天使秩序
「はぁ……なんもわからないや」
「うん、わたしもかもね」
黒鉄鳥に契約してもらったのはいいけれど、その後いくつか質問してみても、まったくわからない。
なにがわからないか、というのは、わからないから、わからないらしい。
「不明のなかにもうひとつ行方不明らしい」
でも、それなのにヒイロは、なんだか楽しそうだ。
どうしたら、不明が楽しいのか。
「ふふ」
「なんで、そんなに楽しそうなの」
「え……アマツキは、スキルを覚えたいんでしょ」
「うん」
「つまりは、なにかしたいと」
「うん」
「ふふ」
ぼくには、ずっとヒイロの思考は読めないかもしれない。
この先ずっと、わかる気がしない。
黒鉄鳥は、ある程度質問に応えてくれたあと、やっぱり忙しいそうに、また飛んでしまった。
植物園のホールを上手くすり抜けていく姿が、印象的だ。
「もしかして、黒鉄もなにかミレイに頼まれたりしてたかな」
「探しものかもね」
「ミレイの?」
「そうそう」
そっか。
ミレイが、まだ休んでいるから、黒鉄は自分で、探しものにでかけているのかもしれない。
「はぁ……スキルムズカシイんだね」
「天使はまた違うって言われたね」
悪魔と天使の違いを実感すると、なんだかショックだ。
ヒイロは、基礎スキルも魅了もそれなりに使えていて、図書館でもたくさんの知識を得ているのに、ぼくはまだその辺り空っぽで、置いていかれている。
「黒鉄って賢くて、ずっとぼくよりたくましいんだね」
「ゆっくりやろ」
ヒイロがのぞきこむようにして、こちらを見ている。
その眼をあまり見ないようにして、植物園の下側に眼を移す。
黒鉄鳥がときどき飛ぶ姿が観えるものの、さきほどのとは違う個鳥みたいだ。
バックにあるノートを取り出して、パラパラとめくる。
隣にヒイロも来て、ヒイロは遠くをみている。
「ヒイロもみんなも、優しいよ。でも、不安なんだ」
「不安? スキルがなの」
「違うよ。洞窟でもあまり上手くできないし、ミレイが倒れたりして、ぼくはまだ、なにもできないんだ」
「アマツキは、わたしがなにかあったら助けてくれる?」
「それは」
「もし、わたしが崖から落ちそうになったら、アマツキはどうする?」
「そんなの自然と助けることになるよ。そのまま見捨てるなんてできないよ」
「そういうところじゃん。アマツキは、なにもできてなくない。きっと、なにかしてくれようとするよね」
「スキルがあれば、力をつけられれば、もっとできる」
「少し寂しいな。なんだかアマツキは、わたしじゃなくてもいいみたい……」
「そんなことない。けど、力がないことが不安なんだ」
「できれば、あまりアマツキに変わって欲しくないわ」
「ぼくは、もっと鍛えて変わりたい」
ヒイロが、すっとぼくのノートを奪ってしまう。
そのままノートを代わりにみてくれる。
「……の……やくには……ちつじよありて……」
「じよう…………やくに……とり……かず……」
「ヒイロ読めるの!?」
「ううん……天使翻訳はほとんどわからないけど、前に共通する部分もあるって」
「秩序?」
「うん。契約と秩序の項目なのかも」
「ありがとう」
「もっと勉強だね」
「これ以上、ヒイロは勉強するの?」
「いやだけどね」
「いやなんだ」
「いや……じゃない」
もしかしたら、いやなものとそうじゃないものが混ざっているのかもしれない。
「みんなそうなのかな」
「勉強のこと?」
「訓練とか、練習とか」
「練習は好き」
「どっちなんだろう」
「不思議ね」
「ヒイロがね」
ヒイロが、なんとなくくすくす笑うため、つられてしまう。
ヒイロは、勉強好きだと想う。
それは中央図書館にいる前から、たぶんそういう性格なのだろう。
「ぼくは、もっと勉強したい」
「もっと詳しくなろうよ」
「そうだね」
天使ノートを返してくれる。
改めてノートを広げるもやっぱりさきほどの文字は、読めない。
ヒイロは、すごいと思う。
きっとなんにでも熱心だから、身につくのだろう。
探検しているときも、いろんな話しをしてくれる。
「秩序……か」
「もう一度読む?」
「ううん。平気。でも条件があるってことかな」
「ジョウケン。少し違うのかも。状態とか運営みたいな」
「ヒイロの魅了は、条件とかありそうだよね」
「まぁね。でも読んだ感じは違うと想う」
「そっか」
少し考えたくなって一度戻って、下にいくことにする。
植物園のなかにいきたくなった。
ヒイロも後ろをついてくる。
「未来視は、禁書だよね」
「うん。たしかそう言ってた」
「それなら禁書のスキルは、ぼくには無理だから、未来視とは違うんだね」
「クラフトでもなさそう」
「時間は」
「有限にしてはじまるも変化する」
「刻は、無限にして始まりの刻」
「それ、あの説明文だよね」
「そうね」
ヒイロといくつか探検していたときに、絵の説明にそんなことが描かれていた。
それは、時間の絵なのか、とても抽象的だったことは覚えている。
下につくと、一度廊下を回ってから、また植物園に入る。
今度は、一階だ。
「さっきのは、二階かな」
「二階半かもね」
上を見上げると、さきほどいた場所が少し隠れてみえる。
いくつか黒鉄が飛びまわっている。
外を観たときにもいたから、いまは連絡で忙しい時期なのかもしれない。
「ヒイロは、使えそうなの?」
一階の自然にあふれている場所を少し散歩しながら、話す。
「もう少し、かなぁ」
「わかればってこと」
「スキルは、言葉だけじゃないからね」
「魔列車の……」
「あの調節みたいな」
そうか。
たしかに魔列車に乗るときに、魔力調節の話しをしていて、転移のときも内側と外側の話しを聴いた気がする。
でも、あのときには、酔いがひどくてあまり聴いていなかった。
ヒイロは、よく覚えている。
スキルの捉えかたがいいのか、それとも理解力の差なのか。
「さっきの言葉と、魔力調節」
割と自然にかこまれた場所のほうが、頭がすっきりするのかもしれない。
今度は部屋にばかりいないで、外でも頭を動かしてみよう。
天使ノートを取り出して、手にキュッと持ったまま、少し魔力を意識してみる。
ヒイロは、自然のほうに興味があるのか、いろんな植物を観察している。
植物は、いろんな種類のが植えられているようだ。
葉っぱが下がるのもあれば、上に実がついていもの、刺とげしているもの、木の枝がよく拡がっているものなど、観ていてあきない。
どうして自然のカタチは安らぐのに、天使はこう不器用なのだろうか。
なぜ天使は、より多くのヒトや仲間たちと有意義に過ごせないのだろう。
アヤネが、悩んでいたことは、そのことだろうか。
「魔力は、内側と外側。より自然に近いような……」
ヒイロが、なにか話しかけている気がするけれど、意識が遠い。
いや、よりなかにあって、外の意識が薄いのかもしれない。
魔力って、ぼくのはなんだろう。
あまり、上手く言葉にならないようなことを考えていた気がする。
ヒイロが眼の前で、にこりとしていて、そこで、いまなにか触れた気がした。
「アマツキ……アマツキ……るわよ」
「うん……なに? なにか言った?」
「天使ノート、みえてないの?」
「ノート。手には持ってるよ」
みると、文字が淡く光っている。
その瞬間に景色が違うものが、視える。
ヒイロが、抱きしめてくれていることと、その手になにか持っているような景色だ。
「できてるわよ」
「……なにが?」
「スキルいま使ったんじゃないの」
「スキルかぁ。そういえば、いまなにか視えたよ」
「それよ!」
なにか別の声が聴こえた気がする。
よく聴こえないけれど、ヒイロなのに、ヒイロじゃない声が聴こえる。
「え」
ようやくヒイロの表情を意識すると、少しずつ景色が戻っていく。
「消えかけのみたいだけど、スキルよ」
「これスキルかぁ」
ミレイの視えている景色をぼくも体験できたようだ。
「よかったわ」
ぼんやりとではあるけれど、四種類の景色や声が重なってみえた気がする。
「ミライ?」
未来の欠片だろうか。
未来視とは違うと言われたから、それよりも簡単なもの。
「どちらかしらね」
「移動してたら転移だよ」
「どう」
「時間の絵のなかみたいだったかも」
頭の隅で、声の残響がある。
秩序は、天使に必要なもの。
セカイにとっての揺りかご。
りんごの果実酒。




