第十一話 初心者の森
今回は少しだけ、主人公の過去に踏み込みます。
現実で削られ、失ったもの。
そして、ALOの「初心者の森」とは。
静かな始まりの回ですが、ここから物語は大きく動き出します。
第十一話 初心者の森
結婚してから、俺はある提案をした。
お互い共働きだから、一緒に貯金していこう。
定額をお互いに出して一つの通帳に貯めていくのはどうだろうかと。
「え?嫌だけど。なんで、わたしが稼いだお金、あなたと一緒に貯めなきゃならないの?絶対に嫌。」
ならばと、生活費は割り勘でお互いに自己責任で貯めることを提案した。
「え?なんでそうなるの?生活費はあなたが養うものじゃない。わたしは嫌よ。なんで出さないといけないの。」
この繰り返しだった。
先々のことを考えて、2人で貯金した方が良いことも説明したが、堂々巡りだった。
そして、子供が生まれてしばらくしたある日、いよいよ二人でお金を出し合わないといけない場面があった。
「貯金?無い。50万くらいしか」
俺は唖然とした。何年経つと思っていわる。
生活費は俺がほぼ出していた。なのに、俺と同じくらい稼いでいる妻がまるで貯金していなかったのだ。
「あきれるよね? 嫌になったよね?」
今更何言ってるんだコイツは。ここまでやばいやつだったとは。
俺の想いはますます冷めていった。もう笑うしかなかった。
もう何も当てにするな。いないものとしよう。
そう思うことにした。
◆
次の日、クリスマス、俺は仕事を早めに終わらせ、家ではサンタの変装をして子供を笑わせた。
その夜、妻は当然のように21時には就寝。もちろん何があってもこの時間だ。
俺は逆に感謝した。
夜だけは俺の時間だ。
さっそくALOへ。
今日は初陣と決めていた。
はじまりの都、ロビー。
昨日リサから半ば強引に狩りのできる場所を早めに聞き出し、チュートリアルは途中で切り上げた。(実は完全には終わってなかった)
さっそく、初心者の森へ向かった。
前作を経験している分、
操作は簡単だった。
しかし、敵を倒すときの感触はさらにリアルになっており、俺は感動していた。
そして、体の動きもよりリアルになっており、前作同様、様々な動き方で無双した。
それがまた快感で、ストレス発散ができていた。
その動きとやらも、凄いことが判明した。
昨日の残りポイント。実はーー。素早さと回避に振ったのだ。
素早さは攻撃する速度や通常の動きの速さ、回避は反応速度や回避する際の身のこなし速度
この二つはよりうさ晴らしをするのに効果的だと思い選んだ。
動いていて思ったが、相互作用がありそうだ。
少し気になった俺は、もしまたリサと出会うことがあれば聞いてみようと思った。
すごい、凄すぎる、何という動き!
俺は感動していた。
前作試していた動きのバリエーションが何段階も速く繰り出せる。
「最高だぜ、ALO」
今日の狩りを終え、再びロビーへ戻った。
すると、リサが受付にいるのだった。
「あ、花さん!おーい!」
(そんなピンポイントでプレーヤーに声かけて良いものなのか?、、、って、周り居ないから仕方ないか。)
「あ!今、なんで俺にピンポイントで話しかけてくるんだ?って思ったでしょう?!めっちゃ顔に出てますよー!」
リサのアバターは相変わらず可愛いが、頬を膨らませる表情などもリアルだ。
今作も受付で換金できるらしい。
しかしあることに気づく。
換金額があまりにも少ない。
「ああ、換金ですよね?今回はスケールアップしたのもあって、初心者の森は超低級難易度だから、ドロップマネーもごくわずかなんです。」
「ああ、なるほど、、、ここらでいつまでも居るより先に進めるように誘導しているというわけか。さすが、よく考え込まれている。」
クリスマスではあるが、違うゲートは賑わっていることをリサから聞く。
「ほかのゲートに入ってみます??」
「いや、けっこうです。ここで大丈夫。」
「そういうと思いました!」
リサはまた可愛く笑う。
「なあ、変なこと聞いて良いか?
受付嬢は、決まったアバターか何かなのか?みんなリサのような顔してたら、見分けがつかんな」
「あ、もしかして、わたしを目当てに来てくれるってことですか〜?」
「もういい、では、ごきげんよう」
「ごめんごめんごめんなさいー!冗談ですよー!
いえ、アバターはあくまで自分で決めます!
でも、この服だけは指定されたものですね!」
「そうか、なら良かった、もし何かわからないことがあったらリサさんをすぐ見分けられる。」
「花さん、、、わたしを気に入ってくれてありがとう。わたしのことは、リサって呼び捨てで呼んでくださ、、、」
リサは目を潤ませてお祈りのポーズをとる。
が、俺は食い気味に受け答えする。
「また同じ説明やリアクションされるのも面倒だしな、昨日の経緯やらを全て把握してくれる人の方が早くて良い。これからも頼むな、リサ」
「は、はい、、、承知しました。」
リサはしょんぼりしていたが、ネタのリアクションの範疇だ。
いくらアルバイトとはいえ、リサのコミュニケーションスキルは高かった。
ふと、俺は仕事やプライベートを思い出していた。
「リサは凄いな。何歳かは不明だが、アルバイトの身でここまでプレイヤーと話せるなんて、俺なんて仕事でも家でも話すのは得意じゃないからな。なんというか、明るいのって凄いことだよな。」
リサはポカンとしている、同時に少し赤くなった。
「そ、そ、そ、そんなことないですよ!明るいだなんて、けど、そう言っていただけるとなんだか元気が出てきます!」
また、にっこり笑った。
その笑顔に、なんだか救われた気がした。
やらしい意味では無い。
なんかこう、浄化されるような。
(ああ、この子はまだこれからの子なんだな。こんな子は幸せになるべきなんだ、そうでなければいけない。
俺のような思いはしてほしくない。)
自然とそう思った。
「どうしたんですか?花さん?考えごとですか?」
「あ、いや、いいんだ。悪い悪い、ありがとうリサ」
「え?ふえ?あ、はい!こちらこそありがとうございます!
あ、あの、、もし何かあったら何でも言ってくださいね!
何でも大丈夫ですから!」
「、、。この仕事は暇なのか?」
「んもう!」こんどは頬を膨らませる。この子はからかいがいがある。
「冗談冗談!、、、ありがとう。では。今日はこれで」
(花さん、、、何か思い詰めてたような。
これ作った人のオリエンテーションで言ってた通りかも。
今作は、よりこのゲームを良きものにするために、人の拠り所にもしていきたい、、、か。
花さん、鬼畜プレーヤーっぽく見えるけど、そうなるにも何か原因がきっとあるんだよね。
誰にでもあるよね、悩みの一つや二つ、、、そこを上手に消化してるんだ花さんは、、、。
わたしも見習わなくっちゃ!)
この日から、リサはこの時間帯にシフトを入れることになった。
ALO。
その目的の一つに、人を救うというコンセプトがある。
それは、まさに俺やリサ、全てのプレーヤーに贈る、製作者からのギフトだった。
(あ、いっけね、素早さと回避のこと聞くの忘れてたわー!ま。またリサに聞けばいいさ)
第十一話 完
初心者の森は、誰にでも平等に用意された場所です。
強さも、過去も、一度リセットされる。
ALOが「人を救う」ゲームである理由が、
少しだけ伝わっていれば嬉しいです。




