ミレイ回復期
ミレイが静かになった。
ようやく寝たようだ。
我慢強いのではなくて、ミレイのスキル体質であることはわかっているけれど、わたしの持ちモノでよければ、すぐに貸したのに。
魔改ナイフが、どれほど役に立つのかはわからないけれど、魔力出力を抑えめにしてあるから、少しはミレイの補助にはなるかもしれない。
「こういう使い方もあるのね」
わたしの装備のベルトごと、ギュッと手に抱えている姿は、見る悪魔によってはセクシーなのだろうか。
それとも、なんだか子どもに戻ったように見えるだろうか。
とりあえず、テーブルに並べられている作業に、集中する。
泊まる部屋のほうで、しばらく仕事にかかっていたけれど、黒鉄が「ま、ここまでで、あとは後日ということにしましょ」と言って解放された。
あまりに部屋が散らかっていたため、メディが来たら片付けをしていたけれど、メディはそのあと、仕事の確認に入ってしまった。
わたしとは部署が違うため、あまり聞き入ってはいけないだろうと、作業道具だけバックに詰めて部屋をでた。
あの調子じゃ何時間も仕事をしそうだ。
わたしが秘書の代わりになれればいいけれど、メディの部署は機密がおおいらしく、気をつかってしまう。
ミレイもたぶん総てを管理しているわけじゃなさそうだ。
どこが作業にいいだろうと、少し建物内を探してまわったけれど、ミレイの療養室ならミレイの様子も観察できるし、丁度よいだろう。
一度見にきた治療士にも、許可をとってある。
「スズネには、どんなのが合うんだろう」
このところ、スズネにやってもらうことが、多くなった。
ヒイロやアマツキの話しもそうだし、ミレイのこともなんだか、スズネが気にかけている。
前は後輩悪魔だから、という理由で勉強になるかもしれないと思ったけれど、いまは頼りにしている。
アマツキもだいぶ明るさがあって、天使スキルに前向きになっている。
別れるときには、アヤネが心配そうにしていたけれど、アマツキは徐々にアマツキ自身のことを把握しているようだ。
「飾りをどこまでにしよう」
プレゼントにもらったお礼というより、魔除けみたいなものにしたい。
魔力はそんなに力強くではなくても、持っていても、そんなに気にならないで、それでいてスズネが使いたいように使えるという理想だ。
「問題は甘めにするか、パンチ効くようにするか」
スズネからもらった指輪をテーブルに置いて、キズつけないように眺める。
スズネは、二つ選んでいたみたいだった。
ひとつは、途中からはメディになんだと、わかってきた。
だから、もうひとつはヒイロに渡して交換するのかもと想像した。
それが、二つめはわたしだった。
「なんでスズネは、わたしにプレゼントだったのかな」
先輩として、少しは教えていた時期もあったけれど、仲が良いのはミレイだし、ヒイロとは気があうらしい。
だから、わたしに宛てたプレゼントとは、どういう意味なのか、まだ考えている。
そう想うと、プレゼントとはだいぶ特別な意味らしい。
わたしはクラフトのおかげか、造っては渡してしまうため、贈りものとしてもあるけれど、依頼されたり仕事としての意味もある。
いくつか作品は、クイーンの城に飾られているし、わたしの保護した悪魔たちの施設に寄贈したものもある。
悪魔ノートに、これまでの作品の飾りや魔力付加の描き込みをパラパラとめくっていく。
なかには、失敗もあったけれど、経験数だと思うことに、している。
これ、と思うことはスズネの項目に付け足していく。
けれど、なんとなくまだ、決めたとならないのは、ミレイが大事そうにナイフを抱えているからだ。
そんなに、大事そうに扱ってくれるのなら、こちらの造る作業も、もっと真剣にしたい。
スズネのことを想い浮かべる。
後輩悪魔でありながら、もう近しい悪魔になり、ヒイロやアマツキの面倒をよくみている。
かなり生意気でも、ギャルっぽいことを抑えめにしはじめたら妙に色気があり、それなりに女の子っぽい面がある。
わたしよりたぶん繊細で、メディに頼る部分もあり、そして、けっこう自分自身に対して見方が厳しいらしい。
「つまり、わたしより色っぽくて、それでいて生意気なのが、またかわいい」
はぁとため息だ。
特に意識しないでいるけれど、なんだか負けている気分だ。
ミレイは、とても美悪魔だし未来的だし、実はわたしは、存在感は薄いのかもしれない。
やや脱線ぎみにそう考えつつ、少しずつスズネに対しての作成するものが、具体的になってきた。
「上手くもう少しまとめてみなくちゃ……」
考え集中して描き込み、またやり直し。
カタチを寄せて集めているうちに、だいぶ時間が経つけれど、変わらずにミレイは寝ているようだ。
貸したナイフは、効いているのかもしれない。
ときどき胸あたりにある宝石を触る。
この宝石ほどに完成度が高くないかもそれでも、スズネに想いをできるだけ積みたい。
いつだったか、クイーンに言われた。
カタチがあってもなくても、伝えられるクラフトは、才能なのだと。
付加と負荷。
才能と努力。
魔法はカタチにならなくても想い。
「だいぶできた」
まだ、持ち手のないナイフの刃だけを上にかざす。
いくつかの控えめにした飾り。
この飾りの意味はスズネには、わかるだろうか。
魔力付加の装置も造った。
スズネに、上手く仕えるように工夫したものだ。
「あとは、持ち手と鞘ベルトね」
足元にあるバックから、また別の道具と材料を出していく。
ミレイが、また少しだけ夢をみているのかもしれない。
ときどき悪魔寝言のようなことをする。
ミレイも、もう少し普段からか弱いところでもみせれば、素直に接することができるのに、あまりにもわたしへの愛を表にだすものだから、返っていいやとなる。
けれど、ミレイと一番長いわたしは、わたししか知らないミレイと、わたしにさえみせない一面があることもわかっている。
せめて、メディの前でだけは、その一面がみせられていればいいのに、とここ最近では想うようになった。
長く生きるのは、そういうことなのかもしれない。
もしアマツキがこの先で、ヒイロにさえみせられないことが起こったとき、それでもヒイロと一緒に、いてほしい。
それは、わたしのささやかなわがままかもしれない。
持ち手と鞘の素材をなにしようかと、バックを確認していると、ミレイがなにか言った気がする。
「なに?」
「あ、ネネ」
「はい」
「だいぶ制御できるようになったかも」
「ほんと?」
「夢そんなに深くみなかった。回復してきてる」
「よかった」
「ナイフのおかげ」
「そんなに、効果あった」
「ネネの魔力って落ち着く」
「ふふ。魅力ってやつね」
「やっぱりいつも抱きついてるからいいのかしら」
「やっぱり魅力いらなかったわ」
「どうしてそんなこと言うのよ」
「ま、元気になってきたし」
「まだ寝てるわ」
「そう、わかった。でも回復してるなら、明日には動けるね」
「そう……そうね。シャワーしたい」
「あとでいってきなさい」
「ネネと一緒……」
「そこまで甘えるの?」
「ネネの柔らかい素肌」
「やっぱりもう少し寝ていて」
「そんな」
「持ち手、鞘とベルト」
「あぁそっちね」
「けっこう進んだわ」
まだナイフの刃だけのものを一度、くるんでしまう。
「みせてね」
「あとでね。なにか飲む?」
「うん」
まだポットは沸かしていなかった。
ひと休みにしよう。
ポットを沸かしているうち、ミレイはまだ眠そうだけど、意識はだいぶいいらしい。
そういえばわたしは宝石があるから、魔力切れでダウンするとかは、最近ほぼない。
これは、ミレイもなにかあったほうが、いいだろうか。
まぁスズネのあとにでも、考えよう。
「フルーツティー」
「温かいの」
「そうね」
アマツキに、あとで連絡しよう。
あとスズネにもだ。
とりあえず、紅茶を入れて持っていくと、ミレイはそれを大切そうに持つ。
横顔は、少しやつれただろうか。
でも、いい作業場所になった。
もう少しいてもいい。
そう想ったのは、だまっていようか。
「ネネそのナイフ、きっとタイセツなものになるわ」
「ありがとう」




