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僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
初めてのヴァーチャルリアリティ
14/45

衝撃の出会いから立ち直り、あらためて〈錬金術〉ラーニングを目指すことにしたが、なかなかそううまくいかなかった件

 彼? 彼女? 僕はその人のことを表現する時、どちらで表せばよいのだろう。

 とりあえず、ここはふわふわさんやヴァイスさんにならって、いちごさんと呼んでおこう。


「いちごちゃんはね。みた感じこんなだけれど、とてもすてきなひとなのですよー」


「あらぁ、褒めたって何も出ないわよ? で、ふわふわちゃんはあたしにその素敵な殿方を紹介してくださるのでしょ」


 なんというか、美声である。渋い男声である。こうなんだ、セリフがそっち系じゃなければ、声だけでコロッと堕ちる女性もいるかもしれない。まあセリフがそっち系なので台無しだが。


「ミネアちゃんのおにいさんの……おにいさんの……お名前なんでしたっけ」


 そういえば、昨日のパーティでも、おにいさんとかおにいちゃん(ミネア)としか呼ばれていなかった。

 名前、覚えてなかったんかい。


「リュートです、よろしく。ストロベリーさん」


「うふふ、よろしくね、リュートくん。出来れば、みんなみたいに親しみを込めて、いちごちゃん、って呼んでほしいわ」


「うっ……いちご、さん?」


 なかなかに手強い。このゴッツイお方をかわいらしくいちごちゃんと呼ぶのは正気度がもたない。


「あらあら、照れちゃってもう。で、ふわちゃん。リュートくんをあたしに紹介したのって、フレンドとして? それとも顧客として?」


「とりあえずはー、顧客として、ですねー。でもーミネアさんのおにいさんですから、できればいちごちゃんとも仲良くしてくれればなーって思ってますよー」


「その割には、がっちりホールドしてるわね」


「これは、別問題。おにいさんは、トカゲ皮ハイクォリティを持ってる」


「白ちゃん、それほんと? トカゲ皮は少しずつ仕入れてはいるのだけれど、高品質品はなかなか手に入らないのよねぇ」


 頬に手を当てて小首をかしげるいちごさん。小指が微妙に立っているのがなんとも言えない。


 というか、この人の動作は通常のARシステムでのハーフダイブではないな。僕らと同じフルダイブだろう。


「うれしいわぁ。通常品の皮の相場がこれだから、高品質品なら今はこの金額ね。どうかしら、リュートくん」


 通常品のトカゲの皮の値段は、あまり高いものではなかった。これは予想していたことだ。おそらくはギルドからの販売価格よりやや安めに値段を付けているのだろう。これは当然のことだ。もちろん、店売りする時の金額よりも高めである。


 大多数が同時に同じ世界に立つMMOにありがちなことだが、アイテムの店売り金額というのはとても低く設定される。販売価格の1割程度だ。これは、元廃ゲーマーたる父曰く、二つの効果があるそうだ。一つは、プレイヤー間での取引の推奨。もう一つは、システムからのお金の引き出しをできるだけ抑えるため、である。


 一つ目は言わずと知れた、ネットワークゲームの醍醐味であるプレイヤー間の交流の推進が目的である。

 二つ目は、経済学的な問題だそうだ。リアル世界と違って、ネットゲーム内のお金というのはただのデータに過ぎない。アイテムを店に売ればそれだけ世界の中で出回るお金が増える。これが積み重なると、流通するお金がどんどん増えていき、それは同時にお金の価値を下げてインフレを引き起こす。

 それを防ぐために、システムから生み出されるお金の量は出来るだけ少なく、また何らかの形で流通するお金を回収しなければならない。

 インフレが起きた場合、それぞれの手持ちのお金自体は増えていくので、高額アイテムはそれこそ加速度的に値段が上がっていく。結果、そういった高額アイテムを入手できるグループとそうでないグループで大きく格差が出来てしまうという。


 そして、それはリアルマネートレード、つまりゲーム内通貨やアイテムをリアルのお金でやり取りする現象が起こり、さらに発展してそれを目的にお金を集める集団が出来てしまう。いわゆる業者と言われるグループが生まれてしまうのだ。さらに、リアルのお金を稼ぐためにゲーム内のお金やアイテムを集めるということは、外部ツールの使用や、健全なゲームプレイの妨害を招く。


 特にFFOではプレイヤーキル、すなわちプレイヤーがプレイヤーを倒すことが可能である。

 これに関しては、かなり詰めて作られていて、彼我の戦力差からプレイヤーキルのランクがつけられていて、レベルや戦闘スキルが劣っているプレイヤーを倒しても、殆ど実入りがないように設定されている。特に一方的に倒せる戦力差でキルしても、せいぜい片手で数えられるレベルのお金ぐらいしか得ることは出来ないようになっている。

 ただし、一品もの、つまりユニークアイテムの所有権を奪うことは出来るので、全く無意味というわけではない。


 少し話がそれてしまったな。


 いちごさんは、かなり良心的な金額で通常のランクの皮を引き取ってくれた。もちろんトカゲ皮だけでなく、ウサギの毛皮もだ。


 ただ、驚いたのは高品質の皮の買取価格である。通常品の10倍以上の値段を付けてくれたのだ。そのことを問うてみたところ、


「あらん、むしろその金額でも安いわよ? 何ならもうちょっと上げてもいいのよ」


 と返された。


「まあ、ほら。白ちゃんの目が輝いているでしょ。すぐに防具を作って彼女に売ることになるみたいだから、リュートくんは気にしなくていいの」


 ヴァイスさんは大きく頷いている。ハーフダイブでの感情表現はコマンド選択の必要があるためか、やや遅れるはずなのだが。


「じゃあ、その金額でお願いします」


 予想外の収入になった。これなら〈錬金術〉だけでなく〈調合〉のレシピと初期作成キットを買えてしまいそうだ。


「うふふ、まいど」


 なんかだんだんいちごさんのアレは気にならなくなってきたな。慣れってやつか?

 あまりにその、なんだ。似合いすぎて気にならなくなってしまった。


「どうですかー仲良くやれそうですかー?」


「うふふ、それはリュートくん次第ね。だってほら、あたしってこんなだから」


「そう?いちごちゃん可愛いのに」


 ミネアが言う。可愛いってのは違う気がするのだが。


「そんな風に言ってもらえると嬉しいわ。だけど、こればっかりは合わない人には強要できないもの」


 面白い人ではあると思うのだ。そして、βテスターであり、知識も豊富なのだろう。

 結局、僕はいちごさんとフレンド登録することになった。純粋に、いい人であると思ったし、革細工職人という僕の持たないスキルの持ち主であり、僕が当初の方針であるレンジャー路線を貫く場合、非常にお世話になりそうな気もするという打算的な目的もある。


 もちろん、そんな腹の内はいちごさんにも見透かされているとは思う。だけど、それを含めてのフレンド登録であろう。


 また、昨日はこちらの時間の都合で先にログアウトしたため、登録できなかったミネアのフレンドたちとも互いにフレンド登録を済ませることが出来た。相変わらず、名前では呼んでもらえなかったけれど。



 ミネアたちと別れて、僕はとりあえず、錬金術ギルドと調合ギルドを回り、もっとも安上がりなレシピを購入した。

 〈錬金術〉の初期所持レシピが初心者ポーションだったためそれが一番安上がりなのだろうと思っていたのだが、実際には、一番安いレシピは、蒸留水のレシピだった。どうやら、水と蒸留水は異なるアイテムのようだ。

 〈調合〉の安上がりレシピは、低級ポーションだった。これは、初心者ポーションを二つ使って作ることが出来て、固定値でのHP回復が出来るアイテムだ。その回復量は30、高い数字ではない。だが、初心者ポーションのボーナスが切れた後回復量に比べれば大分マシである。

 ちなみに、初心者ポーションは、もっとも高い戦闘がスキル30以下の時は50%の回復量を誇ったのだけれど、31になったとたん、5%にまで落ち込んでしまうのだ。

 実質ゴミと化す。ただし、〈調合〉素材としての価値はあるのだが。


 いろいろと考えを巡らせていると、時間も9時をわずかに回っていた。


アンナマリー≫≫『龍斗君、今大丈夫かしら』


 そろそろ来ると思っていたけれど、さっそく直チャットが飛んできた。このチャットモードの利点は、1体1という制限がある代わりに、エリアや距離に関係なく話が出来るということであろう。流石に、違うワールドには届かないのだが。


アンナマリー≪≪『先輩ですか。はい、大丈夫です』


アンナマリー≫≫『手間は取らせないわよ、今からフレンド申請を飛ばすから、登録をしておいて』


アンナマリー≪≪『はい、わかりました』


アンナマリー≫≫『用はそれだけですから、あとは自由に楽しんでくださいね』


 その直後にシステムメッセージとともにフレンド申請があったので、これを受諾する。

 結構、フレンドも増えてきたなぁ。ウッディさん以外は女性というのは、ちょっと驚きだが。(いちごさんは、まあ、一応女性枠に入れておく)

 くそぅ。どうせモテ期が来るのならリアルで来てほしかった。

 友人連中に言わせると、僕は充分にモテているということらしいが、周りの女っ気と言ったら、妹と先輩くらいだ。実の妹に懐かれてもまあ実妹なのだし、先輩はどっちかというと僕のことを弟ぐらいにしか見てないのだから、羨ましがられるいわれはない。むしろ、先輩や妹目当てでくっついてくるなと言いたい。


 まあ、とりとめのないことを考えながら、僕は街の外に出る。これまでの経験を頭に浮かべながら、水を採取できる場所を思い浮かべた。


 候補としては、ウサギ広場に行く途中にあった小川。小川を超えた先にある廃村セーフティエリアにあった井戸などだろうか。井戸はただのオブジェクトの可能性もあるが。


 行ってみればわかることである。僕は、そう考えてフィールドを進んでいった。


 記憶の通りの場所に小川がある。僕は川に手をつけてみた。さらさらと流れる小川ではあったが、冷たさはない。両手で器を作って救ってみたが、それは出来なかった。水はするりと抜けていってしまう。


〈サバイバル〉スキルの【採取】を発動させてみると、小川の一部が光って見えた。その場所に手をかざすと、河川の水、というアイテムが手に入った。


 とりあえず集められるだけ集めていく。やがて、光るポイントは涸れてしまった。小川は流れているのにアイテム採取できないというのはなんとも不思議な気がする。まあ、無限に取れるというのもゲームバランスが狂う原因となるのだろう。


 小川から出て、川沿いにあるセーフティエリアへと入る。今日はここを拠点として、蒸留水を生産してみよう。


 簡易錬金術キットを取りだし、蒸留水の作成を始める。


 まあ、蒸留水を作るのが錬金術というのは違和感もあるが、まあそうなっているのだから仕方ない。


 リアルで言えば、蒸留水は水を沸騰させて水蒸気を集めて冷やせばで生成できるのだが、ゲームではどうなのだろう。

 制作コマンドから、簡易キットを選択して、素材として河川の水を選択する。

 簡易キットは、フラスコや試験管などが並び、簡易ランプなどが用意されているが、実際にそれらを自分の手で使うということはない。

 コマンドを選択した時点で、自動的に生産は進んでいく。とは言え、何もできないわけではない。

 この生成時には錬金術の場合、フラスコや試験管を火で温めたり、振って混ぜ合わせてりするのだが、基本的にはこれらはオートで進む。その際、その動きに同期するように体を動かすと、生産での成功率が上がると言われている。もっともまだまだサンプルケースが少ないからオカルトレベルだが、生産メインのプレイヤーの中では信じる人は多いようだ。


 ぽん!


 少し間抜けな音がした。失敗である。これは織り込み済みだ。スキルを持っていない以上、最も簡単なレシピでさえ成功するとは限らないのだから。


 ぽん! ぽん! ぽん! ぽん!


 失敗の連続である。織り込み済みとは言えあまり続いているとなんか落ち込んできてしまう。


 ぽん! ぽん! ぽん!


 なんだろう、小学生の理科レベルの作業にこうも失敗しまくる自分って……


 やがて、手持ちの水が尽きた。スキルは習得できない。

 ラーニングのシステムが、はたして内部熟練度によるものなのか、それとも確率的なモノなのか。


 もうワンセットいくか。


 僕は、再び水の採取から始める。


 そう言えば、父が言っていたな。オンラインRPGは如何にルーチンワークを楽しめるかだと。


 確かに、そのようだ。昨日のパーティバトルにせよ、今日の生産失敗にせよ、ひたすら同じことを繰り返す。プレイスタイルは多々あれど、結局のところ、FFOはスキル上げゲームなのだ。何をするにもスキルによって決まる。

 それ故に、ひたすらスキルを上げることがこのゲームの最大の攻略法なのだろう。


 さぁて、もうひと踏ん張り、頑張りますか。

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