本戦 その3
「『炎壁』前進」
数度の攻撃の後、樹絵琉は『炎壁』に前進を指示する――ふりをして、少し手前に新しい炎壁を作り直した。
麗羅の位置は把握しているが、思ったほど後退していないので一気に炎壁を前に出す事ができなかっただけとも言う。
麗羅がもっと後退していればもっと麗羅を追い詰めるように設置し直したのであるが、壁の向こうから攻撃を受けながらも麗羅の後退は樹絵琉の想定ほどではなかった。そう上手くはいかなかったようである。
設置型の魔法は使った魔力の多寡により威力と持続時間が決まるが、一回設置した魔法を長時間維持するのとこまめに何度も作り直すのとでは、同じ時間・同じ威力であっても前者の方が消耗が少ない。
それに、作り直しの際にできるわずかな隙が致命傷にもなりかねないので、樹絵琉は慎重に炎壁を作り直した。
動けない。
麗羅は徐々に追い詰められる感覚に焦りを覚えていた。
炎壁は自分を追い詰めるべく、より試合会場の端へと迫ってきている。
これがあと何回できるのかという話であるが、もし、あと3回もこれをされれば攻撃を受ける事が無くとも輻射熱だけで敗退が決まるだろう。
麗羅にできるのは、できるだけ前に出てプレッシャーをかける事ぐらいである。
すなわち、「炎壁の作り直しで手を抜いた瞬間、すぐに樹絵琉を襲える位置」を確保するぐらいだ。
互いに一歩間違えば一瞬で敗退が決まるチキンレース。
時間制限は麗羅の体力か樹絵琉の魔力が尽きるまで。
現状は樹絵琉がやや有利といったところ。
ただし、本人たちにはどちらが有利か分からない。
試合開始から10分が過ぎた。
麗羅の体力は残り2割。
樹絵琉の魔力は残り3割。
このままいけば、樹絵琉の勝ちが決まる。
「くぅっ!」
とうとう樹絵琉の魔法が麗羅を捉えた。
腕にかすっただけ。
しかし、それまで完璧に回避していた麗羅に攻撃が当たったのだ。均衡はそこから一気に崩れる。
続けて放たれた一撃は、今度は麗羅の胸の中心を射貫いたのだった。
魔法の直撃を受けた麗羅は仰向けに倒れた。
しかし気絶などはしておらず致命傷というわけでも無い。ダメージは思ったほど大きくは無いように見える。
それを見た樹絵琉は、ここが正念場だと勝負に出る。
炎壁に回した魔力を回収し、大技を撃とうとしたのだ、が。
「――甘い」
倒れていたはずの麗羅だが、そんな事は関係無いとばかりに一瞬で樹絵琉との距離を詰めた。
口にはしなかったが、前の戦いで羅美が使おうとした青狸流忍術の超高速移動技『猛鼓舞発』である。この技は頭に移動装置でも付けたかのように、どんな状況でも高速移動を可能にするのだ。
麗羅は相手が炎壁を作り直す隙を突こうとしていたのだが、炎壁が消えてなくなるというそれ以上の好機を逃す事無く樹絵琉との距離を詰めた。
そしてそのまま麗羅の拳が樹絵琉の下腹部に突き刺さった。
もしも樹絵琉がそのまま戦っていたら。その時は麗羅が負けていただろう。
しかし「たられば」に意味は無い。
「勝者、神手麗羅!!」
今回は麗羅が勝ったのである。




