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はじまり

 虹森町に7歳の男の子が住んでいました。


 その町のはずれには緑豊かな森があり、町の高い建物から森を見ると、森のはずれには逆さにかかった虹が見えます。


 男の子は、家の近くの公園で泣いていました。なぜなら、小さいときから一緒だったペットの猫が病気で亡くなってしまったからなのです。


 男の子がベンチで泣いていると、少し年上の少女が歩いてきて、ベンチに座りました。


「ねえ。なんで泣いているの?」帽子をかぶっているかわいらしい少女が聞いてきました。


「うん。ずっと一緒に暮らしていたペットの猫が病気でしんじゃった…」


「そう… あなたのお名前は?」少女は聞いてきました。


「しんご」僕は少女の顔を見ました。とっても優しそうな女の子です。


「あたしの名前はゆかり」女の子はハンカチを差し出してきました。


 僕はゆかりから借りたハンカチで涙をふきました。


「ねえ。ブランコに乗らない?」ゆかりは立ち上がって、手をさしだしてきました。


 僕はゆかりの手をにぎり、公園に2つあるブランコに座り、こぎはじめました。


「ねえ。猫ちゃん。きっと天国であなたを見ているわよ。そんな顔をしていたら猫ちゃんも悲しんじゃうよ」


「うん。ありがと…」僕はブランコをこぎながら前方をみました。


「ねえ。森の逆さ虹近くで見たことがある?」ゆかりはしんごに聞いてきました。


「ないよ。森の中まで行ったことはあるんだけど、虹の近くまで行くと消えちゃうんだ…」


「あたしは見たことがあるの… ある順番で道を通っていかないとだめなんだけど…

ねえ。良かったら一緒に行ってみない?」ゆかりはブランコをこぎながら、こぐタイミングを僕に合わせて聞いてきた。


「うん。いいよ…」次の土曜日。用事がないから僕はOKと言った。


 ゆかりはいきよい良くぶらんこをこぎ、ブランコが一番高い場所まで上がったあと飛び降りた。

「よっと」ゆかりは着地した。そのときにかぶっていた帽子が飛び、1メートルぐらい離れたところに落ちる。

 ゆかりの髪はちょっと茶色がかっている。

 すぐにゆかりはこっちの顔を見て僕の表情を見ている。その後、ほっとしたような顔をして帽子を拾ってかぶりなおす。


☆☆☆


 僕はお母さんに、公園で知り合った女の子と一緒に森へ遊びに行ってくるとお母さんに言い、家を出た。


 家を出たのは10時ごろ。


 公園のベンチのところで待ち合わせ。


 ゆかりはベンチで座って待っていた。最初にあったときと同じで頭には帽子をかぶっている。


「待った?」


「うん。ちょっとだけ。でもあたしが早く来たから… 行きましょ… あたしの後についてきて…」


 ゆかりは立ち上がった。ゆかりは小さなカバンを持っていた。水筒も肩にかけてた。


 僕はお母さんに持たせてもらったおにぎりを持っていた。女の子と一緒に食べなさいと言われて、多めにおにぎりを作ってくれた。


「ねえ。ゆかりちゃん。どこに住んでいるの?」僕はゆかりの住んでいるところを知らなかったので聞いた。まだ会ったのは2回目なんだけど…


「えーとね。森の逆さ虹の向こう側」ゆかりは歩きながら話してくれた。


「逆さ虹の向こう側… ねえ。たぶん森の中だと思うんだけど、人が住めるところはあったっけ?」


 僕は学校の授業でこの町の地図を見たことがある。逆さ虹のあたりとか、その向こうは森が広がっていたはず…


「うん。あるの… このあたりに住んでいる人にはあまり知られていないけど…

ねえ。近道しましょ」


 住宅がある道を歩いていたが、住宅の前に赤いポストがある家とその隣にバス停がある家の間にある細い通路を指さしてゆかりはその細い道に入っていった。道幅は人がやっと通れるぐらい。草が生えている。きっと近所の猫とかならこの道は通るんだと思うけど…


 ゆかりは、どんどん細い道を進む。細い道を進み、両側にある家の庭を過ぎると、空地に出た。

 あれ? こんなところに空地。あったっけ?


 僕は後ろを見る。後ろには今通ってきた細い道が見える。上を見る。いつもどおりの空。


 ここ。どこかな? 見たことがない感じの家が並んでいるし、道路も通ったことがない。


 女の子は、右にまがりまっすぐ進む。別の公園を過ぎて小川の橋を渡り、森の入り口の遊歩道のところまで歩いて行く。


「ねえ。本当に逆さ虹のところまで行けるの? 近くまで行ったら消えちゃうんじゃない?」


 僕はゆかりに聞いた。「いいえ。きっと大丈夫。道順。間違っていないから」ゆかりは手を差し出してきた。まいごになるといけないから… お姉さんの手を握って… と言ってきた。


「僕はそんなに小さくないし、もう7歳だから迷子にならないよ」と言いながら僕はゆかりの手をつないだ。手をつなぎたかったからだ。


 ちょっとだけ年上の優しい女の子。


 遊歩道を歩く。森に入ると、住宅街にいるときに聞こえなかった鳥の声が聞こえる。遊歩道の下に小川が流れている。いいところ。自然がいっぱいだ。


「こっち」ゆかりは遊歩道の分岐点で立ち止まり右へと曲がる。


 あれ? ここに右へと曲がる道あったっけ?


「ねえ。ここ。右に行く道って昔からあったっけ?」僕はゆかりの後を歩きながら言う。


「うん。昔からあるわよ… きっとみんな気が付かないか見えてないのね…」とゆかりは言う。


「気が付かないということはないと思うんだけど…」うーん。僕は疑問に思いながらあとをついて歩く。


 しばらく歩くと遊歩道は曲がり道になり、曲がった後は遊歩道が終わり、森の道になる。


 森の道になってからもしばらく歩く。


 ちょっとした下り坂。僕は木の根っこが道に出ていたところを歩こうとして、つまずく。


「あ。痛い…」僕は転んで、膝をすりむいてしまった。血がにじんでいる。


 ゆかりはしゃがんで僕の膝を見た。そして立ち上がって「大丈夫? ちょっと待ってて…」と言って、元来た道を戻っていく。


 僕はしゃがんだまま待っていると、ゆかりは戻ってきた。手にはハンカチを2つ。


 1つ目のハンカチは小川にひたして、少し水で濡らしてきたみたいだ。少し水でぬらしたハンカチで、僕の膝についたどろやすごく小さい小石を拭いてから、もう一つのハンカチを僕の膝にまきつけてくれた。


「ありがと…」ハンカチに少し血がにじんでくる。


「あとでそのハンカチを返してね…」ゆかりは言う。


 さあ行きましょ。とゆかりは言って、僕の隣を歩いてくれる。


 森の切り株が3つあるところの道を左に曲がる。


 その後、さらに進み、巨木が倒れているところを過ぎてから、T字の道を左に曲がる。

 T字の道を10分ぐらい進んだ後、さらにT字の道。また左に曲がる。このままだと元来たところに戻ってしまいそうだ。


「ねえ。また曲がると、元来たところに戻っていかない?」僕はゆかりに聞いた。


「大丈夫。この道であっているから」女の子は更に進んでいく。


 そして、森が開けてきた。


「なんか森が開けてきたよ…」いつの間にか上りの道になっていて、見晴らしがよいところに出てきたみたいだ。


「ねえ。右上のほうを見て。逆さ虹」ゆかりが言う。


「うわ。ほんとだ…」普通は虹を近くで見ることはできない。20メートルぐらい向こうの上には虹が見えた。


「あそこの道から、さらに行くと虹に触ることができるわよ…」


「えー。嘘だぁ。虹は触れないよ…」僕はゆかりの後をついて歩く。


 逆さ虹の根元。うっすらとしているが7色の虹が上に見える。手で触ることができる位置に7色の雲で出来ているかのような虹がある。


「ほら。虹… 手で触ると、少し7色がまざるよ… でもすぐに7色に分かれるの…」ゆかりが虹にさわる。

 

 僕も虹に触ってみる、ほんのり冷たい。冷気を感じる。僕は虹に触ると7色が少しだけまざる。


「うわぁ。何これ… 虹に触ることができる」僕たちがいる道。虹。そして虹の向こう側は崖になっている。崖から反対側の崖に向かって逆さの虹がかかっている。晴れの日だったらだいたいこの虹は見える。普通は虹は消えてしまうんだけど、消えることはない虹。不思議な逆さ虹。


「この虹には不思議な力があるの。普段は見えない動物が見えたり。動物の言葉がわかったりするの。

帰り道にきっと動物さんと出会うわね… 会ったら紹介してあげる…」ゆかりは言った。


「へー」そんなことがあるのかな? 僕はゆかりの言葉を信じられなかったけど、ウソをつく子ではない。


 僕とゆかりは元来た道を戻る。


 森の中。こまどりの声が聞こえる。


「綺麗な声だね…」僕はゆかりに言う。


「そうね。ねえコマドリさん。あなた歌が上手ね…」ゆかりは枝の上にとまっている小鳥に向かって言う。


 コマドリは歌うのをやめて言う。


『そう。アリガト。自慢の歌なんだよ。森のささやきという題名なんだよ…』コマドリが言った。


「え?」今の声って… 僕はしゃべっていない。ゆかりの声でもない。すると…


『やあ。君は初めてだね。僕はコマドリのこまりだよ』


「え。あ。ああ。はじめまして。僕はしんご」挨拶をしてみた。


『よろしく。しんご君。じゃあ僕はあっちのほうで、歌うから。またいつか…』

 こまりは言ってから飛び立った。


「ねえ。小鳥がしゃべったよ…」僕はゆかりに言った。


「うん。でしょ。動物の言葉がわかるようになったのよ… あの虹のおかげ…」ゆかりは歩き出した。


さらに歩き。巨木がが折れているところにさしかかると、巨木の後ろに何かいるのを見つけた。


「ひ。あ。あ。あれ。熊…」僕は巨木の後ろに隠れている熊を見つけた。


「あら。こんにちは熊さん。怖がらなくてもいいわよ」とゆかりは熊に話しかける。


「あ。危ないよ。熊だよ… えーとどうすればいいんだっけ? 死んだふり? じゃなかった。鈴を鳴らして、近づかないようにって。だめ。そこにいるし…」僕はがくがく震えだした。


 ゆかりはかまわず、巨木の後ろにいる熊に向かって歩いて行く。


「ねえ。怖がらなくてもいいわよ。あたしとしんごは何もしないから出ておいで…」ゆかりは熊に向かって話しかける。


『本当に何もしない? 人間は怖いから…』2メートルはありそうな熊が立ち上がり、巨木の後ろから出てくる。

 この熊もしゃべった。しかもぷるぷる震えている。僕とおんなじだ。


 ゆかりは、熊の手をにぎる。そして熊の手をひいて、巨木の前に連れてくる。


 ぷるぷる震えて怖がりなくま。

 僕はそんなぷるぷる震えて怖そうにしている熊を見ておかしくなってきて笑った。


「なんで体の大きな熊が怖がって震えているの? 僕も怖かったけど、おかしくなっちゃった」


『そう… たしかに体の大きな僕がぷるぷる震えているのも変だね』体の大きな熊は手をさしだしてきた。僕は熊と握手をした。


 そのとき、『こらあ。僕のクルミをとったなぁ。まてー』という声。しましまの大きくて太いしっぽを付けている動物が横切っていく。動物の前方を見ると蛇。蛇ってクルミを食べたっけ?

 クルミをくわえている蛇がこっちを向いた。


『あれは、アライグマのシマ君。くるみをくわえているのはロンだよ。シマ君はいつも暴れているから僕は怖くて…』と体の大きい熊は言う。


「そんなに体が大きくても怖いんだ…」僕は熊君に言った。


「この子。怖がりなんだけど、力持ちなんだよ。ねえ。あたし達を片手で持ち上げることができるんだよね」とゆかり。


 熊は『うん。僕の腕に座ってごらん。そのまま持ち上げてみるから…』と言いながら熊はしゃがむ。熊の左腕に僕は座る。逆の右腕にゆかりが座る。そして熊は立ち上がった。

 僕は熊の二の腕のところに座り、手をつかむ。熊の手。でっかくてごっつい手だ。

 熊が立ち上がると、視線がいっきに高くなる。


 大男に持ち上げらているみたいだ。


「すごいね。力持ち」僕は熊と、熊の顔の向こうに見えるゆかりの顔を見た。


『あそこの巨木。昔はこの道をふさいでいたんだ。じゃまだから僕が持ち上げて、巨木をどかしたんだ』と熊は言う。


 熊はしゃがんで、僕たちを道に下す。


「じゃあね。熊さん」ゆかりは熊に言う。


『じゃあ。また。ああ。そうだ。これあげるよ』熊は、僕たちにどんぐりを2つくれた。


☆☆☆


 道を少し進むと、道のわきに狐が座っていた。


『こんにちは。いい天気だね… ところでどんぐり池には行ったのかい?』狐が話しかけてきた。


「どんぐり池?」僕は狐に聞いてみた。


『うん。先の道を左に曲がって行くとあるんだよ… 水が綺麗なんだ。池の底が見えるよ…

ああ。そうだ。どんぐりを投げ込んで願い事をすると、願いがかなうという噂があるよ…』


「ふーん。そうなんだ。ねえ。行ってみない?」僕は気になったのでゆかりに聞いた。


「うん。行きましょ…」狐に教えられたとおりに先の道を曲がる。


 ちょっとだけ進むと、池が見えてきた。狐が言うとおりに水は綺麗だ。池の底が見える。


「綺麗な場所だね。そして静か…」トリの声も聞こえない。ざわざわとする風が吹いたときに鳴る木の葉の音もしない。しーんとしている。


「ねえ。熊さんからどんぐりを2つもらったでしょ。一個あたしに頂戴? 一個は大事にしんごが持っていて、もう一つは投げ込んで2人でお願いごとをするの…」


「うん。いいよ。あげる」僕はどんぐりの1つをゆかりにあげた。


 ゆかりはどんぐりを池に投げ込む。ぽちゃんという音がする。


 願いごとをした。


☆☆☆


 池のほとりで休憩をすることにした。倒れている木があったので、そこに2人で並んで腰かける。

 おかあさんに作ってくれたおにぎりを僕とゆかりで分けて食べた。


 空気が澄んでいる森。森の空気はおいしい。だからおにぎりもとってもおいしかった。

 ゆかりが持ってきてくれた水筒の飲み物も分けてもらう。今まで飲んだことがない飲み物の味がした。柑橘系だと思うけど何かわからなかった。


「さあ。行きましょ…」ゆかりが木から立ち上がる。


 僕は下に置いていたカバンを手にとる。忘れ物がないかを確認してから、歩き、その池をあとにした。


 帰り道。ちょっと広めの原っぱに出た。原っぱの向こうには木の根っこが飛び出した広場がある。


「ねえ。あの根っこを登って向こう側に行くと、川があるの。行ってみる?」ゆかりは言ってきた。


「うん。行ってみよう…」僕は木の根っこに登った。僕の胴体ぐらいの太さがある根っこ。結構入り組んでいる。


 ゆかりは方手で帽子を押さえながら、根っこを登っていく。


「ねえ。何で帽子をかぶっているの?」僕はゆかりに聞いてみた。


「えっ。あ。そうね。あとで教えてあげる…」ゆかりはその場で答えずに、根っこを登っていく。


 僕はゆかりの後をついて根っこを登り、一番上のほうにある根っこに腰をかけた。


「ちょっと休憩。つかれたよ…」僕は一休みした。根っこに座って足をぶらんぶらんしていると。

『お。新入りだな』とリスが木の上から降りて来て言った。


「やあ。こんにちは」僕はリスに話しかけた。


『ねえ。知っているかい? この木の根っこは生きているんだよ…』


「何言っているの。あたりまえでしょ。木は生きているんだから…」


『うん。そういうことではなくて、人間の男の子は気をつけないとね。この木の根っこは動くんだよ。君みたいな子は、根っこにつかまっちゃうことがあるんだよね…』


「え”。そうなの?」僕は怖くなった。


『どうやら。君はいい子みたいだから大丈夫だと思うよ… ここでウソをつくと、根っこにつかまって。根っこと同化してしまうんだよ…』


「そ。そうなの?」


「ほら。あの根っこ。顔に見えないかい?」


「げっ。なんか顔に見える…」僕は怖くなって立ち上がった。


『正直ものは捕まることはないよ。それは覚えておいてね… あ。そうだ。この先にあるおんぼろ橋は渡っちゃいけないよ。ぼろぼろだからね…』と言い残してりすは木の上に登る。登って行ってしまった。


 なんか怖くなっちゃった。僕は木の根っこの向こうで待っているゆかりを見た。


 僕は木の根っこをつたって、ゆかりの元へと降りて行った。


☆☆☆


 川の水の音が聞こえる。崖も見えている。森が分かれ、崖の下に川が流れている。そして崖にかかっているいかにも壊れそうになっている吊り橋があった。


「ねえ。この先は行ったことがないの。行ってみる?」ゆかりは聞いてきた。


「いや。やめよう。もう壊れそうだよ…」


「そうね。やめましょ」ゆかりはくるりと横を見て、崖沿いにある道を指さす。


 この道を通っていくと、遊歩道があるらしい。


☆☆☆


 遊歩道を見つけて、歩く。しばらく遊歩道の上を歩き、見たことがある場所に出てきた。


 ふーん。ここに出てくるのか。


 逆さ虹の森。森の入り口の遊歩道まで戻ってきた。


 森の入り口を振り返る。そこにはゆかりが立っていた。


 さーと風が吹く。


 風により、ゆかりのかぶっている帽子が風で飛ばされる。おわっと。


 斜め向こうに飛ばされた帽子を僕は拾いに行く。ゆかりの帽子をひろってあげた。


「ああ。あったよ。帽子… はい…? え?」僕はゆかりの頭を見た。


 ゆかりの頭には、アライグマのような丸い耳が生えていた。けもののような耳。


「ねえ。見えてる?」ゆかりは聞いてきた。


「うん。その頭…」僕はゆかりの頭の上に生えている耳を見た。まるい耳。


「ごめんなさい…」ゆかりは森の中に向かって走り出した。


「えっ」僕はゆかりの帽子を手に持ったまま、動けないでいた。


 ゆかりの頭には、人間にはない動物のような耳が生えていた。そして森の中にかけていくゆかり。

 ゆかりのお尻にはしましまの尻尾がうっすらと見えている。


 これって。


 僕はゆかりともう会えないような気がした。


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