第1話 プロローグ アヴァロン
この作品は長編です。
どうか応援よろしくお願いいたします。
死者を百年かけて蘇らせる。
そのために作られた装置の名は『アヴァロン』。
僕がこれから受ける治療は、その装置に身を委ねることから始まる。
もちろん、誰でも受けられるわけじゃない。
十八歳以下であること。治療に耐えられる体であること。
そして何よりいまの医学では救えない病を抱え、余命を宣告されていること。
僕はすべての条件を満たしていた。
だから治験体第一号として選ばれた。
もう長くは生きられないのなら……。
せめて賭けてみたい。たとえ成功の確率が低くても、百年後に目を覚ませる可能性があるのなら。
♦ ♦ 数ヶ月後
「おはよう、ユウガミ君。昨夜は眠れましたか?今日は朝一番で検査がありますからね。そろそろ準備しましょうか」
担当の看護師がやってきて、やわらかい声で告げた。
ここ数日、体力は目に見えて落ちていた。
歩くのもつらく、一日の大半をベッドで過ごす。
夜は眠れず、明け方にうとうとするだけだ。
昨夜も同じで、今朝は早くに目が覚め、ぼんやりとテレビのニュースを眺めていた。
「ユウガミ君、ごめんね。検査の時間なのでテレビは消しますね」
「あっ、はい。うっ、ううっっっ……!頭が……!い、痛い……!!」
立ち上がった瞬間、頭に鋭い痛みが走り、そのまま床に倒れ込んだ。
「ユウガミ君!? だ、大丈夫ですか!? ロバート先生!!ユ……ガミくっ……が……!!」
看護師の声が遠のく。朦朧とした意識のまま、誰かに運ばれていった。
『ピッ……ピッ……ピッ……』
「先生、バイタルが下がっています!」
「ユウガミ君の命は持ってあと数時間だろう……。意識もすぐに途切れる」
ロバート医師の声が、かすかに耳に届く。
「アヴァロンの準備を。それからご両親に連絡を」
そしてその時はやってきた。とある研究所で僕は最期を迎えようとしていた。
体中が痛む。呼吸が苦しい。
「……痛い……息が、できない……」
胸が締めつけられ、視界がにじむ。
(これで……終わりなのか……? まだ何も……してないのに……!)
「嫌だ……」
死を覚悟していたはずなのに、やっぱり怖い。
意識がぼやけていく中で、父と母が研究所に駆けつけ、僕の手を強く握っていた。
「レン、怖がらなくていい。私たちはずっとそばにいるから」
「そうだ……。百年後も、お前は生きている……。信じてるぞ、レン」
二人は泣かなかった。
息子を見送る悲しみよりも、未来に託す希望を信じていた。
その姿に、僕は胸を締めつけられる。
「父さん……母さん……ありがとう……」
もっと伝えたいことがあったのに、言葉にならなかった。
「ユウガミ君。君にこの処置を施し、効果を確かめるには百年の時が必要です。たとえ成功しても、君のご両親も友人も……私自身も、その時にはもういない。君が目覚める頃、孤独に耐えなければならないかもしれない。だが君なら乗り越えられると信じています。君の存在が、未来の人々の希望になるのです」
ロバート医師の声が、静かに心へ沁みていった。
(……ありがとう、先生)
心の中でそう呟いた。
百年後。
僕は生きているのだろうか。
病は治っているのだろうか。
新しい時代の人たちと、笑い合えるのだろうか。
疑問が次々に浮かんでは、闇の中へ沈んでいく。
最後の力を振り絞り、僕は口を開いた。
「さようなら……みんな。本当にありがとう……!それじゃあ……行ってきます……」
游神蓮 十七歳
二〇四〇年三月二十六日 死去