ネネの部屋、再集合
「おわったね」
「よく働いたわ」
「少し休んで」
レミリアは、隣のイスで生クリームトロリッシュコーヒーを飲んで一息ついている。
「ホントは、わたしたち司書は館内であんまり飲み食べしちゃいけないのよ」
と言ってはいるものの、さきほどのショックがとれて、ようやく少し落ち着いたようだ。
「いろいろ制限あるのね」
「取り扱い危険なものも多数あるからね」
ヒイロとアマツキが、思い出したように、ノートを拡げる。
「まだ残っていたよね」
「そうだ。なんだっけ」
八番のアルバイトの件は、置いておくにして、とヒイロがメモに目を通していく。
「あ、妖精」
「そう! ライリアが、絵の販売妖精がくるって言ってたよ」
「え、いつくらいかしら」
「あ、え〜と、時間はわからないって」
「そうよね。妖精たちって、時間をあまり教えてくれないのよね」
「そうなんだ」
レミリアが、とりあえず、と言って席から立ちあがる。
「ライリアをあまり待たせられないから、もういくわ」
「そっかぁ。少しは休めた」
「うんうん。ありがとう、みんな」
レミリアは、自分の飲みものの空とテーブルに拡がるいくつかの書籍、それにライリアに渡す飲みものを手に持って、歩いていく。
背中ごしに、手をふってくれる。
「さぁ、じゃルルファイスのところにいきましょ」
レミリアを見送りながら階段に向かうと、
黒鉄鳥が近くにきて、ネネとミレイになにかを届けてくれる。
「手紙かしら」
「なにか中にはいってるわ」
「ありがとう」
二羽の黒鉄鳥は、用が済むとすぐにいなくなる。
ネネは気づいて、手を伸ばすも、もう遠くにいる。
「ネネどうしたの」
「あ、聴きたいことあったんだけど、ま、今度にするわ」
伸ばしていた手を戻す。
そのまま、渡された手紙の表をみると、一枚はクイーンからで、もう一枚は、アヤネからのだった。
「アヤネだわ」
「うん」
開けようか迷うも、もしかしたら、ナイショ話しかもしれないと想ってあける手をとめる。
階段を進んで四階につくと、すぐにゲートがみえる。
ここのフロアは静かで、あまり悪魔がいないようだ。
手前のカウンターにはルルファイスはいないため、中通路の棚の間にいるのかもしれない。
ネネは返しそびれている禁書フロアのカードで、タッチしてゲートを通っていく。
あまり呼びかけるとうるさいため、少し静かにしながら、通路を進んでいく。
二つめの棚を通りすぎた、棚と棚の通路で、ルルファイスを発見した。
「ルルファイス、やっとみつけた」
おそらく、返却された禁書を棚に戻しているのだろう。
片手にはタブレットを持っている。
静かな空間に、ルルファイスがテキパキと仕事をしていると、なかなかに絵になる。
ときどき悲鳴や本からの叫び声が聴こえてくる。
静かではなかった。
おそらく、禁書の使い方を間違えて、禁書からの反撃をうけているのだろう。
ルルファイスも慣れているのか、特に気にしている風ではない。
「ネネにヒイロたち」
「やっとみつけたぁ、ルルファイス会いたかった」
「え、そんなに!?」
ルルファイスに、ライリアとレミリアに会ったことと、頼まれごとをしたこと、それから、ヒイロの活躍の話しをする。
特に、ヒイロが積極的になっていた話しをすると、ルルファイスが眼を細めながら、うふふっ、と笑っていた。
アマツキが合間で、そうそう、と相づちをうっている。
一区切りしたところで、そうだ、とカウンターで渡されたタイトルが描いてある紙を渡す。
「はぁ、楽しいわね。これは」
「ライリアからみたいだけど」
「ありがとう」
ルルファイスは、表をみたあと、折りたたまれている小さくなっている手紙を丁寧に、ほどいていく。
「手紙ってそんなに小さくなるんだね」
「ふふ、メディはどうしてるの」
「四角に二回くらいおったあとは、そのままだよ」
「折り方教えてあげるわ」
「覚えられるかな」
ルルファイスは、手紙を少し読んだあと、
何度か折り返して、エプロンのポケットにしまった。
「わかったわ」
「これで頼まれたことの、残りは二つかしら」
「もう図書館の一員なのね」
「わたしたち、立派に司書になれるかしら」
「それより、目的をわすれてるわよ」
「は!」
「もう、なにしにきたんだか」
ミレイが苦笑するも、どこか楽しそうな声音だ。
「それでなんだけど」
「手記は観られたのかしら」
「ええ、洞窟とタワー。それにお城の絵」
すると、ルルファイスは、少し眼を細めて、一瞬だけ表情がきえている。
ホンの少しだけ間をあけて、ふふふと笑っている。
「あぁ、そうだわ。あの絵」
「うん?」
「また絵の妖精がくるのよね」
「そうみたい。時間はわからないって」
「不思議なのよね」
「フシギ? 絵のこと」
「お城にかけられる絵と、中央図書館にかけられる絵は、同じ業者の妖精なんだけどね」
「うん」
「かならず絵の魔力に引き寄せられて、何名かが、行き先をたずねるのよ」
「そうなの」
「その場所で発見されるものは、それぞれ違うみたいで、カタチもあったりなかったり。でも、その絵の描いたサインが読めなくて、だれが絵を描いて魔力をこめているのか不明なの」
「聴いてみたらいいのに」
ヒイロが不思議そうにたずねる。
「そうよね。ふふ。もしかしたら "メディナナタリア" なら、その妖精は教えてくれるかもしれないわ。たずねてみたら」
「なぜ」
「さぁ、ひとつ言えるなら、 "転生者" にはわかるなにかがあるのかしら」
ネネとミレイは、目をあわせたあと、メディをみると、メディはこれまでに、あまり見たことのない冷笑をうかべている。
そして、なぜだかスズネだけが、その表情をみて、驚かずにいた。
「絵の行き先は、絵の魔力が教えてくれるわ。もしわからなければ、ファルティに聴いてね」
「わかったわ」
「洞窟とタワーかぁ。懐かしいわね」
そのあと、ルルファイスはいくつかの洞窟を思い出してくれて、タワーは幻消スキルによって、目隠しされていると教えてくれた。
相変わらず、禁書による反撃をうけた悪魔のうめき声が聴こえてくるなか、夕方に時間があくから、そのときに待ちあわせをして、場所の詳細を渡してくれることになった。
「ごめんなさい。そろそろ清掃と交代の準備をしなくちゃ。たびたび来てもらっているのに」
「いいえ。気にしないの」
「それじゃ」
ルルファイスが仕事に戻るなか、
カウンターのイスに並んで座る。
「どうしよっか」
「わたし、一度荷物の整理とバックの中身を入れ替えたいわ」
「わたしは着替えたい」
「そっか。じゃ、中央図書館のどこかで再集合して、そのあとゆっくりとルルファイスを待とう」
ヒイロとアマツキは、手あそびをしながらその話しをきいていて、同じ言葉を繰り返す。
「う〜ん、どうしよっかな」
「どうしよっか」
「う〜ん」
ヒイロとアマツキは、いま戻る部屋がないため、どこにいこうか迷うみたいだ。
ネネとメディ、スズネはそれぞれの部屋に一度戻ることになった。
ミレイが提案する。
「一度解散するのだから、少し周りで遊んできてもいいのよ」
ヒイロとアマツキが、手あそびをしながら、ミレイにかえす。
「「子どもじゃないから」」
ミレイは、つい笑ってしまう。
「そう。子どもじゃないのね」
「ええ、そうよ」
そう言いながら仲良さそうにまだ、手を組んだりタッチしたりしてリズミカルに、あわせている。
「それ、どこで覚えるのよ」
「図書館のなかだよ」
「そうなのね」
どうやら、図書館のなかで遊びあっている悪魔子どもたちをみて覚えたようだ。
覚えるのは早いらしい。
「そう。じゃオトナしく待っていてね」
「はぁい」
ミレイも用事があるため、一度戻ることにした様子だ。
ネネは、なんだか久しぶりの部屋についた。
ひとまず、部屋の魔力灯をつけて、カーテンをあける。
まだ外は日差しがまぶしい。
バックの中身や着ていた服を少しひろげたあと、持ちものをいくつか探してみる。
ベットのいつもの場所に宝石をかけて、
あっという間に、ベットは荷物がたくさん置かれる。
「まい、なにが必要かな」
「いちお、また長くなるかもしれないし、必要なものは揃えたいわ」
引き出しをあけたり、クローゼットをみたり、バックの中身を分けたりとしていると、いろんなものを散乱させながら、気がついたら一時間近くは経っていた。
「そうだわ。シャワーも浴びたいんだった」
散らかしたものを慌てて戻しつつ、冷たい自然水を取り出して、コップ一杯飲む。
そのままの勢いでタオルと着替えを持って、シャワー室に向かう。
なぜだか、シャワーを浴びて水音を聴きながら、ボーッと考えごとをしている。
"このあとは部屋を整頓したらおでかけ"
"高魔力結晶か宝石"
"スズネはやっぱり変よね"
"アタマボーッとするな"
"まい、ここ最近返事みたいなのしたりスキルがいつの間にか発動するのよね。意思があるような"
三十分ほどははいっていただろうか。
丁寧に洗いすぎたくらいだ。
キュッと水道をとめると、わたしから落ちる水滴の音だけになる。
少しの間そうしている。
「でなきゃ」
シャワー室からでて、タオルで水滴をふきとっていく。
着替えて、洗面所にある魔力鏡をみているうちに、ある出来事を思い出す。
ミレイが言ってくれたあの言葉。
「はやくいかなくちゃ」
ようやく頭がクリアになり、慌てて洗面所からでて、さきほどと変わらない状態の部屋の片付けをした。
外にでる服装に着替えて、バックの中身を確認して、クラフトの材料もこと細かく確認する。
でる間際には宝石を身に着けて、
トロピカルガンと魔改ナイフも持つ。
部屋をでる前に、カーテンをしめてもう一度部屋のなかを振り返る。
「なぜかしら、なんだか寂しいわ」
一度向きかけた足を戻して、リビングのテーブルに一枚のメモを描いておいておく。
「いきましょ。まい」
玄関の扉から、でる前に一度荷物やバックを確認して、宝石つきのネックレスを首にかけて、それから外にでた。
カードキーで鍵をしめると、空をみる。
まぶしい空。
次にここにくるときには、なんとなくメディと一緒のような、そんな気がした。
中央図書館にいき、受付カウンターのレミリアを見ながら、喫茶につくともうみんな揃っていた。
わたしは、バック以外に少しだけ荷物を増やしていた。
「ネネ、荷物はしっかりと点検できた」
「うん。ミレイは、身軽なのね」
ミレイの足元をみると、少しだけ大きめなバックひとつとショルダーバックで収まっている。
それでも、通常はショルダーにしている小さなバックひとつなため、おおいのかもしれない。
スズネは、リュックひとつで、メディはまたもいつもかけているバックひとつだ。
なにしに部屋に帰ったのだろうか。
「メディ、それで足りるの」
「現地調達する」
「洞窟とタワーなのよ」
「あとは、黒鉄にまかせるよ」
「そうなのね」
もしかしたら、黒鉄に荷物を預けてあるのかもしれない。
それなら、納得だ。
ヒイロとアマツキが、先に飲みものを飲みつつ、なにかをテーブルに広げている。
待っている間、遊んでいたかと思っていたけど、図書館で探しものをしていたのかもしれない。
相変わらず薄着で、どこか近くに散歩しにいくような服装のスズネが、少し気になるけれど、
そこは、ミレイもいるし、きっとなんとかなるのだろう。
「ルルファイスがくるのは、夕方以降よね」
「まだ図書館バタバタしてるし、すぐに来てくれるか、わからないわね」
ヒイロとアマツキの手元をみていると、なにか地図のような地形図のようなものを手にしている。
隣には、デビルスマホが置いてあり、コンパス機能や検索機能やらをつかっているようだ。
そういえば、ヒイロは図書館の音響機器にも詳しかったし、アマツキはスマホは持っていないため、たぶんヒイロが使いこなしているのだろう。
「覚えるのはやいよね。あっという間」
「これのこと」
「そうそう」
するとヒイロは振り返って、喫茶の席にいる別の女の子をみて、手をふっている。
化粧をしていて、微笑しながら手をふり返してくれる。
わたしのみたことのない悪魔なため、ヒイロの知り合いだろうか。
「あの娘は」
「さっき、スマホ教えてもらってた。地図や地形図も読みとれるんだけど、画面小さいし、そういう場合は、手元の資料のほうが見やすいかもねって」
「知り合うのはやいね」
「アマツキと話したかったんじゃん」
「ん? どういうこと?」
少し聴くとどうやら、はじめはヒイロに話しかけていたけど、天使アマツキに交代すると、すごく興奮していたらしい。
天使と話したかったのか、アマツキが特別なのか、イケメン好きなのかわからない。
「アマツキって、もしかしてモテるのかな」
言ったあとで、ネネは言わないほうがよかったかな、と思う。
ヒイロは素っ気ない。
「そうかもね。この前探検してたときも、別の悪魔に話しかけられてたし、一緒に歩いてると、ちらちらアマツキのこと観てることおおい」
「それは、ヒイロのこと観てるのかもよ」
「わたし? そんなわけないわ。スズネみたいにセクシーじゃないし、ネネみたく笑顔も可愛くないもの」
少しだけ、疑問が湧いてしまう。
ルルファイスをはじめとして、こんなにヒイロは、いろんな方面で可愛がられているのに、この娘は無自覚なのかしら。
それとも、アマツキの話しにムッとしてるから、無意識にそういう言葉がでてくるのかしら。
「それで、地図でなにかわかったすか?」
スズネは、セクシーと言われて少し照れているらしい。
「あ、これ」
中央図書館の場所を指したあと、別の地形図をだしてくる。
ルルファイスの手記には、細かい指示はなかったけれど、洞窟の特徴が描かれていた。
ひとつのものは、水の洞窟。
水の精霊が住むとされていて、鳥や獣たちがゆっくりくつろぐ場所で、近代的な建ものや鉄塔などは少ない。
水の魔力を辿れるだれかに、頼るといいらしい。
もうひとつは、花の洞窟。
花の精霊がおおく住むとされていて、
あまり動物たちは、近寄らないらしい。
場所の目印はないけれど、
花に詳しい妖精か、導く者に聴いてみるといいらしい。
「水の洞窟なら、水の近くなんだろうし、河とか湖とか」
「海とか」
「海は、広すぎない」
「海辺で泳ぎたいね」
「水着もっていきたい」
「てか、海みたことないね」
「そうかも」
ヒイロとアマツキは、すっかり海にいく気になったようだ。
「河なら山の近くとか、上流かもよ」
「水の魔力を持っている悪魔ってだれかしら」
地形図をみながら、水やそれに関して詳しそうな悪魔がいないか、心あたりを浮かべるも、なかなか浮かばない。
とりあえず、とネネが黒鉄にたずねてみようかしらと思うと、スズネが「近くの海辺までいきません」と言って、それにミレイが「そうね。ひさびさにみたいわ」とつながり、ヒイロとアマツキが「海みたい」となって、海水浴気分で近くの海まではいくことになりそうだ。
メディと眼をあわせるも、なんだか楽しそうなため、仕方なくネネも承諾した。
さきほどの知り合ったばかりの女の娘悪魔が、アマツキに話しかけて、地形図と地図、それにヒイロのスマホでいくつかの洞窟の情報を集めていると、夕方になるくらいの時間で、ルルファイスが仕事を終えてきた。
「ねぇ、ルルファイスは海いかないの?」
ヒイロのお誘いがあって、一瞬だけルルファイスは、目をかがやかせたあと、すぐに、頭をかかえてイスに座り、目も虚ろに話してくれた。
「うふふ、それは魅力的ね。いいわね、ヒイロとネネとミレイの水着がみられるなら、もう悪魔に未練はないわ。でも、忙しすぎるのよ。海までいってくると、もう帰りたくなくなるわ。だめなのよ。うふふ、そう、もはや逃亡ね。ね、ヒイロ、いいわね。そのままこの世界の果てまで、案内してくれないかしら?」
この場にいるルルファイス以外のみんなで同じことを想っていた。
ルルファイスつかれてる、壊れかけてるわ。
危険ね。
やめておこう。
そのままルルファイスの意識が正常に戻るまで、ヒイロとミレイが、お世話をしている。
ネネとスズネとで、その間に女の娘悪魔と一緒に水の洞窟、花の洞窟のヒントになりそうなことを探しているとき、
窓の外をみると、フードをかぶって、後ろのカートに、たくさんの四角い荷物をもった妖精が、中央図書館にくるところだった。




