第四十四話 分かれ道
二十二年前、ある「分かれ道」で選んだ選択が、一人の青年の運命を大きく狂わせました。
語られるのは、花の胸の奥底に沈殿する、理不尽な過去の記憶。
現実世界で「無能」の烙印を押された男は、今、仮想世界で解き放たれます。
王都の裏門を抜け、未知の領域へと足を踏み入れる花。
誰にも邪魔されない「うさ晴らし」の果てに、彼が辿り着く場所とは――。
--22年前。
「いつになったらアルバイトするの?知り合いの大学生のお兄さんは、親の負担を軽くするために、大学行きながらアルバイトしてるみたいじゃない?」
「かあさん。何度も言うけど、大学生と専門学生を一緒にせんでよ?しかも医療系なんやけん、こっちは。
その大学生以上に学力の高い子らでも、ヒーヒー言いながら勉強せんと、置いてかれるんやけん!」
「ああもう!あんたは、ほんっっとうにわかってない!わたしが一人でどれだけ苦労してると思ってるの!?
わたしのためを思うなら、アルバイトしながら一銭も迷惑かけずに、勉強も両立させるのが普通でしょう!?」
(何言ってんだ?じいちゃんとばあちゃんがお米を買ってくれたり、食費を出してくれたり、甘えまくってるじゃないか。しかも、この前あんたは俺たちを置いて旅行まで行ってる。
どこが余裕無いんだよ。
ほんとこの人は俺に対して理不尽だ。何も理解してくれない。
ーーその年、俺は留年した。
アルバイトをしてクタクタで勉強にかける時間は無かった。
言われた通りにアルバイトをしたが、留年した俺を母は責めた。そう、それから死ぬまで母は俺を無能扱いして差別した。
自分がそう仕向けたのに。
今思えば、親の要求なんか無視して、俺もばあちゃんに甘えれば良かったんだ。
そうすれば、留年せずに済んだ。俺の人生の汚点だ。
その選択こそが、運命の分かれ道だった。
◆
花は訓練場からまっすぐ壁に向かって走っていく。マップで裏門があることは把握していた。
裏門には警備兵が王都から派遣されているようだ。
「待て!ここから先は森だ!何か実力を証明できるものはあるか?!」
「ん?実力?……何を示せば良いんだ?
あんたらと戦ってぶった斬ればいいのか?」
「ぶ、物騒な冗談を言うな!カレッジ生と戦うほど、我々も無謀じゃない!
例えば、冒険者ランクを示せる物はあるか?
あれはこの世界の身分証明書のような物だ。
その名の通り、ランクが高ければ身分が高いとみなされる。このエリアからの侵入では、Eランク以上じゃないと通せない!」
花は冒険者の証明書を見せる。
「ら、ランクC !?
し、失礼しました!」
花は難なく通過した。
(……?。なんだったんだ、あいつは。まあいっか。
さてと、こっからはあそこが近い!)
門を出ると、森までは少しの距離があり、見晴らしの良い平原が続く。
花は走り続けて、そこから森へ入る。
さっそくモンスターのお出ましだ。
空中で回転斬りを決める。
何匹ものモンスターが同時に散らばる。
「こりゃあいい、ソードスキルは脳内イメージでスクリーン展開して発動できるんだな!」
花はある場所を目掛けて一直線。モンスターの量は多くなるが、威圧は使わずにソードスキルとオリジナルの動きを混ぜて狩りまくる。
「しゃあー!最高ーー!」
花は久しぶりのうさ晴らしに歓喜している。
もう何十匹ものモンスターが犠牲になった。
——効率も経験値も、今はどうでもいい。
ただ、振り抜けるこの感覚だけが、花を救っていた。
花は森の端までたどり着いた。
左はさらに深い森。右は傾斜のある丘。
もちろん、右を選んだ。
「ここは前に狙ってたポイントだ。
もしかすると他のプレイヤーが先に行ってるかもしれねえが、"そんなの関係ねえ!"だ。
この丘を超えた先、マップもまだ空白。
一体何があるか楽しみだ!」
花はワクワクしながら走っていくのだった。
第四十四話 完
最後まで読んでいただきありがとうございました。
花の知られざる過去、そして医療系学生としての苦悩が描かれた回となりました。親の理不尽な要求に応えようとした結果、大切なものを失ってしまった後悔。そんな彼だからこそ、今の「ハナ」としての自由な時間が何よりも尊いのかもしれません。
ラスト、マップの空白地帯へ向かう花のワクワク感、皆様にも伝わりましたでしょうか!
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今後ともよろしくお願いいたします。




