魔列車前ホテル、スズネ
「アイスだってぇ〜」
ヒイロとアマツキが、ミレイたちの部屋に集まっていたため、
みんなに袋をみせびらかす。
「あ、あいす」
「好き」
「食べる」
「てか、どこいってたのよ」
ほぼ予想通りの反応に、ネネは喜ぶ。
買ってきたのはメディなんだけど。
「あれ、スズネは」
「荷物おいたきり、いないのよね」
「そうなんだ」
てっきりもう戻ってきているのかと想っていたため、じゃ、どこにいったのだろう。
「食べちゃいましょ」
「スズネの分は残すのよ」
「冷蔵庫あいてる」
「なに味あるの」
メディとネネの持っていた袋の中身をだすと、テーブルに集まった。
ストロベリー、オレンジ、
チョコ、バニラなどなかなかに種類が集まっていた。
たぶん、好みがわかれるから、メディが気をきかしたのだろう。
「てか、アイスって」
「そう想うわよね」
「いらないの?」
「いります」
「食べます」
メディが羽をパタつかせているため、
表情とは違って、気分はいいのだろう。
そうでなくても、みんなに買ってこようとする辺り、もしかしたら、少しハイになっているのかもしれない。
好みの味はわからないけれど、
ひとつコーンのゴーストクレープの味が残っているため、それを冷蔵庫に入れておく。
まだ溶けてはいないだろう。
「おいしい」
「つめたい」
「涼しい」
みんながそれぞれで、美味しそうに食べるなか、ネネは廊下をみにいく。
「スズネいないわ」
「すぐくるかな」
ヒイロがアイスを片手に近づく。
少し心配そうだ。
「食べたあと、少し探してくるわ」
「あ、わたしも」
「そうね」
テーブルに置いてあるコーンのチョコアイスを手にとり、ササッと口にする。
「おいしい」
ミレイにアマツキは、すっかりとイスに座り、くつろいでいる。
メディは、このあと荷物をわけるのだろうか。
ここで、みんなでにぎやかなのはいいのだけど、部屋をわけた意味は、あまりなかったのかもしれない、とも想う。
「ありがとう、メディ。少し探してくるわ」
ヒイロはアイスの空をテーブルに置くと、テテッと横についてきた。
「さ、いきましょ」
さきほどまでいた一階には、おそらくいないだろうから、あとは上の階だろうか。
ヒイロと少しずつ話しをしながら、
上の階に移動していく。
「上の階ってなにかあったかしらね」
「そんなに、特別なものはないかと」
「案内ないね」
「スズネ、なにか最近心配ごとあるみたいだわ」
ヒイロが的確なことを言うため、
わたしは、少し戸惑う。
「ヒイロは、なぜそう想うの」
う〜ん、とヒイロは立ちとまると、
六階にあたる階段の廊下の先、窓の外をみる。
もう夜景になっていて、窓ガラスに薄っすらと、ヒイロの横顔が映る。
その横顔は少しではあるけど、
どこか不安定なオトナになる前の女の顔をしていて、ネネは、わけもなくどきどきしてしまう。
「最近ね、よく連絡くるの」
「スズネのところ」
「仕事の用のこともあるみたいなんだけれど、でもそれだけじゃないみたい」
「え、そうなの」
それっきり、またヒイロは歩きだしてしまう。
六階にもいないため、あとは屋上だろう。
通常なら、この時間もう屋上はしまっているのだろうけど、魔力施錠なため、得意な悪魔ならその魔力の流しかたで、鍵を開けられてしまう。
よく悪魔たちは、魔力鍵トラップをしかけておくけれど、
こうしたなにもない場所なら、そういった類もないだろう。
「ここかな」
屋上に続くノブを触ると鍵はもう開けられていた。
少し重たい扉を開けると、
少しの風と、それを受けたスズネの姿がみえた。
こちらから声をかける前に、だれかと話している声が風にのって流れてくる。
「うん、わかった。いや……わかってるって。うん。はい。はぁ、ねぇ、なんか前より……いや、いいや。んん…………わかってる。じゃ」
電話をしていたらしい。
それで、部屋にいなかったのかもしれない。
ふと、こちらを向くから、眼があってしまった。
「あれぇ、せんぱいどうしたんすか?」
ヒイロが、タタッとかけていくと、スズネに抱きつく。
「あれ、なにヒイロ。寂しいすか」
「ううん」
「え、うん、なんすか」
「アイス」
「あいす?」
「そう、さっき売店で買ってきたの」
「そうなの!? 早く言ってください。アイス好き」
ヒイロは、なにも聴かないようだから、
わたしが聴いてみることにする。
「仕事の電話?」
「あ、えと、プライベートすね」
「ふ〜ん、スズネって、意外と隠しごとおおいよね」
「そ、そんなことないっすね」
「メディに話したい内容って、それのことなの」
「いやだなぁ、ネネせんぱい。そんなにわたしのこと心配なんですか?」
「そりゃ、心配するわ」
「へぇ、あ……じゃ、もっとスキンシップ増やしてもいいすよね」
「それは、違う」
「えぇぇ、わたしのこと好きなんじゃないですか」
そんな話しをしつつ、ヒイロはスズネに抱きついたままだ。
「ミレイもだけど、なんでそんなにベタベタ触るのよ」
「エ○いから」
「はぁ、もう」
ヒイロが離れないため、スズネがヒイロの頭をなでる。
「なに、ヒイロ。わたしのこと、そんなに心配ですか?」
「うん、心配」
「お、じゃわたしと付き合うこと考えてもらってもいいすかね」
すると、ヒイロは眼を上に向けて真剣に、スズネをみつめる。
「……いいよ」
「は、え、冗談すよ。ジョーダン」
「いいよ」
「いや、ジョーダンだから」
ヒイロが、真剣だからだろう。
スズネが、ヒイロを抱き返す。
「ごめん。ふざけた、ふざけただけ」
「ううん、いいの」
「そんな、泣きそうに言わないでよ」
「ううん」
少しだけ、ヒイロとスズネが黙ってしまうため、わたしは優しめに声をかける。
「アイス、冷蔵庫にあるから、はやめに食べよ」
「うん。わかった」
「スズネ、いこ」
「うん」
ヒイロが放れると、スズネと手を繋いで歩きだす。
こうしてみると、スズネとヒイロは、どちらが姉悪魔だか、わからない。
ヒイロは、孤独を知っているからだろうか。
孤独がヒイロをそうさせたのだろうか。
ときどきヒイロは、こうして周りが驚くほど、的確に本質をよく観ている気がする。
天使のアマツキは、良くも悪くもヒイロに影響されることは間違いないだろう。
「好みの味じゃなかったらメディにいってね」
「メディせんぱいなら、たぶんハズレない」
そうかもしれない。
そうなのだろう。
スズネを連れて戻ると、メディはいなく、
ミレイとアマツキはくつろいでいた。
てか、またメディがいない。
部屋だろうか。
「スズネきたよ」
「アイス食べます」
ミレイもアマツキもそんなに気にしていないのか、
適度にあいさつだけする。
「メディは部屋かしら」
「さぁ、荷物じゃないの」
たしかに、もう少ししたら、寝る準備をする時間かもなため、
荷物は少しは片付けたほうがいい。
「アイス食べるのはいいけど、夜食はどうしようかしら」
スズネに聴いてみると、
既にコーンのアイスを開けて、美味しそうに食べている。
「ふぁれはほりあしゃわーでそのあと、れふとらんかあれば、なへればなにか、ふぁって……」
「ちょっとなに言ってるかわからない」
「シャワーでレストランであとはなにか買うって」
「アマツキすごいわね、なんでわかるの」
アマツキが、ニコッとしている。
「ヒイロがよく一悪魔言をしているから、聞き返してるうちに、なんとなく」
「アマツキって耳はいいらしいよ」
「ヒイロもう少しはっきり話してほしいな」
「わたしって口わるいらしいから遠慮してるのよ」
スズネはシャワーと買いものにいく気らしい。
わたしもミレイもシャワーしたいとは思うけれど、そうすると、夜食や買いものは、けっこうおそくになるだろう。
とりあえず、レストランがあっただろうか。
売店には、軽めのものしかなさそうだったから、みんなで食べるのであれば、
ホテルのなかか、あとは周囲を少し探してみなくちゃいけない。
「ミレイは、シャワーどうする? それとも、先にレストラン探しかな」
「シャワーはつかうわ。食事ホテル内ならともかく、街中だと早めに閉まってるかもしれないわ」
「ここの案内って、だれかみたかしら」
見回すと、ヒイロとアマツキはじゃれあっていて、ミレイはデビルスマホで連絡しているため、スズネをみる。
スズネは、ベタベタになった手を洗うと、こちらを見る。
「たしか、少し小さめのレストランが六階にありましたね。でも、街中も少しはみたいっすよね。明日の行動で、時間ありますか」
「そうね。魔列車は、基本は定刻できてくれるとは思うけど、少し街中をみてから、いきましょっか」
「あ」
スズネがなにか気づくため、どうしたのかと、カウンターをみるとネネのバックから音がしていた。
メディからの連絡だ。
「どうしたの」
「街中のレストランは、はやめにしまるみたい。そっちは、シャワーどうする」
「なんだぁ、それくらい、こっちの部屋にくればいいのに」
「また、だれかシャワー入ってたら、遭遇するでしょ」
「なんのこと?」
「下着やタオルだけの格好で、部屋のなかで過ごすらしいし」
前に泊まったときに、スズネやミレイが薄着で部屋を歩きまわり、恥ずかしかったらしい。
「ふふふ、平気よ。ていうか、それくらい慣れてよ。いい加減メディって照れ過ぎじゃないの」
「こまる。あとアマツキも」
「あぁ、うん、アマツキはたしかに、あまり慣れ過ぎちゃうと、ミレイみたいなになっても困るわ」
そのあと、メディはつかれてそうなため、シャワーをして、六階でそれぞれ集合しようということに決めた。
スマホを閉じて、充電ケーブルにつなぐと、ミレイは少しジッとみていて、スズネはにやにやしていた。
「なに」
「なんで、ネネに連絡するのかしらね。わたしもすぐでるのに」
「メディせんぱい、つかれてませんでした」
「あぁ、シャワー浴びてるとおもったみたいだわ。つかれてるみたい。六階で集合しましょって」
すると、スズネは少し残念そうにしている。
「なんだ、この部屋でメディせんぱいにアピールしようとしてたのに」
「ほら、シャワー浴びてきなさい」
はぁい、とスズネは、バックからタオルと着替えを抱えて、脱衣室までいく。
「ヒイロとアマツキはどうする」
「ぼくはいいや」
「わたしは、食事あとにしようかしら」
スズネがシャワーの間どうしようかと、少し考えていたら、アマツキが部屋の入口まで、歩いていく。
「アマツキ、どこいくの」
「メディの部屋いってくる」
「え、ここにいれば、いいのに」
すると、アマツキは振り向いて、少しあきれている。
「ヒイロが、ついてくればいいんじゃない」
こう言って、そのままでてしまう。
「どうしたのかな」
ヒイロが心配そうに聴くと、ミレイは髪をかきあげながら、微笑している。
「なに」
「照れ隠しじゃん。ほうっておきなさいよ」
「照れて?」
よくわからない様子のヒイロだ。
わたしは、少しアマツキがうらやましい。
わたしもメディの部屋で、ゆっくり話したいのに、一方であまりベタベタしすぎたくない。
わたしのボロがでてしまいそうでもあるし、ツンツンして冷たくしてしまいそうでもある。
ここ最近、実はメディに対して、
前みたいに、キャーキャー騒ぐべきなのか、迷うことがおおい。
なぜだろうかと、考えてみても
なかなか応えることができない。
スズネがでてくるまで、ミレイ、ヒイロとのんびりして交代でミレイがシャワーにいき、わたしはそのあとだ。
アマツキがこちらに戻ってこないみたいなため、メディの部屋で話しでもしているのかもしれない。
わたしは、明日の魔列車の確認や周囲の買いもの場所、行き先をチェックしていると、洗いたてのいい香りをさせて、スズネが顔をよせてくる。
相変わらず下着みたいな格好で、髪もそんなに乾いていないのか、妙に艶っぽい。
おそらく、あざとさをだしているのだろう。
そうでも想わないと、少し負けた気分になる。
なんの勝負なのか、よくわからないけれど。
「……せんぱい」
「なに」
「……ネネ」
「なに」
「ぺた」
スズネが、少し汗ばんだ手を首にまわしてくる。
スズネの少し熱いくらいの体温が、身体で感じられる。
「なに、甘えてるの」
「甘えちゃ……だめなの」
「それで」
「仕事大変だけど、それより、こっちのほうが……タイヘン」
「え、なんのこと」
「ううん。なんでもです」
ヒイロが近くにくると、
今度はヒイロがスズネに、しがみつく。
「ちょ、なんすか」
「スズネ、なんか子どもみたい」
「子どもですよ」
「じゃ、わたしも子ども」
「ネネ姉」
「ネネ」
なんだか、よくわからないまま、ヒイロとスズネをなぐさめることになり、その間に、ミレイがシャワーをおえた。
わたしは、無事シャワーに入れるのかしら。
六階のレストランに向かうと、
メディとアマツキは、もう揃っていて、
なにか男の子同士の話しをしていたらしい。
そういえば、メディの友だちとか見かけたことがないため、なんだか少し嬉しい。
夜食のメニューを注文して、
果実メニューが並ぶころには、話しは魔列車の先、洞窟の話しになっていた。
「水と、花の妖精ってどんなかたかな?」
メディが疑問を口にだしたとき、
アマツキが少し思い出したことがあるみたいだ。
「前にどこかで、妖精の絵をみた気がするよ」
「図書館じゃなくて?」
「どこだったのだろう」




