洞窟のなかの湖
メディが飛ばしたはじめの光を目指して、洞窟のなかを歩いていく。
少しゆっくりなのは、ミレイが治っているという脚や腰の怪我をヒイロやスズネが気にしているからだ。
そして、隣を歩くアマツキがとても残念そうだ。
悪魔の基礎スキルと同じ手順で、天使の基礎スキルができるか不明なため、洞窟をでてからとは言ったけれど、アマツキはもっと挑戦したかったことは明らかだ。
そういえば、アヤネも天使の役割や階級について悩んでいた。
アヤネいまも悩んでいるかな。
アマツキが、メディに訊ねている。
「はじめの光は、どこまで飛んだかな」
「ボールみたく跳ねたはずだから、だいぶ先になるかも」
「メディの光は、照らすだけじゃなくて、使いかたたくさんなんだね」
「速度だせば貫けるし、柔らかくすれば、風船みたくしばらくは浮いてるかな」
「へぇ、みんな訓練したの?」
「訓練かぁ……したのと、新魔導書でみたのと、図書館でみつけたりしたかなぁ」
「ぼくは、なにができるんだろ」
「アマツキは、賢いね」
「えっ」
「勉強熱心だよね」
アマツキは、考えこんでしまう。
少し進んだあとで、返事がくる。
「少し違うのかも」
「違うって」
「最近天使ってなんだろとか、どうすればいいのかとか、考えるから」
「天使かぁ。アマツキはどうありたいの」
「どういう意味なの?」
「悪魔として、天使としても役割があるよね。でもその先には、アマツキとしてがあるんだよ」
「アマツキとして……」
「そう。自身がどう在りたいのか」
「メディは、そういうこと考えるの?」
「自身としてもよく考えるよ。でももうひとつかもね」
「もうひとつ?」
「そうだね」
メディは、その先は言わないようだ。
「どう在りたい……」
「アマツキは、どういうスキルなら嬉しい?」
「嬉しいやつ。みんなを手助けしたい」
「う〜ん。それも嬉しいけれど、もっとはっきりしてるほうがいいかも」
「はっきり?」
「そうだね。ほら、ミレイのは未来視で先がわかるだろう? でも、それをどう利用するのかもアマツキ次第なんだ。未来視を使えても、もっと具体化させたほうが、役に立つし」
「もっと具体化……」
「焦らなくていいよ」
スズネが、近くにきてからアマツキの顔をみる。
「どんなスキルでも、アマツキがしたいっていう方向をみてればいいんだよ」
「……天使らしくとか、アマツキがしたいとか、なかなか考えることたくさんあるんだね」
「ヒイロは、なんかいっぱいあるって。いいよね」
「わたし? わたしは悪魔らしくとか、ないわ」
「ないの」
「それっぽいことをする」
「よくわからない」
「ほら、混乱しちゃいますよ」
ヒイロとアマツキは、この洞窟のなかでどんな話しをしていたのだろうか。
少し距離が縮まったような、話しはできたらしい。
そういえば、ケンカっぽくもなっていたような気もするのだけどな。
「ミレイは、真っ直ぐよね」
「未来に一直線だからね」
「ネネに、対してもね」
「ネネはわたしのど真ん中にいるからね。一心同体とかあるわね」
「やめてほしい」
「こればかりは、ネネの頼みでも無理よね」
ミレイは、やめてと言ってやめる悪魔ではない。
もしかしたら、悪魔らしい悪魔とは、ミレイのことなのかもしれない。
「中央図書館のルルファイスなら、なにかわかるかな」
「ルルファイスもいろんなこと知ってるから、なにか知ってるかも。あとはアヤネに聴きましょう」
「アヤネ、いそがしいよね」
「連絡してくれるのは、嬉しいと想うよ」
「アヤは天使のこと、なんかあきらめたような感じだったわね」
「そうなの?」
「教会を運営してるのもそれがある、みたいなこと、事務の方と話してたわ」
「そっかぁ」
ヒイロとアマツキが、教会の子どもたちのことを話している。
わたしも、あれからしばらくはクイーンの側にいる子どもたちに会いにいっていない。
定期的に黒鉄からお知らせはしてくれるけれど、やっぱり直接会ったほうがいいだろうか。
「わたしは、クイーンのところしばらくいってないわ」
「ネネはここしばらくいそがしいでしょ」
「メディほどじゃないわ」
「そういえば、ミレイもクイーンと親しいよね」
「ネネの幼い頃から知ってるからね」
ヒイロとアマツキが、わたしをみてくる。
「ネネの小さい頃、会ったらゼッタイ魅了使うわ」
「ネネの小さい頃、スキル一緒に勉強したい」
「アマツキのは一緒にできるけど、ヒイロのはダメじゃない?」
「えぇ! 魅了使えば、ずっと一緒だよ?」
「ミレイと似てきてる」
「ミレイは、未来じゃん。わたしは、ネネが一緒に望むのよ」
「魅了してるけどね」
「魅了してても、一緒なの!!」
「ヒイロは、じゃぼくのことも魅了するの?」
「アマツキは、平気よ」
「よくわからない」
「だってアマツキは、わたしとしたいことたくさんあるんでしょ?」
「そんなこと言ったかなぁ」
「言ったわ」
「そうだったかな。聴き間違いじゃない?」
「なにそれ。天使でしょ」
「なんでも天使だから、ってわけでもないよ」
「なにそれ。ズルい」
アマツキは、これは成長なのだろうか。
ヒイロに対して、素直にはなっているけれど、だんだんとズルさも覚えている。
スズネの影響か、と思い当たる。
ミレイの直線的な言い方と、スズネのなんだかふわふわした躱し方を併せたら、なんだか厄介な感じになっていくのでは。
軌道修正したほうがいいのかもしれない。
「アマツキは、素直でいいわ。前より笑顔も増えたよね」
「そうかな。ヒイロと話すとよく笑うよね」
「わたしの話しが、楽しいからいいよね」
「そうは、言ってないかも」
「なにそれ、素直じゃない」
「ヒイロがよく話すからだって話しなんじゃ」
「ネネやメディは話ししないの」
「よく話ししてるわ」
「ふ〜ん。じゃあメディわたしと話しましょ」
「アマツキとはいいのかい」
「アマツキズルいんだもの」
ヒイロがメディの近くにより、手を掴もうとした。
でもその直前で、ミレイと近くに来ていたスズネが割りこむ。
「じゃ、せんぱいはわたしとで」
「ちょっとスズネ」
「せんぱいとは、ゆっくりいろんな話ししましたよね?」
「なにそれ」
「ふふ〜ヒイロにはナイショですぅ」
「えぇ! スズネひどい」
「悪魔はひどいんですよ? 知ってますか」
「わたしも悪魔だし」
「じゃ、いいですね」
「よくない!」
わたしはあきれてしまう。
ミレイをちらっと見ると、ミレイはくすくす笑っている。
ミレイは割りと冷静だけど、アマツキはどうだろう。
でもアマツキもそんなに、落胆したりしてなさそうだ。
どちらかというと、メディのことを気にしている。
やっぱりさっきのスキルの話しだろうか。
記憶は相変わらず戻らないみたいだけど、スキルやレベルに前向きなのはいいことなのだろう。
ヒイロが、アマツキに構いすぎてるのかもしれない。
なんだか騒がしいなかを進むと、少し風があるような気がする。
洞窟のなかに風があるのは、天井の隙間だろうか。
メディが、進むなか照らしている灯りが少し揺らめいている気がする。
メディも気づいたのかもしれない。
話しながら、こちらをみてくる。
だいぶさきほどまでいた噴水から離れた。
ヒイロの持つ水の魔力が、今度ははっきりとしている。
「ねぇ、広いところにでるみたいよ」
後ろにいるミレイに話してみると、ミレイは、だいぶよくなったようで、ニコリとうなづく。
ヒイロとスズネの言い合いが続くなか、アマツキが先に走っていく。
先に走ってでた場所が、眩しいらしく、手で顔に影をつくっている。
そのまま無言だ。
どうしたのだろう。
わたしも小走りで追いかける。
「どうしたの? アマツキ」
アマツキの側までいって話しかける。
まだ話さないため、わたしもアマツキの観ている光景を観る。
たしかに、なんて言おうか迷ってしまう。
「洞窟のなかに、湖だ」
「みずうみ?」
「そう! 湖!」
スズネやミレイたちが追いついてきて、同じように驚いている。
「ここ明るいね」
「メディの灯りここに着いたみたいだね」
「水の魔力に惹かれたみたいだ」
湖の浮島になる部分になにか置いてあり、そこにメディの灯りがぶつかったようだ。
「天井あるね」
「まだ洞窟のなかなんだよ」
「でも、広い」
「不思議ね」
そういえば、かなり下った気がするから、もうだいぶ深い地下なのだろう。
「ねぇ、ここ暖かいね」
「そうね」
「あの真ん中にあるのが、熱源なのかも」
メディが浮島の部分を観て話す。
よく見ると、真ん中に置いてあるというより、集められたのかもしれないため、意図してあの部分に集めたのかもしれない。
「メディの光の魔力はどれくらい保つの?」
「けっこう圧縮したから、しばらくは保つよ」
「そっか、ここは普段はもっと暗い場所なのね」
「夜の景色になるのかな」
「そうかも」
とりあえず、真ん中部分には着けないだろうけれど、ぐるりとこの湖を一周することにする。
「みずうみって言うんだね」
「そうよ。水が行き着いて留まっているの」
「少し流れてないかな」
「風があるのよ」
「風……」
ゆっくりと歩くと、湖はけっこう広いことがわかる。
なかなか不思議な光景だ。
天井がある空間で、メディの光のなかみる湖は、どこか熱気があって暖かい。
「なんか暖かい」
「もしかしたら、ここが熱源なんじゃない」
「でも、どうして」
かがみ込み水を触るも、水は少し冷たいくらいだ。
「水じゃないわ。温泉とかじゃないみたい」
「あの真ん中だよね」
「そうかな」
「あの部分に、なにか熱を持ったのがあるんだね」
少しずつ進むも、いまのところ真ん中の浮島にいくような道はない。
「浅いとか?」
「そうも思えないよね」
ヒイロとアマツキが、いつの間にか並んで前を歩いている。
湖をみたのは、はじめてなのかもしれない。
「水だね」
「水だ〜」
「海じゃないんだね」
「そうみたい」
「上から流れ落ちてきたのかな」
「滲みてくるのかも」
「雨かな」
「海かも」
「どっちも同じかも」
「海からきてたら、ここも海になっちゃうね」
「飲み込まれる」
「なんか怖い」
話しを聴いていたスズネとミレイが、くすくす笑っている。
メディはと想うと、一番後ろでなにか眺めていた。
「メディ」
呼ぶと、ちょうど半周したくらいの位置で、立ち止まっている。
洞窟はまだ先がありそうだけど、湖は反対側にきたため、このまま進むと、一周して元に戻ってしまう。
「あの上」
洞窟の先が続いているその入口の上に、なにか光ってみえる。
左右の壁には、噴水の仕掛けになっていた形で、四つの結晶があり、左右では八ある。
「ヒイロの持っている結晶あうかしら」
上の部分には四つの結晶と、一つ真ん中に差し込む場所がある。
もしかしたら、あの場所に仕掛けがあるのだろうか。
「ヒイロ、結晶どうかしら」
「……うん。淡い光は、ここの辺までみたい」
「そっか」
「あの上の部分に差し込むのかな」
「やってみよっか」
ヒイロが、小さいボトルに入れていた結晶を取り出す。
「ぼくが、下になるから」
「平気。これくらい飛べるから」
「洞窟の天井に頭ぶつけないでね」
「平気よ」
メディが、真上に浮かぶ光を少しだけ飛ばすと、壁付近がさらに明るくなる。
「眩しくない?」
「うん。これくらい」
「わかった」
ヒイロがニ、三度羽ばたくと、アマツキが心配そうに観ている。
「ここだよね」
「うん」
真ん中の部分に手を当てて抑えながら、上手く差し込む。
「いだっ!」
「ほら、ぶつけた」
「もう!」
噴水の時とは違い、あまり物音がしない。
ヒイロがスーッと降りてくると、頭を抑えている。
「うう」
「ほら、泣かないで」
「泣いてないから、うう」
ヒイロの頭をアマツキがなでている。
スズネがすぐに近寄らないのは、アマツキに任せたからなのだろう。
「あまり変化なさそうね」
「……そんなこともないみたいだね」
メディが、洞窟の先を見ているため、わたしもそちらをみると、
洞窟の先の景色がなんだか変わってみえた。
これが、上の魔結晶を並べてある効果なのかもしれない。
洞窟の先から、たくさんの声が聴こえてきた。




