第六十二話 別の可能性
連休の終わりを前に、三人はひとときの休息を楽しみます。
修学旅行という未来の希望に胸を躍らせる一方で、不穏な影は確実に忍び寄っていました。
ランスが抱く鋭い懸念と、花が彼に感じた「言葉にできない違和感」。
それぞれの現実と想いが交錯する中、物語は新たな局面へと向かいます。
ランスは花を押しのけ、前のめりに修学旅行について聞いていた。
「沖縄だよ〜、都心のごちゃごちゃした空気を忘れて、羽を伸ばすんだ〜。」
「お、沖縄かぁ〜。良いなあ…画面越ししか見たことないけど、とても暑そうだね?」
「うん!うちの学校は、自由行動も多めで、自分たちでプランも組んでいいみたいなの!
だから、色々見て回るんだ〜。」
ランスは目を輝かせている。
「い、良いなあ、修学旅行かぁ」
「心配しなくても、みんな通る道だ。
現実じゃあ、タクに会う確率はもうほとんどゼロだ。話を聞く限りじゃあ、女子高生の私生活を待ち伏せするほど、仕事にリスクを取るとは思えねえからな。
しかも沖縄だ。楽しんでくるといい。
そうだなぁ……もし行くなら--」
花は沖縄の名所やオススメなどを伝える。
それを聞いてランスも興味津々。
「ありがとう花さん!うん!プランに入れてみる〜!」
(できることなら、修学旅行までに一旦タクを祓いたいがな。そう上手くいくかどうか。ちぃとばかし頭良さそうな奴だしな。)
「花は詳しいね!行ったことあるの?!」
「ん?お、おう。まあな。ランスもそのうち、いくらでも行けるさ。まだまだ楽しめるんだ。今のうちに色々夢持っとけよ。」
「う、うん………そのうち……か。
そうだね……うん!……今のうちに行きたいところ、たくさん考えよう!」
(なんだ?一瞬、思い詰めた顔してたような……リサんときと同じ感じがしたが……いや、リサの時とは違うな。なんかこう、焦っているような、諦めてるような……そうだ……俺が仕事中によく利用者さんや患者さんから感じる、あの感覚に近い……悟ってるっつうか、上手く言えねえが、そんな感じに見える……ま、気のせいだろうけどな。)
リサは勉強があるため先にログアウトした。
「ねえ花。タクの件、どう思う?」
ランスが真剣な顔になる。
「どうって?普通に顔認証でバレて、普通に俺らに捕まって、ジエンドじゃねえか?」
「そんな単純にいくだろうか……
リサさん、バイトは増えるけど、本格的に受験勉強が始まって、修学旅行も控えてる。
もし、旅行に備えて、受験勉強三昧だとしたら、運営からのメッセージをみる余裕って、あるのかな?」
「………んー、でもまあ、マネージャーが連絡くれるんだろ?なら、どのみち時期はわかるんじゃねえか?」
「そこなんだ!……僕だったら、いくらスケジュールを把握してくれてるとは言え、プライベートなことまで、マネージャーに言うだろうか?って思ってね。
"明日からゲームします"って、わざわざ宣言するかな?」
「それは確かに、無くもねえな。よくそこまで思いつくな、すげえわランス。
俺がピンチの時も、リサの時と同じくらいの熱量で、心配してくれよ?」
ランスは顔を赤くする。
「そ、そ、そんなの、当たり前じゃないか!」
(ぷっ、わかりやすい!良いねえ、未来ある若者は!その気になれば、リサとも可能性はゼロじゃねえんだからなあ。夢があって良いことさ。………ふっ……笑いそうになるぜ。なに羨ましがってんだか……俺はもう、そんな可能性なんて1%もねえのにな。女子高生と付き合いたいとかじゃねえ、ご法度なのは大人としてわかってる。
いや、そんなことが気になるんじゃねえ……年齢とか関係なく、この世のどこかに、自分を想ってくれる人に会う確率って、実際どんくらいなんだろうな)
「ま、冗談だランス。お前は良い奴だ。俺は信じてるぞ?」
「?。どうしたの?いきなり真面目になって。気持ち悪いなあ。」
「き、キモいとはなんだ!
まあ、確かにこっちにログインしてくるタイミングやそこらは、イレギュラーがあっても不思議じゃなさそうだな。
その辺は、あえて言わなかったのか?」
「う、うん。だって、これを伝えても、僕たちじゃあどうすることも出来ないよ。不安を煽るだけかなと思ったんだ。」
(こいつ、本当にガキか?想定年齢の割に、かなり頭良いぞ?
俺のガキの頃には、まだ秘密基地とか鬼ごっことかして、毎日アホなこと叫んでたけどなあ。
ま、俺と一緒にしたら悪いな。)
「まあ、確かにそうだな。そうなると、もう覚悟決めるしかない。
想定させることはできるかもしれねえが、同時に不安にもさせる。
今は勉強に集中させなきゃならねえから、ランスのは正解だと思う。」
「あと……僕はいっそのこと、受験が終わるまで、ALOはお預けでいいと思ったんだ。
人生が決まる受験なんでしょ?
だから、本当は作戦会議といいつつ、第一案は、3月までログイン禁止にして、その間に僕らで解決する。
そう言おうと思ったんだ。これなら確実に合わないからね。
けど、学費のことが先に出たから、第一案はすぐ却下だったんだ。」
「そこまで考えたんだな。
まあ、そこはしょうがねえ。てか、どのみち無理だ。
リサはこの世界を息抜きにしてるし、メリハリのルーティンにもなってる。
まあ、危険がありゃ辞めるだろうが、その選択肢は元々本人からも無かったんだ。
それをすると、受験が終わってもずっと逃げなきゃならないって。
難しいが、まあ、あとはなるようになるしかねえってことだ。
俺たちは、やることをやるだけだ。」
ランスは花を見て頷く。
「そうだね。すごいな花は。僕はドキドキしてならない。
いつ現れるのか、どんな奴なのか。」
「自信を持て、お前は頭良いし、俺よりなんぼか頼りになるよ。
もう少し、肩の力を抜け。
そうだな。
沖縄では、リサは、マリンスポーツするかもしれねえぞ?
どんな水着着るんだろうな?
どうよ、ランスはリサが着るならどんな水着姿が似合うと思う?」
「な、な、なにバカなことを!
そ、そ、そ………」
ランスの顔が真っ赤になる。
「そ?"そ"ってなんだ?ああ、素朴なやつってことか?」
「ち、ちがーう!!リサさんなら、派手目が似合うよー!………あ。」
……………
「ぷっ!ああ、そうだな、そんくらいで良いんだよ。少しリラックスしろ!
力んでると、足元すくわれるぞ?
お前は落ち着いて、淡々としてる方が、きっと力発揮するタイプだ。」
「え!?あ、ああ、そう言うことか。あ、ありがとう。なんだ、冗談か。」
「というわけだ。
じゃあ、俺も早めにログアウトする。
派手目か、なかなかセンスあるぜ、ランス。
じゃあな!」
シュン!
‼︎‼︎
カーテンが開く。
「失礼します。夕食持ってきまし…あ、あら?
どうしたの?顔が少し赤いわね。ちょっと待ってね、今熱を………んー、熱は無いわ。
気分は悪く無い?」
「え、ええ、大丈夫です。ちょ、ちょっと、水…着を……」
「え?水が欲しいの?」
「あ!いえ、ちがいます!なんでもないです!ごめんなさい。夕食ありがとうございます。完食できるように頑張ります。」
「何かあったらすぐにナースコールで呼んでね。」
そういって、看護師は静かに去っていく。
(……………花のエロ野郎!!)
ランスはやけ食いし、珍しく完食した。
こうして、皆の連休は幕を閉じた。
ランスの不安は的中するのか?それとも、花の余裕が功を奏すのか。
この後、思わぬ展開が待っているのだった。
第六十二話 完
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ランスの意外な鋭さと、それを受け止める花の大人な対応。
そしてラストシーン……。
「まさかランスって……?」と、ピンときた方もいらっしゃるかもしれませんね。
現実とゲーム、それぞれの場所で戦う彼らの物語をこれからも応援していただけると嬉しいです。
「水着の好み、ランスらしいな」と思った方は、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】やブクマで反応をいただけると執筆の励みになります!
現在、コンテストにも参加中です。皆さまの応援が、次のエピソードへの一番の原動力です。
今後とも hanaXIII をよろしくお願いいたします!




