第四十三話 PK
人生は、一度きり。
それは現実でも、
そして――この世界でも、同じなのだろうか。
やり直せることと、
取り返しがつかないこと。
その境界線は、
誰が決めるのだろう。
「失礼します。入りますね。」
シャ。
カーテンが開く。
「あら、どうしたの?お勉強??」
「はい。今からちゃんと勉強しておかないと、将来困ると思って。」
「いい心がけね!素晴らしいわ。一旦いいかしら?」
看護師は検温などの測定を一通り済ませる。
「うん。変わりなし。安定していますね。
じゃあ、勉強頑張ってね。」
「あの……大学って……楽しいですか?」
「んー…わたしは専門学校だったけど、大学行った友達は、楽しそうにしていたかなぁ。いつも羨ましいなあって思ってた。どうしたの?大学に興味あるの?」
「はい。まだまだ10年くらい先だけど、ネットで調べたら、今からやらないとみんなに追いつけないと思って。」
「凄いわね、ヒアサさんは。わたしがそのくらいの歳は、歌手やアイドルにキャーキャー言い始めたころで、全然勉強なんかやらなかったから、偉いと思う。」
ヒアサは思わず顔を赤らめた。
「み、みんなみたいに、体力があるわけじゃないから。人生一度きりだし。頑張ろうと思って」
「うん!その調子!応援してますね。」
(そうだ。人生は一度きりなんだ。)
◆
「PK、つまりプレイヤーキルのことで、プレイヤーがプレイヤーを倒してしまうこと。
やられたプレイヤーのアバターは、消滅してしまう。
ただし、PvPの任意のバトルなら、アバターは消滅まではしない。その代わり、すぐに復活させるならば、ゲーム内のお金、もしくは課金での支払いが必要となる。それらがダメなら、1日空けて、翌日にログインし直すことになる。」
「ふむふむ。もし、PvPの合意がない時にPKされたら、消滅した後はどうなるんだ?」
「………そのキャラは二度と使えなくなる。
実質、この世界での死を意味するんだ。
積み上げてきたもの全部。消えてなくなる。
だから、それでもプレイする場合は、また一からキャラを育て直さなければならない。」
「ふーん。なんだ。そんなことか。
で?なんでタクの野郎をPKしたら、課金で戻って来れるんだ?消滅するんじゃねえのか?」
「課金できるということは、初期装備から、アイテムまで、現実の課金により、キャラを強化できる。
つまり、たとえキャラを葬ったとしても、お金の力でゾンビのようにまたフル装備で現れる。ということになるね。」
リサの顔は青くなる。
「ごめんね、リサさん。不安にさせるようなこと言ってしまって……」
リサは首を横に振る。
「いいの、これはわたしも理解してることだから。多分タクはそうすると思う。
あんなやつだけど、しっかり稼いでるの。仕事自体は曲がったことが嫌いで、ストイックだから」
(へぇ、意外と真面目なやつなんだな。人から巻き上げたり、ズルしたりしねえということか。タク………高校生って、まだガキじゃねえか。
そんなにストイックにやるって何か理由があるのか?)
「なあ、そのフル装備ってやつは、今の俺たちでも勝てないのか?」
ランスは少し考える。
「いや、それは無いと思う。
なぜなら、スキルや基礎ステータスは前作の引き継ぎじゃない限り初期値だから。
あくまで武具が整っている。という話だね。
けど、このビギナ大陸に踏み込むレベルの素人じゃあ、装備揃えられるだけで無双状態になっちゃうかな。」
「なら、取るにたらんな。」
「いや、花は気をつけた方がいい。なぜなら、防御力やHP、体力はほぼ初期値だから、当たりどころが悪ければやられちゃうよ。」
「……………なるほどな。まあでも。俺はアバターがリセットされても、何も影響無いぞ?」
「はいはい。うさ晴らしにはステータスとか、あんまり関係ないからでしょ?」
「お、よくわかったなリサ。だがまあ……今はダメだ。
お前らとせっかく仲間になったんだ。
アバターが初期値じゃ足を引っ張るだけだからな。」
リサの顔が明るくなる。
(花さん、少し変わったかな?少し前だと、他人に左右されない感が強かったのに……今はわたしのために……)
「よし!PKのことはわかった!じゃあ、それを踏まえて、俺たちやリサがどんなスキルを取るかが重要ということだな?」
「その通り。一度校内に戻って、スキルを閲覧しながら検討しよう。
時間ももう遅いから。僕は一旦ログアウトするね。
また明日合流しよう。」
そう言って、学内のセーブポイントまで戻り、ランスは早めにログアウトした。
シュン。
「ランス、こんなに早く上がるなんて。
まだ現実時間でも夕方だけどなあ。」
「何か事情があるんだろう?それより、リサはどうする?いくら連休とはいえ、勉強もあるんじゃないのか?」
「むむむー。そうなんだー。一日に最低でも3時間はやろうって決めてるから、わたしもそろそろかなあ。」
「まあ、そっちが本職だからな。こっちはできる範囲でいい。ランスが加わってくれたんだ。
何か良い作戦でも考えるさ。
もちろん、俺も力になる。」
そう言って、リサの頭をガシっと撫でる。
「うん!ありがとう!じゃあ、またログインする時間はメッセージ送るねー!」
シュン!
ランスとリサは早めにログアウトした。
花は校内にポツンと残された。
(ふ。くくくく。今から俺はフリー。時間はたっぷりある。さっそくうさ晴らしに行くぜ。)
不敵な笑みを浮かべながら花はどこかへ走っていくのだった。
第四十三話 完
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今回は現実のヒアサのシーンから始まり、ALOのデスペナルティという重いテーマを扱いました。現実の重みを知っている花だからこそ、課金で解決しようとするタクの在り方に思うところがあるようです。リサへの「頭ポン」で見せた優しさと、ラストで見せた「うさ晴らし」前の狂気。花の二面性が際立つ回となりました。
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