絵の妖精とルルファイス
「あのおお荷物を持っているのは、だれかしら」
ネネがたずねてみると、少しだけ正気になったルルファイスが説明してくれる。
「ええ、絵の妖精かとおもうわ。今回ははやいのね」
「絵の妖精?」
「中央図書館の各部屋やフロアに飾ってある絵を取り替えてくれるのよ」
「じゃ、一階にある絵も替わってしまうのかしら」
「う〜ん、一階ともう一か所の絵は、サイズがおおきいから、そちらは今度じゃないかしら」
「いってみましょ」
「うん、そうね」
床に拡げていた荷物を持っていこうとすると、ルルファイスはつかれたからと、イスで待っているようだ。
たぶん、戻ってくるころには、テーブルと一体化しているだろう。
応対は、レミリアがするのだろうか。
一階のカウンターのふきんにいくと、変わらずに混んでいるなか、
レミリアとライリアが、交互に妖精の相手をしているみたいだ。
「話しかけてみよう」
「あ、まってよ」
アマツキが、走って近づく。
ヒイロたちもあとを追いかけていく。
レミリアとライリアが、話しかけおわったあと、アマツキが声をかけようとすると、ちょうど振り向いた。
「あの」
眼があうと、すぐに視線を下に向けて、いくつかの作業をおこなう。
「はい」
「はじめまして、アマツキです」
「そう、アマツキね」
慌ただしく手を動かすため、あまりゆっくり話しができないみたいだ。
ヒイロが隣にくると、眼をあわせてくる。
アマツキもつられるようにして、作業をみたあと、サッと手をだす。
「手伝います」
「そう」
ふぅと妖精は、手をとめて、少しだけ上を向く。
カウンターの周りは、悪魔たちの声でざわざわしているなか、
その妖精の周りだけは、どことなく静かな空気だ。
「じゃ、包んである外側のをとったあと、向こうのテーブルで、中の番号順に並べてほしいのだけど」
指した方向には、子どもたちの書籍コーナーになっているテーブルがある。
あの場所で拡げるらしい。
「はい」
「それから」
「なんでしょう?」
ふぅと息をついたあと、髪を少しはらいながら、話す。
「できれば、飲みものを一口でも」
「あ、そうですよね」
この重たい絵画たちをずっと持ってきたのだろう。
気づかなかった。
「すぐに持ってきますね」
アマツキが、飲みものを買いにはしる。
ヒイロはその間に、いくつかの絵を持ちあげて、移動していく。
ネネやメディも手伝いにでる。
レミリアとライリアが、目配せしてくる辺り、手伝いをしてみてよかったのだろう。
そのまま、キッズエリアになっている部分に移動させていくと、テーブルふきんに、
現在作業中という案内板が、でていた。
それぞれで持っていた絵の外側のカバーをはずしていき、なかに書いてある番号の通りに、テーブルやイスをつかって並べていく。
アマツキが、走って戻ってきて飲みものを受け取ると、その場でひと口ふた口飲んで、それから、ようやく話しだす。
「あ、絵の販売と展示、それに受注生産もしています。販売妖精です。中央図書館のかたですか」
そこで、ようやくネネたちは、作業をとめたあとで、お互いに笑いあう。
「いえ、違います。ヘルプ要員というか、ただのクエスト参加というか」
その妖精は、少しだけ呆気にとられたあと、表情を崩して笑う。
「そうなんですね。こちらてっきり、図書館のかたが準備してくださった、お手伝いのかたかと勘違いしました」
「いえ、その理解で平気です」
「そうそう、なんだか大変そうだし、手伝わせてください」
ヒイロとアマツキは、並べられていく絵画たちを観て、すっかり関心がわいてしまったらしい。
ネネもミレイも特に問題はないため、
そのまま手伝うことに賛成する。
「そうなんですか。あ、なんか嬉しいです。とりあえず、番号順に並べられたら、案内図を渡しますので、案内番号と照らしてかけていってください」
「はい!」
キッズエリアいっぱいに絵を並べていき、その番号を確認していく。
並べながら、一枚いちまいの絵を観ていくと、ヒイロ含めてみんなで感心するしかない。
「すごいですね。種類もたくさん。これみんな妖精の絵描きなんですか?」
ネネがたずねると、少しだけ声を小さくして話す。
「実は、絵描きたちの詳しい話しはナイショなんです。サインがはいっているかたは、いいのですけど、不明瞭なものやサインを隠してあるものもあるため」
「サインを隠す」
「ええ、魔力のはいっているサインのいくつかは、条件が揃わなければ、みられなくしているサインもあるんです」
メディも驚いて話しの続きを聴いてみる。
「なぜ、有名になるのなら名前はいるでしょう」
「いいえ。名前は記号で記号は証明です。でも、絵はそれ自体がひとつの象徴です。類まれなるそれらは、ときどきですが存在するだけでひとつの在り方なんです」
「わからないな。いや意味ではなくて、存在証明は、絵だけで充分であると」
すると、その妖精は、瞬間だけ考えたあと、メディにたずねる。
「悪魔ノートは持ってますか」
「はい」
素直にメディは悪魔ノートを取り出して、妖精に渡す。
妖精はそのノートに触れると、悪魔ノートのページが開きだし、はじめのスキルのページに魔力印が浮かび焼きつく。
「これが、わたしの "存在証明" 」
妖精の刻んだ魔力印には、読めない部分はあるものの、しっかりとメディに伝わった。
「妖精とは、不思議な存在ですね」
「いえいえ。それは、悪魔と天使にあって異界ドラゴンやヒトにだって通じる、何気ないただひとつの信念にして誘惑の希望」
メディは納得したようだ。
でも、ネネやミレイには疑問があった。
けれど、作業が中断しているため、慌てて続きをはじめる。
絵は数えても大量で、
小さいものからおおきいものまで揃っている。
ようやく持っていた絵を拡げおえると、
もうキッズエリアには、何名かの悪魔たちが集まっていた。
販売は始まっていないため、興味でのぞきにくるのだろう。
レミリアとライリアが、遠くで合図をしているのは、このためなんだろう。
すっかり中央図書館の臨時アルバイトとして、働くことが常態化してしまった。
「それじゃ、数を数えおえましたら、案内図をもとにして、図書館の各場所に飾りにいきます」
「はーい」
ヒイロがなにかに気づく。
「その広い場所にある、妖精の絵はなくなってしまうの」
見ると、広い壁には、かなりおおきい絵が飾られていて、ヒイロはそれが気にいっているようだ。
「いえ。この絵はクイーンの城にある絵と同じで特別です。そのままですよ」
「よかった」
妖精が、テーブルに置いた案内図には、
一階から喫茶、禁書フロアまで網羅した絵のかける場所だ。
「これいつも、一妖精でしてるの」
「はい。それが仕事です」
「大変だわ」
「でも、イイコトもあります」
「それは」
「ふふふ、秘密です」
「気になるね」
スズネとメディで、「気になる」
と急かしてみても、妖精は教えてくれなさそうだ。
それぞれで、手に持てそうな絵をもち、
一枚でおおきいものは、端を両方でつかむ。
見学している悪魔を押しのけて、番号の場所まで移動する。
ネネはひとつおおきいものを選らんだため、妖精と運ぶことになった。
「ねえ、身体の割に軽々ともっているわね」
「慣れてますから」
「もしかして、なにかスキルあるの」
「よくわかりますね。持っているものの重さを量って、その重さを軽くしたり重くしたりできますね」
「えぇ! はやくいって」
「いえ、その、わたしの手の魔力から調整するため、相手のかたにまでは使えないんです」
「それもそうね」
そのままの体勢で、いま持っている絵を運んでいくと、目的の場所は階段上がって二階の喫茶だった。
そういえば、たしかに喫茶の角の壁に一枚あった気がする。
そのほかにも複数小さいやつも。
たどりついてみると、先に小さい絵を持ってきていたミレイが、かけてあった絵をはずしている。
丁寧に汚れもとって、端によせる。
「ありがとうございます」
「あ、ネネ、それはあの絵の代わりみたいね」
角に一度置いて、改めてかけてあるものをみる。
「キレイね。でもこの空間に馴染んでいて探してみなければ、なんだか、壁の一部みたいだわ」
「よくわかりますね。置く場所に溶けるように絵の種類やその配置を考えるのもわたしなんですよ」
「そう想うと、繊細な作業なのね」
ミレイが感心して、いま持ってきた絵とかけてある絵を比べてみる。
今度は、ミレイとネネで絵をはずしていき、妖精がそれを大切に扱う。
はずしたものを床に置き、そのあと新しく入ってきた絵をそこにかける。
同じように、ミレイのはずした絵の場所にも、新しい絵をかける。
喫茶に来ていた何名かの悪魔は、その様子をみては、遠くで話している。
「さぁ、次ね」
はずした絵を再びもつと、
妖精とネネ、ミレイでさきほどのいた場所まで戻る。
この作業を数回繰り返していき、
何往復したかわからないくらいになったとき、ようやく絵が残り二枚になった。
その二枚は、とてもおおきい絵だ。
一度、みんなで集まったあと、そのおおきな絵をみつめる。
「この二枚は、どちらにしましょうか」
二枚の番号通りなら、
一枚は、四階の禁書エリアに、もう一枚は、番号が書いてなかったのだ。
「禁書エリアは、パスカードをもらってこないと。それに、かけるときにいくつか絵をまもるための防御スキルも付加しておかないといけない」
「もう一枚は」
「そう。どうしよ。展望フロアにもっていこうかと想っていたけれど、実は迷っているの」
妖精は、そこでとめて、考えこんでしまう。
キッズエリアには、もう子どもたちが集まっていて、絵に触らないようにしながらも、遠くからジッとみている。
ときどき近づいてくる子どももいるけれど、そのたびにスズネとミレイが、「ここまでよ」と言ってとめている。
「展望フロアに、飾る場所ありましたか」
「一か所あるのだけれど、夜景との相性を考えてしまう」
二枚のおおきな絵を前にして、うなってしまう。
一枚は、明るくそれでいて観たあとも、パッと現実に戻れるような、ハキハキした印象で、もう一枚は、観るものを引き込ませてしまい、その印象を強くして離さないものだ。
夜景や展望を楽しむ合間として、最適解はなにだろう。
しばらく戸惑う。
スズネが、口に手をあてながら、一悪魔言なのか、さり気なく話す。
「これって、あの場面に似てるですね」
一瞬だれに話したものかわからないまま、
ネネが聴き返す。
「絵を選ぶ場面?」
「でーとをしたあと次の日の朝、印象的なのは、キスをした瞬間なのか、それとも夜寝る前にした会話なのか」
「スズネそんなこと考えるの?」
「せんぱいは考えないですか。寝る前のアイシテルと、キスの直前にみた相手のひとみの色なのか」
「スズネ、あなたって意外と深みをいくのね」
「そうね、それならわたしはキスの味かしら」
ミレイが想像している範囲は、とても危険な気がしている。
すぐにきり返す。
「め、メディはどう想うの」
「夜景のあとに部屋をみたときって」
「ええ」
「まだ夜が眼に映っていて、部屋にその印象が強くのこるよね」
すると、妖精はなにか反応したようだ。
「それなら、夜から夜につながるこちらの深い色のほう」
これに、違う視点を選んだのは、アマツキだった。
「夜に観た風景に、次の朝が楽しみになるこちらの明るい絵の印象がいい」
「そうなの」
「はい。もし迷うなら、そうしたい」
ネネのネックレスにある宝石が、少し淡くひかった気がした。
このアマツキの意見も取り入れて、
展望フロアには、色の明るい絵を運び、残りのを禁書フロアに運んだ。
最後の一枚を禁書フロアに運んでかけると、その絵一枚で禁書フロアの印象が、ぐっと別のものにみえてくる。
「不思議ね」
「そうだね」
「これまで、ここのフロアはどこか緊張する空間だったけど、いまは少しだけ落ちつける」
「それに、少しヨユーもできたよね」
「そうそう」
妖精は、かけた絵に手をふれると、魔力を流していく。
防御スキルらしい。
ここは禁書を扱っているから、絵に対してなにが起こるかわからないからだ。
「これで、この絵は少なくとも百年はここにいられるね」
相変わらず、わたしたちの後ろでは、禁書による影響の悲鳴があがるなか、
慣れているため気にせずに話す。
「百年後かぁ。いつもそんな先を考えて仕事をするの」
「いいえ。ただの願望ですよ」
「でも、こういう苦労をしても、絵を運んでいくんですよね」
「もう次の依頼がきてます」
「そう」
「妖精って働きものなんですね」
「わたしの師匠からの言葉ばかりですけど」
妖精たちの長い時間を考えれば、
もしかしたら、百年はまだ短いのだろうか。
妖精や異界ドラゴンは、悠久を生きるといわれ、千年生きていてもその先もあるといわれる。
でも、現在だって、
悩んで苦しんで、一年間でも大変だったと振り返るときがあるのに、
それを千年続いていく生命は、どんな想いを生きるのだろうか。
「聴いてみたいことがあるのですが」
「ええ、少しならどうぞ」
「いま、高魔力の結晶や宝石を探すために、水や花の洞窟、それかタワーを探しています」
そう話すと、少しだけその妖精は懐かしそうな、それでいてなんだか、笑っているようなそんな表情をみせる。
「アッシュクされし魔力は、それと引き換えに、幸運と運命を連れてくる」
「え」
「師匠の言葉です」
「なにか手に入れるための力がほしいのですね」
「はい」
その妖精は、禁書のカウンターに近づくと、そこにある端末で、レミリアとライリアに、なにか連絡をしているようだ。
そのあと、こちらを振り向いて、ニコッと笑う。
「ルルファイスがくるまで、少し時間があるかもしれません。それまでに話せることあれば」
「このあとの予定はありますか」
「ホントなら、また次の作業準備ですが、平気ですよ」
一度一階のキッズコーナーに降りて、
散らばっている包装や機材の片付けし、レミリアに話すと、荷物を預けて喫茶に向かった。
喫茶で飲みものを購入してから、席に並ぶと、アマツキとヒイロは、仕事おわりの満足感に包まれていた。
まさか、目的を忘れてはいないかと思うものの、横にチョコンと座る妖精をみると、
夕陽の光に当てられている横顔が、とてもきらめいていて、少しの間この静かな時間に浸る。
それぞれが、思いおもいの格好でゆっくりしていて、ホントに目的を忘れてしまいそうだった。
ふと、声をだしたのは意外にもスズネだった。
「せんぱい」
「ん」
「夕陽のなか、きらめく妖精とともにいる貴重なこの時間にあまり想いだしたくはないのですが、いいすかね」
「ん、なによ」
「もしかしてこの中央図書館の司書って激務だし気をつかうし、夜中二十五時ナイト勤務もあるしで、実は悪魔的な仕事じゃ、ありません」
「そうかもね」
「クイーンのもとで働く仕事を辞めても、ルルファイスたちのところがあるって話し、少し考えなおしませんか」
「え、クイーンの仕事をやめる話しをしていたんですか」
妖精が、意外そうに聴いてくる。
「いやぁ、やめるかっていうか、悪魔生命をかけるのに、二番めの場所があってもいいのかな、ていう話しかと」
「もし、なにかありましたら、妖精の絵画販売と制作依頼も受けられるわたしのところもいいですよ」
「悪魔の仕事もけっこう悪魔的だから、悪魔として妖精の手伝いできるのでしたら、それもいいかもしれないです」
「なに、スズネ、そんなにいまの仕事大変。相談にのるよ」
「いやぁ」
そういえば、たしかにまだスズネの相談内容をしっかりと聴けてはいない。
メディは、相談されたのだろうか。
「とりあえず、水と花の洞窟みつけてからにすれば。しばらく休みでしょ」
ようやく想いだしたように、妖精が話しはじめる。
「そうでした。水の妖精と花の妖精に、たずねてみるといいでしょう」
「水と花の妖精にあえるの!?」
「ええ、たしか洞窟を管理しているのは、そうだったかとおもいます」
「そっか。よかった、それでルルファイスは妖精のこと気にしてたのかしら」
「あ、いいえ。でも、もうひとつのタワーのほうは、わからなくて」
「ありがとうございます。それで、どこにいけば逢えますか」
「説明は、少し複雑ですね」
妖精は、自身のノートを取り出すと、
悪魔界の地図や妖精たちの絵を描いてくれるのだけど、ややこしいみたいだ。
「う〜ん、わかるかしら」
「どう」
「いったことのない場所ね」
やや申し訳なさそうに、妖精がしている。
「案内できればいいのですが」
「そんなことないです」
「そうね。ルルファイスにももう少し思い出してもらって、そのあと出発してみましょ」
ミレイが提案して、改めて説明を受けてから、一度わかれる。
ルルファイスは、テーブルと一体化していた。
寝ているようだけど、起こそうか迷ってしまう。
「もう少し聴きたいけど、妖精もまだ片付けしているし、少し待ちましょうか」
ヒイロが、自身の持っていた上着をかけてあげていた。
せめて、いまだけは素敵な眠りを。




