契約写しスキル
天使ノートと悪魔ノートを並べる。
眼の前には、黒鉄鳥だ。
隣には、ヒイロが微笑んでいる。
「お願いします」
黒鉄が翼を広げたり、閉じたりしている。
なにかの合図だろうか。
「体操してる」
体操だった。
もしかして、疲れてるのだろうか。
「ゆっくりしてもいいですよ」
「ゆっくりとか……いまの黒鉄になってからあまりしてない」
「そうなんですか」
「こう見えて忙しいの」
あまり焦らせてもいけない。
「そういえば、わたしたちに使い鳥って、もうないのかしら」
「ヒイロは、いたことないの?」
「……うん。覚えてる限りでは、ないわ」
「ぼくは、たぶん元からいない」
「そうなの? 珍しい」
黒鉄が驚いている。
あまりみかけないらしい。
まだ体操している。
「黒鉄鳥って、どうやってミレイになったの」
使い鳥がいないことは、そんなに気にしていないけれど、もし相談ができるなら、いたほうがいい。
「使い鳥の仕組み? それともわたし個鳥のことなの?」
「どちらもかなぁ」
黒鉄は、パタパタと自身のノートを取り出して、同じように並べている。
「そうね。天使たちの仕組みとはけっこう違うけれど、鳥たちは基本的にクイーンの代理鳥みたいな扱いよ」
「代理?」
「クイーンの城で、新魔導書を管理しているのは、知っている?」
「なんとなく」
「管理している城で、膨大なこれまでのスキルと、新しく進化したり開発されたスキルは、新魔導書に記載されるわ。それらをチェックして危険と判断したり、秘密と判断するのもクイーンの仕事ね」
「そっか」
「だから、それらを図書館に置くようにしたり、司書たちに一部を報告してもらうの」
「うんうん」
「これまでの歴史で、数知れないほどのスキルだもの。探したり修行を教えたり、図書館と連携するのも鳥たちの使命なの」
「使い鳥たち、ちゃんとしてるんだね」
「通常の鳥たちは、悪魔や天使が一定期間のスキル訓練を受けた後や未老の期間が終わるときに契約にくるわ。でも、あなたたちは違うみたいね」
「……ぼくは捨てられた天使だから」
「でも、堕天使ではないんでしょ」
「堕天……」
「羽がにごってないもの。平気よ」
「アナタは堕落しない、って言われた」
「そうなの。それなら平気」
ヒイロが、不思議そうな表情だ。
堕落の話しは初めてかもしれない。
羽ににごりとかあるのか。
「堕落するのは、悪魔もあるのかしら?」
「それは、あるわ。堕悪魔ね」
「悪魔なのに、さらに」
「上とか下とかはないのよ。ただ扱いかたは変わってしまうわ」
「堕落って、どういうの」
ヒイロが、さらに不思議そうだ。
「勉強しなかったり、仕事サボってしまったり、規則をなにも従わなかったり」
「……ゼンブわたしだわ」
ヒイロが、ショックを受けている。
「え……と、ゼンブって」
「勉強図書館でしてたっきりだし、仕事とかわからないし、規則とかルルファイスからも注意されたり」
「よく堕悪魔にならなかったわ」
「そこは、うん、なんとか」
「堕ヒイロ」
「堕アマツキ」
「堕黒鉄」
「……別に堕をつけても堕落するわけじゃないわよ」
「……わかってるわ!」
「まぁ、なかには言葉洗術っていうのもあるけれど」
「なにそれ!」
「スキルなんだけれど、言葉にしたいくつかの条件を相手に縛りつける、条件負荷っていうものなのよ」
「魅了と少し似てる?」
「魅了に関しては上手く言えないの」
「どうしてだろう」
「そうね……」
黒鉄は、丁寧にノートを開いていくと、どこからかペンも出してきて、ノートに図を書く。
びっくりするのは、黒鉄は鳥だけど、とても器用だ。
たぶんぼくよりも使い方は、得意そうだ。
というか、手というかその羽根はどんなつくりなのだろうか。
「羽根先器用ですね」
「ふふ、そうでしょ」
「いつもなの?」
「クイーンの頼まれごとは、たくさんあるから、メモ取れるようにすぐになるの」
「そっか」
クイーンの使いだという黒鉄もいろんな苦労をするらしい。
「そういえば、灰鐘たちは鳴き声で、いろんな伝達もできるのよ」
「そうなんですか」
「あの独特な鐘みたいな声で、話すといろんな伝達ができるって話してたかな」
なんだか、すっかり置いていかれてる気分だ。
「黒鉄のほうが、天使に詳しいかもです」
「なによ。天使はずっと複雑だから、まだこれからよ」
「悪魔のほうが単純?」
「単純っていうか、クイーンからの取り決めがしっかりと伝わってるからね」
そういうと、ノートをみせてくれる。
小さいけれど、魅了の仕組みみたいなものらしい。
「これでわかる?」
「わからないや」
「そうよね……」
やや黒鉄が残念そうだ。
いや絵が下手なのではなくて、やっぱりよくわからないからだ。
いくつか記号もあるけれど、読み取れない。
「魅了ってそんなに変かしら?」
「例えばだけど、わたしたち鳥たちには魅了はほとんど効かないのよね」
「そうなの」
「使い魔仕様っていう眼や耳があって、防御できるのよ」
「へぇ」
「ほかにも、いくつか専用スキルがあるわ」
「固有とは違うんですね」
「そう。黒鉄、灰鐘たちに備わるもの」
なんだか複雑らしい。
ヒイロは中央図書館で得た知識と、また違うらしく感心している。
「いまはもうしないけれど、わたしたちの祖先たちは共に戦っていたわ。はるか前のことよ。いまでも戦仕様のスキルもあるけれど、これから覚えるのは、写すものよ」
黒鉄たちの持っているのは、それが普通らしいけれど、よくわかっていない。
でも、とにかく試してみよう。
「お願いします」
黒鉄が、自分のノートに羽をのせて、文字をなぞっている。
ぼくもヒイロも、自分のノートに手をかけようとすると、ノートが勝手に白紙のページになった。
そのあと手をのせる。
「わたしのノートに、書くから同じように書いて」
「わかりました」
黒鉄が、羽で文字を書きはじめる。
そうはいっても読めないため、困ってしまう。
けれど、次の瞬間には手がいつの間にか動いていく。
「契約の文字だから、そのまま一緒にね」
なんだか、黒鉄が真剣で緊張する。
文字を書く作業はすぐに終わる。
すると、そのページ全体にいろいろな記号や図が現れていく。
「わぁ!」
ページ全体がきらめくと、書いていた右手の甲に、別の記号が浮かぶ。
「手のこれの通りに読んで」
「読む? 読めないよ」
「読めないまま、読むの」
わけがわからない。
読めないのに、読むのは、どう読めば……。
でも、ヒイロは読めているらしく聴いたこともない言語をつぶやく。
負けるかと、ぼくも浮かぶまま応える。
「……書の通りに契約を完了します」
「します!」
ふわっと頭のなかに、文字と契約の記号が浮かんだ気がした。
もしかして、この文字がスキルなのだろうか。
「やっぱり、天使は少し違うのね」
「違う?」
黒鉄は、もうなにもなかったように、ノートをしまっている。
「使えるけど、悪魔の使い方とは違う。詳しくは、そのノートが教えてくれる。もしわからなくなったら、表紙で手をかざしてさっきの文字を喚ぶと、自然とページが開くわ」
「ありがとうございます!」
ヒイロは、少し不安そうだ。
「これ……」
「どうしたの?」
「黒鉄のスキルよね」
「簡単に言うとわたしとミレイのスキルの一部よ。いまミレイの力と黒鉄鳥の契約の合間に、あなたたちを挟んだ感じかな」
「未来」
「少しだけ違うわ……写せたのは、記憶かな。時間記憶の一部分を負担して二つになったのかしら」
「記憶……」
「時間の契約?」
「時間狭間に少しだけ視点を持てたのかも……眼を持てたのだから、あとは天使スキルがどう反発するのかしら」




