第十話 引き継ぎ
第十話「引き継ぎ」です。
人生もゲームも、選択は自己責任。
……わかってはいるんですけどね
今回もよろしくお願いします。
ある友人が言った。
「そりゃあ、お前がせっせと家事をやるからいけないんだよ。奥さんは、それを『お前がやって当たり前のこと』として認識しちゃうんだ。一度、やらずに放置してみろって。そのうち向こうが痺れを切らしてやるから」
なるほど、一理ある。そう思った俺は、さっそく実践してみた。
洗濯物は毎日、着実に溜まっていく。
二日目、三日目。そして四日目。それでも妻は何もしない。
そこで俺は、ある重大な事実に気がついた。
――明日、俺が着ていく服がない。
結局、俺が溜まりに溜まった洗濯物をすべて片付けることになった。
「話が違うじゃないか」と友人を問い詰めると、彼は事もなげにこう言った。
「じゃあ、新しい服を買いに行けば良かったんだよ! そうすれば負けることはなかったのに」
……あっぱれだ。
いわゆる「リア充」な連中は、こうして強引に自分の領土を確立していったのだろうか。
結局のところ、すべては俺の招いた行動であり、俺の敗北だった。
俺が未熟だったせいだ。
そう思うことにしよう。
◆
「NPCじゃない……。今回は運営スタッフまでフルダイブしてるってことか。かなり気合が入ってるな」
「今回は世界規模のプロジェクトだからね。運営側もリアルタイムで微調整するために潜ってるの! ……それにしても花さん、他の数値も確認させてもらっていい?」
リサに促され、俺はステータス画面を共有した。
どうやら前作において、俺の『攻撃力』はすでにシステム上の上限に達していたらしい。上限を超えて獲得した経験値やポイントは、ステータスには反映されず、内部ポイントとして蓄積されていたようだ。
「これも、引き継ぎでもらえたってことか?」
「は、はい……。あの、数千ポイントもあります……」
リサが引きつった笑顔で答える。(一体、前作でどれだけ狩り続けてきたの……?)という心の声が漏れ聞こえてきそうだ。
「よし、じゃあさっそく、これも全部『攻撃力』に――」
「だ、めええええええっ!」
リサの絶叫が響いた。
「ど、どうした? 何かいけないのか?」
「あ、いや……プレイヤーさんの自由ではあるんですけど! その、すみません、つい私情で反応しちゃいました……!」
あたふたと手を振るリサ。何かためになるアドバイスがあるのかもしれないと思い、俺は彼女の意見を聞いてみることにした。
「先ほどもお伝えした通り、花さんの攻撃力はすでに上限値で、トップギルドの平均すら大きく上回っています。彼らの他のステータス平均は1000前後、HPでも2000前後なんです。だから、この残ったポイントを他の項目に振り分ければ、もっと有意義な戦いができるんじゃないかなって……」
「ふむ、なるほど。攻撃力はもう十分すぎるから、これ以上注ぎ込むのはもったいない、ということか。確かに、その辺の雑魚相手なら一撃で倒せるしな」
(……やっぱり『その辺の雑魚』相手にプレイするつもりなんだ。もったいないなあ……!)
リサの心の声は、その顔にありありと浮かんでいた。
「じゃあ、例えば何に振るのが正解だと思う?」
「ええっ、そうですね……私はチュートリアル専門のスタッフなので、あくまで余計なアドバイスとして聞いてくださいね。例えば『防御力』を上げれば、ダメージを受けにくくなります。花さんの攻撃力があれば、多少の被弾を気にせず攻め立てるだけで、大抵の敵は沈められるはずですから」
「なるほどな。長所を活かすための振り方か」
「はい。なので、じっくり考えてから決めても遅くないかなと――」
「そっか。よし、決めた! これだな」
ピコン、と小気味よい操作音が響く。
「あーーーーっ!? そんなに早く決めていいんですか!?」
「いいのいいの。説明ありがとな」
俺はあまり深く考えていなかった。
指定した箇所も、当然リサのアドバイスとは全く別の場所だ。
この時の選択が、後の戦いにどれほどの影響を及ぼすことになるのか――。
一通りの説明が終わり、ロビーに戻る。
相変わらず、周囲に人の気配はない。世界的な人気ゲームの初日とは思えない静けさだ。
後でリサから聞いた話では、俺が選んだゲートがたまたまだっただけで、他のゲートには数え切れないほどのプレイヤーが溢れ、お祭り騒ぎになっていたらしい。
「よし。今日はチュートリアルやら初体験ばかりで時間を取られたが、明日の夜また来るとするよ。ありがとうリサさん、助かった」
「ごめんなさい、時間を奪っちゃいましたね。また何かあったらいつでも声をかけてください!」
「……ああ。でもさ、アルバイトって言ってたよな。これだけゲートがあって、世界規模のゲームなら、もう二度と会えない可能性だってあるだろ。なら、これも一期一会だな。今までありがとう、リサさん。元気でな」
「ちょ、ちょっと待った! 勝手に今生の別れにしないでくださいよ!」
リサが慌てて俺を呼び止める。
「確かに花さんの推測は鋭いですけど、私たちスタッフもある程度シフトや持ち場が決まってるんです! 時間帯も大体同じだから、またお会いすると思いますよ!」
リサはそう言って、悪戯っぽくニッコリと笑った。
(……可愛いな。まあ、アバターなんだろうけど。狩りが目的だし、また会えるならそれでいいか)
「あ、おう、そうだな、またよろしくな、リサさん」
俺はそう告げて、その日はログアウトした。
最新のフルダイブ技術がもたらしたのは、圧倒的な映像美だけではない。
そこにはNPCではない、生身の人間との「出会い」が必然として組み込まれていた。
そんな些細な出会いの積み重ねが、俺の止まっていた人生を、少しずつ、しかし確実に変えていくことになる。
第十話 完
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ついに引き継ぎポイントを振り分けた花。リサの親切なアドバイスをあえてスルーし、彼が選んだ項目とは一体……?
「説明書を読まない」「助言を独自解釈する」というおっさん特有のムーブが、最強への道にどう繋がるのか、ご期待ください!
そして、リサとの再会の約束。
孤独な憂さ晴らしだった花のゲームプレイに、少しずつ「人との繋がり」という彩りが加わり始めます。
「この先が気になる!」「おっさん頑張れ!」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価ポイントでの応援をお願いいたします。
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もう一つの作品**『Ultimate Wars ー 才能なしの人生だった俺、宇宙の危機で人類の切り札になる ー』**も更新中です。
引き続き、hanaXIIIの物語をよろしくお願いいたします!




