、と聞くとどのような生態を思い浮かべるだろうか。例えば、一匹狼という言葉があるが、狼は基本的には群生として動く。それは、ゲーム上では同族リンク属性として再現されている。

 僕も、狼に絡まれて逃げ回っていたとき、いつの間にか数が増えていて大変だったのだ。


 さて、彼の場合どうだろう。


「貴様、わざとかよ!」


「さて、知らんよ。わざとだったとしてもそれがどうかしたか? 僕がけしかけたわけじゃないし、あんたが自分からそいつの感知範囲に飛び込んだだけだろう?」


「てめえ!」


「それに、話している余裕があるのか? ここの狼は、ウサギ広場のウサギより強いぞ」


「な、てめ、助けろよ」


「まあ、頑張れ。パーティ組んでるんだから仲間が助けに向かっているだろ? そっちに向かって走れば助かるかもしれんよ」


 あえて、挑発的に言ってみる。


「てめぇ、覚えてやがれ!」


 2号はそう捨て台詞を残して走っていった。マップを開き、仲間のもとへ可能な限り、真っ直ぐに。

 そうなればいいなと思ったのだけれど、素直に従うとは逆に罪の意識が芽生えてしまうではないか。


 森の中は決して真っ直ぐと走れるものではない。基本、獣道のようなルートがあるにはあるのだが、ここに初めて踏み込んだ彼らにはそんなことはわからないだろう。

 木々を避けながら走るということは、常にトップスピードが出せるわけではないということであり、剣を抜いたまま走るということは、ランニング速度もまた狼よりほんのわずかだが劣ることになる。

 それは、常にすぐ後方で狼が彼の背中を攻撃し続けることを意味する。


 また、僕の言葉に誘導されたためか、そもそもそんなに知恵が回るわけではないためかはわからないけれど、彼は仲間との合流を急いだ。

 もし、僕が彼の立場なら、真っ直ぐ小川を目指す。うまく視覚感知の範囲を出ることが出来れば、狼は嗅覚で追跡をするからだ。逆に言えば、嗅覚をごまかさない限り、いつまでも奴らは追ってくる。


 また、森の中を突っ切るということは、狼のテリトリーを突っ切るということ。

 プレイヤー自身だけなら、狼の感知範囲を避けて走ることも可能だろう。だが、リンク属性を持つ狼は、獲物を追跡する同族を視界に捉えた時、そいつもまた追跡に加わってくるのだ。


 さて、結末を見に行きますか。




 そこは、地獄だった。

 演出した僕が言うのもなんだけれども、なんともひどい状態だった。


 2号は、結果的に合流するまでは何とか生きていた。そういう意味では彼は十分にレベルも高いキャラクターだったのだろう。だが、それが問題だった。

 2号に絡んだ狼の数は、結果的に3体である。FFOにおける戦闘の基本は、如何に多対一に持ち込むか、である。もちろん、それはあくまで基本で、多対多のケースもあるが、その場合でも先だってのウサギのボス戦のように、取り巻きなどを主力から引き離す役を用意したり、弱めの取り巻きをサブタンクが受け持ったりするだけで、原則としては如何に数を減らすかが基本になっている。

 もちろん、もっとレベルとスキルが上がり、例えば睡眠系などの行動阻害系魔法を手に入れたり、或いは広範囲攻撃魔法のようなものもあるかもしれない。そうなった時、戦術も変わってくるのだろう。

 だが、少なくとも今現在の戦闘の基本は、多対一が原則なのだ。


 そこへ、3体もの狼を引き連れて合流した2号。


 おそらく、この場の正解は2号を見捨てることだったのだろう。


 このゲームのデスペナルティは、所持金の一部消失と、場合によっては所持アイテムのロストである。ただし、直ぐにロストしてしまうわけではなくて、一定時間体の周りにアイテムがばらまかれることになる。

 そして、そのアイテムは同じパーティメンバーか、あるいはプレイヤー間戦闘での戦闘不能ならば、倒した相手が拾うことが出来る。

 だから、いったん見殺しにして、ドロップしてしまったアイテムをパーティメンバーが回収しておくのがベストだったと思う。


 だが、光の勇者君は、そうしなかった。彼は案外いいやつなのかもしれない。まあいいやつだったとしてもそれはそれとして思い込みが激しいやつということなのだろうから、友達にはなれないと思うけれど。


 結果、乱戦が始まった。

 テンプレート的な戦闘に慣れていた彼らは、多対多の戦闘のセオリーを知らなかった。勇者君とドワーフが前線に立ち、狼を食い止めようとする。だが、ウサギ広場レベルのキャラクターでは、範囲挑発のアーツはまだない。少なくとも、僕は知らない。

 そのため、食い止めることが出来たのは2体のみ。もう一体はそのまま2号を襲い、ついにはその牙で2号を引き裂いた。慌てたエルフが、その狼に火弾をぶつけた。それが失敗だった。

 フェアリーほど脆くはないけれど、エルフ後衛の防御力は低い。パーティ戦を基本にメイクされたキャラクターなら、防御系のスキルは持たないだろう。それは、同時に狼の攻撃をいなすすべがないことを示している。それでもエルフは何度も攻撃を喰らいながらも2度、火弾の魔法の詠唱に成功した。それもまた、不幸の一つだった。

 挑発系アーツの冷却時間が過ぎ、ドワーフがエルフを襲う狼へと挑発アーツを発動させる。が、2~3発ドワーフを殴った時点で、再びエルフに攻撃を仕掛けた。なまじっかダメージを与えてしまったために、高い敵対心を集めてしまっていたのだ。

 エルフが倒れ、狼3対勇者・ドワーフとなる。


 ヒーラーがいれば、結果は違ったかもしれない。

 乱戦を制したのは、一応は勇者君たちだった。いや、たち、というのは違うかもしれない。


 なんとか立っていたのは、勇者君ひとりだったのだから。


 ドワーフはガチタンク仕様だけあって、二対一でもなんとか張り合えていた。少なくとも一体を倒し、二対目も大部分を削ることが出来たのだからさすがともいえる。だが、二対目のHPを大幅に減らした状態で、彼は力尽きた。モンスターは原則として、HPにダメージを受けるほど特殊技の頻度が上がる傾向がある。そのため、削り負けたのだ。

 勇者君がなんとか担当の狼を倒し、ドワーフへ加勢に向かった時にはすでに遅かったのだ。


 なんとかドワーフを倒した狼を返り討ちにした勇者君は、既にHPも危険値を指していた。


「なあ、まだやる気か?」


 さすがにこの状況で彼に止めを刺すことははばかられた。


「全部、君の差し金か。卑怯者め」


 勇者君は僕をにらみつけている。確かに、うまく嵌ればいいとは思っていた。やりすぎだとも思わないでもない。だけれども、彼に卑怯者呼ばわりされるのだけは御免こうむりたい。


「反撃を想定しないなら他人を攻撃するのはやめておいた方がいい。月並みなセリフで悪いけれど、撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけだよ」


「俺は、間違っていない! お前は、悪だ!」


「なら、悪らしく振舞おう。君が選んだ道だ。そう振舞って欲しいのだろうから僕もそれにこたえよう」


「うおおおおおお!」


 一気に間合いを詰めようと駆けてくる。とは言え、距離がある以上、僕には二射分の余裕がある。

 狙いを定めて、一射。さらにクールタイムを待ち、至近距離からの二射目。

 一射目は盾で弾かれたが、二射目はその肩を射抜く。だが、鎧の防御力が高いためか、それだけでは倒すには至らなかった。


「くらえ、正義の刃を!」


 僕は、あえて避けなかった。その代り、第三射目の矢を弓につがえる。勇者君はその一撃の後、アーツ【ツインブレード】を放つ。


「どうだ!」


「残念だったね。オーガのタフネスを舐めてたろ」


 僕の三射目、そして、止めのアーツ【ツインアロー】を放つ。


 それで、決着だった。


 なんとも、後味が悪い。


 倒れる勇者君。その倒れこんだアバターの周りに散らばる金貨と……鎧と剣。


 あー、うん。圧倒的な戦力差でPKを仕掛けて返り討ちにあったのだから、まあそうなるな。

 これは、どうすべきかなぁ。放っておいても、電子の海に還るだけなんだよなー。


 まあ、うん。とりあえず預かっておこう。謝罪に来るなら返してもいいと思うし。

 僕は、そう考えてそれらの戦利品を手に入れた。そういえば、最初に倒したフェアリーヒーラー、あれも大分ばら撒いてたんだろうなぁ……

 残りの3人はモンスターに倒されたので、そこまで大量にばら撒いてはないのかもしれないけれど。人を呪わば、穴二つ、とはよく言ったものだ。


 僕は、そう思ってその場を立ち去った。人を呪わば穴二つ。それは正に真理であったことを僕はすぐに知ることになる。






「スキル〈潜伏〉ってなんじゃーーーーー!」


 しばしの後、僕の絶叫が響いたとか響かなかったとか。

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