本戦 その2
2回戦を無事突破。
しかし麗羅の戦闘スタイルというか、基本戦闘能力と戦術が浮き彫りになる。
つまりこれ以降は油断をされず隙を突けず、楽な戦いにならないという事だ。
優勝まであと2回。
元々決勝では全力を尽くす事になっただろうが、ここから先は厳しい戦いが予想された。
「さあ、優勝以外に価値はない! そんな戦いも残すところあと3戦だ!
準決勝第一試合は大番狂わせの泥棒猫、神手麗羅 対 魔法特化の遠距離狙撃手、江波樹絵琉!!
泥棒猫は魔法までも模倣するのか! それとも別の技を見せてくれるか! その答えは試合が教えてくれるだろう!!
それでは双方準備は良いな!? 第一試合、始め!!」
ここまでの戦いで他家の技を披露してきた麗羅には『泥棒猫』の2つ名がついた。
ある程度有名な人間には良くある話で、その人を端的に表す言葉があるとその様に2つ名がつくのだ。
もちろん一言で言い表せなくとも複数の2つ名を持つ事もあり、他にも一族の功績やそれまでの所業に対し『月光伝説水兵月野』や『王国一の快男児』などといった呼ばれ方をする事もある。
まぁ、それだけ麗羅も有名になったという事だ。
「青狸流忍術『猛鼓舞発』!」
「出力最大・範囲限定・攻性防壁『炎壁』」
試合が始まると、二人は対極な行動に出る。
麗羅はもちろん、距離を詰めるべく前へと出た。
そして樹絵琉は距離を詰めさせないよう炎の壁を作る。何の対策もしていない者であれば一瞬で行動不能どころか殺しかねない、そんな防御魔法だ。
麗羅は足を止めざるを得なかった。
二人の間にできた壁を乗り越える。
それは非常に難しい。
炎によって炙られるというのは非常に危険な行為で、例えば眼球などは熱に弱いので軽く炙られるだけで確実に失明するほど脅威なのだ。
多少の対策はできるが、オレンジ色の炎を突破するというのは自殺行為である。
残念ながら試合会場はあまり広くないため、出力を優先していても迂回できないように会場を区切る事は難しくない。
そして、それは樹絵琉が一方的に攻撃できるという事でもある。
いや、何もせずとも炎壁の熱で相手の体力を削っていける。
「樹絵琉とは名ばかり、炎優先の魔法選択ですか!」
「効率を優先しただけ。炎以外も使えるけど――必要ない。速度強化・貫通付与・段数増加・自動追尾弾『炎弾』」
麗羅は思わず悪態をつくが、樹絵琉は淡々と麗羅を追い詰めていく。
自動追尾を行う攻撃魔法を複数放ち、確実にダメージを与えていこうとする。
仮に、もし戦っているのが優勝候補筆頭の「倍筋 努筋」であれば、このような手段はとれなかっただろう。
彼女であれば最初の炎の壁を突破し、そのまま殴りかかったはずだから。
生命体としての基準値の差が、取り得る選択肢の幅に差を作っていた。
「おおっと! 麗羅選手、手も足も出ないか!?」
一方的になぶられる麗羅に実況が叫ぶ。
麗羅としては言い返したい言葉であるが、その様な暇は無い。
麗羅は短期間で強くなり多くの技を習得してきたが、魔法単品はほぼ手つかず。遠距離攻撃の手段が全く無いとは言わないが、それでも現状は手詰まり。このままであれば打てる手は、無い。
相手の魔法を拳で潰してはいたが、徐々にダメージが蓄積していく。
麗羅は大ピンチであった。