魔列車、ヒイロとのナイショ話し
「いってらっしゃいませ」
「は〜い」
スズネに見送られて、ヒイロと車内を歩いていく。
ときとぎヒイロがふらつくため、手をとる。
「もしかして、まだ酔ってる?」
「もう酔っていません」
ヒイロの眼をのぞきこむようにしてみると、なんとなく眼がまだはっきりしない。
どうやら、体内魔力の調整をしながら、歩いたり話したりしているみたいだ。
あとで、コツでも教えてみようかな。
「何号車だった」
「えと、さっきのが二番めだから、歩いて三番かな」
「五号車ね」
「それから、黒鉄待機場所が七号車にあったよ」
「そうだったの」
魔列車に、待機場所があったと聴くのははじめてだ。
「鳥たちが、羽休みしながら移動できるから、いいらしい」
「魔力は大丈夫なのかしら」
「どこからか、魔結晶の欠片を集めてからくるらしいわ」
「ちゃっかりしてるわね」
それなら、たしかに魔力を極端にもっていかれないだろう。
「詳しいのね」
「スズネと車内歩きながら、魔列車の説明とか読んだり、乗客の方たちの話しから、そうみたい」
「そう」
ヒイロが、ふらふらしながらも、少し楽しそうなのでよかった。
魔列車にのって、気持ちわるいだけだと、かなしいかな、と乗る前に想っていたのだ。
ときどき震動が伝わるあたり、まだ走っているみたいだけど、どの辺りまで来たのだろう。
窓の風景は、だいぶ変わっている。
「寝てたけど、アマツキは平気そうだった?」
「はじめ、気分わるかったみたいだけど、スズネがいろいろお世話してくれてるうちに、少しなおって寝ちゃった」
「スズネ、最近面倒見がいいね」
「なんだろう、元気ないんだよね」
「やっぱりそう見えるよね?」
悩みがあることもだろうけれど、
スズネの心境の変化は、もっとおおきいのかもしれない。
三つほど車両を移動したさき、狭い通路のなか、部屋がいくつか並んでいるところがあった。
「ここね」
簡易シャワー室が三つ並んでいる。
あけてみると、小さめな脱衣室とロッカーがあり、すぐにシャワールームがある。
「ヒイロはいいの?」
「うん。でも見張ってるね」
なぜ、と想うため、とりあえずそのまま聴いてみる。
「鍵しまると想うし、平気じゃない?」
「魔力鍵ってさ」
「うん?」
「名前と魔力登録してカードとかで閉めたりするよね」
「うん」
「ここのって、共有カードだから心配なの」
ヒイロは、なにかあったのだろうか。
アマツキと散歩している間に、なにか発見したりがあったのかもしれない。
「うん、ありがとう。しっかりみてね」
「はい」
ヒイロを残して、狭い脱衣室に入ると、
持ってきているショッピングバックのなかから、着替えとタオルをだして、シャワールームをのぞく。
いちおうシャンプー等は揃えてあるようだ。
壁にある共有カードの差してあるパネルに、名前を登録し簡単に魔力をこめるとカードが取り出せた。
それを閉めた扉の差し込み口に入れると、カチッと音がしたため、鍵はかかったようだ。
それでも、扉を引いてみると、ガチャッとかかっているため、たぶん大丈夫なのだろう。
「ヒイロ鍵かかったよ、入るね」
「はぁい」
さきほど寝て汗をかいてしまっているため、服をぬぎながら、サッと入ってでようかな、と考える。
魔列車にいる間は、常時魔力調整をしながらの作業になるため、少し疲れてしまうものの、シャワーまであるのは便利だ。
「そういえば、さっきうなされてたのも、魔力吸収のせいかな」
畳んだ服の上に、最後に宝石のネックレスを載せる。
「まい、は平気よね」
このダイヤモンドは、わたしの所持しているアイテムのなかで、最強に魔力のこもっているもので、宝石を持つようになってからは、わたしに魔力回復までしてくれているようだ。
そこまで力を持っているものだとは思わなかったけれど、宝石になってからは、一緒に生活している恋悪魔のような存在になっている。
「シャワールーム少し暑いわね」
密閉空間なのか、湿度がある気がする。
水からお湯に切り替えてだす。
「つめたい」
「まだ、ぬるい」
なかなかお湯にならないため、流れていく水をみながら、考えごとをしてしまう。
わたし、スズネの力になれてるのかしら。
そして、ミレイやメディのために、なにかできてるの。
以前はこういうことは、ほとんど気にしなかった気がする。
もしかしたら、昇進して周りがみえるようになったのかもしれないし、
天使アヤネに逢ってから、わたしが変化したのかな。
「教会の子どもたちにも、また会いたいな」
ようやく少し熱いくらいのシャワーを浴びるころには、この場所は熱気になっていた。
いつものように、でも素早くシャワーやシャンプーをしていくと、さっき観ていた夢は、薄ぼんやりしてきた。
代わりに、ヒイロとアマツキのことを考える。
魔列車の先、洞窟やタワーに無事つければ、ヒイロは "転生" をつかえる状態にまで、なれるはず。
でも、アマツキはそのあと、どうしたいのかな。
けっこうヒイロとはいい感じだと想うけど、天使と悪魔という種族より気になるのは、この先別の出逢いだってあるだろうヒイロとアマツキは、いまの関係で居続けられるのだろうか、ということだ。
「アマツキのこと、もっと聴いてみたいな」
「先にヒイロかな?」
熱いシャワー。
お湯の流れる音。
少し頭がボーッとする。
心地よい震動。
羽根もしっかり洗う。
なにか、扉ふきんから音がするも、
とりあえず気にしないでおこう。
シャワーで何度か流しているうちに、少しだけ気分が高揚してくる。
単に身体の温度が上がったせいなのかもしれない。
「ふぅ〜〜~~」
キュッと閉めると、お湯が流れ落ちる音だけになり、その音を聴いてるうちに、目が覚めてきた。
「やっぱりさっきは、頭がまだボーッとしていたのね」
ポタッという音を聴きながら、
扉をあけて、タオルをとると丁寧にふきとる。
シャワールームは、乾燥機つきらしいため、それを作動させて、脱衣室で着替える。
「すっきりした。ミレイも寝ていたし、あとでくるかしら」
少しずつ冷静になってみると、夢のなかの出来事と、さきほどの状況が重なる。
「スズネのこと、それに、なにかの探しもの?」
着替えをすませて、髪を乾かし、あまり長い時間にならないようにと心かけながら、ヒイロに話しかける。
「シャワー終わったわ。もう少し待ってくれる?」
「え……あ、はい。うん」
なんだろう、何かあったのだろうか。
少し濡れ髪のままではあるものの、五分くらいですませると、宝石をつけて、洗濯ものをショッピングバックに収める。
「洗濯は別の場所だわ。仕方ない」
すっかり熱い身体を冷ますようにでると、ヒイロが扉に背を預けるようにしていたため、コケてしまう。
「ヒイロ」
「あ、ネネ」
「どうしたの? なにか疲れてる?」
ヒイロが、顔に手をあてて、ふぅとため息をついている。
「あの、デビネコを探して、あと指輪の落としもので、それに、なんか、その」
「え、うん、なになに?」
「ナンパされてた」
「え、いま?」
「そう……」
わたしが、シャワーを入ってる数十分の間に、ヒイロはいくつもはたらいていたらしい。
「そ、そっか、大変」
「デビネコは、子ネコで、すぐにみつかったし、指輪も平気そうだったよ」
ヒイロもアマツキもだけど、
もしかしたら、これまでもいろんなところで、活躍しているのかもしれない。
「ねぇ、どんな悪魔だったの? 平気?」
「少しスラッとして、真面目そうな悪魔だったよ。わたしが、座って見張りしてたら、気分がわるいの? 平気って話しかけてきて」
「うん」
「見張りです、って応えたら、そっか、それなら、いまはデートできないから、今度一緒にでかけない? って」
「えぇ、ホントにナンパだね!」
「ことわったら、じゃ、連絡先おいておくから今度連絡して、だって」
「へぇ」
「なんだろ、わたし魅了でも無意識につかったのかしら」
「う〜ん?」
もしかしたら、最近になってヒイロは、美少女から色艶がよくなってきたのかもしれない。
男の子悪魔たちに、少し気をつけてないと。
せっかくの話題なため、気になっていることを口にしてみる。
「ヒイロって、アマツキのことはどう観えてるの?」
すると、ヒイロは髪を触りながら、なんだかぼんやり答える。
「アマツキのこと? そうね。なんか前は甘えてきてたのに、今度は冷たくなったり手繋いだかと思ったら、急に赤くなったりするし、不思議よね」
「えと、じゃどう想ってるの?」
「え、うん……」
それから、少し考えこんでしまう。
わたしは、まだ髪が乾ききっていないため、タオルをかけて、拭きながら少し応えがくるのを待ってみる。
何名か悪魔が通りすぎていく。
「そんなに応えなくてもいいのよ」
「いいえ、その言葉がタイヘン」
「言葉選ぶのが?」
「違うの。アマツキのことだよね」
「うん」
なにか、上手に思考がまとまらないらしい。
魔列車のなかだからだろうか。
魔力調整をしながらだと、たしかにどこか意識が遠くにいくことがある。
「アマツキね、ここのところわたしに接するときに、変な気をきかすときがあるの」
「変なの?」
「そう」
どういうことだろう。
「前に、一緒に寝ていたときには、手を繋いでくれたり、その日にあった出来ごとをなんだか楽しそうに話してた」
「うんうん」
「で、ここのところ、話していたかなと思うと、急にメディのところに話しかけにいったり、一緒に顔をあわせて話していたのに、ふと、不思議な表情になって、言葉を少なくしてしまうの」
「嫌いになったとか、そういうの聴いた?」
「ううん、そんな感じじゃないのよね、なんだかよくわからなくなっちゃった」
ヒイロが哀しそうに言うのはわかる。
でも、同時にアマツキがヒイロを嫌いになってるわけじゃないことは、わかる。
ときどきアマツキが、ヒイロをみる目つきは、どこか優しくて、そしてときどき仕草に笑っている。
「緊張してるとか?」
わたしは、思いつきで言ってしまう。
「緊張? アマツキが? わたし?」
「え、違うかな」
う〜ん、ヒイロの不安はわかるのに、なかなか上手く励ましができない。
ヒイロは、また少し困惑してしまう。
「あ、これアマツキに言わないでね」
「うん」
「それから、ミレイにも」
「ミレイ?」
「未来視で、たとえわかっていても、アマツキのことはわたしが理解したいわ」
「わかったわ」
ネネは、それを聴いて少し理解が進んだ。
ヒイロは、アマツキのことをもっとちゃんと知ろうとしているみたいだ。
たぶん、はじめに会ったときより、
いまはアマツキのことを知ってるはずなのに、
もう一歩先の話しをしていたいのかもしれない。
「ネネは、ミレイといて、未来がわかられてしまうことに、不安ってないの」
「不安はあるよ。
でもわたしは、ミレイと長くいるし、それに、ミレイが隠していることに対して、もしわたしに関係するのなら、立ち向かうまで」
「立ち向かう?」
「そう。未来と」
「ミレイとじゃないんだね」
「ミレイとは、その不満があるだけ」
ヒイロが、少しだけ考えてから、言葉を続ける。
「わたしが、アマツキにあるのも不満? なのかな」
ヒイロが抱えているもの。
わたしが、いま向かっているもの。
未来があるなら、ただそこに楔を打ち込むだけ。
「不満があるなら、ヒイロはまだまだアマツキとしたいことが、たくさんあるんだよ」
「したいこと、かぁ」
ヒイロは、通り過ぎていく悪魔たちを眺めながら、列車の響く音を聴きながら、
ムニムニしたり、ニヤニヤしたり、ため息をついたりして、ようやくネネに向き合う。
「うん、ネネありがとう。すっきりしたかは微妙だけど、少なくとも、アマツキに対して不満を表にだしてみるのもいいのかも」
ヒイロは、素直だ。
わたしも、ミレイもこのくらいの素直な気持ちのときが、あったのかもしれない。
いや、ミレイはこのくらいの時期から、もうわたしに一途で、変わっていないかもしれない。
ふいに、ミレイの子ども時代を思いだして、やっぱりやめて置こうとなった。
「ようやく髪も少し乾いてきたかも」
「そう、じゃいきましょうか」
「ええ」
ヒイロのすっきりした表情が、みられてほっとする。




