表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/13

第08話 夜

結局家までついてきた。何がって、コウモリが。


コウモリ、もとい、コウちゃんが。


「その名前のセンス」

「え、そう? かわいい名前だと思うけどなあ」


かわいいどうのの前に、安直すぎねえか。コウちゃんて。コウモリのコウちゃんて。


「でもでも、ほら、喜んでるみたいだし」

「俺にはそいつの感情が読み取れんな」

「キャッ、キャッ」


そう鳴いて二人の前をフワフワ飛ぶコウモリのコウちゃん。そんな会話をしつつコウちゃんの後ろを歩く二人。


三分の一がでかいコウモリだというだけで、絵面はここまで奇妙になるものなのかと、むしろ感心してしまう俺だった。


感心してたら、いつの間にか家の扉の前だった。


「ただいま帰りましたー誰もいないけどー」

「じゃあ何故言うんだ。誰に言っているんだ」


太陽はとうに沈んでいる。日も暮れて、夜のとばりが下りていた。前の世界との共通点として新たに発見したのだが、この世界にも星があった。……太陽があったのだからそうだろうなとは予想していたが、その星空は前の世界の方が上な気がした。


綺麗なんだけどな。何かな。


「ていうか暗っ。なあ、灯りとかはないのか?」


蛍光灯なぞは求めないが、松明くらいならあっても良さそうなものだ。が、この建物にはそれがなかった。昼日中こそ外から差し込む太陽の光で足りていたが、今は夜。外は真っ暗。


故に、室内も真っ暗。明るさが外と変わらなかった。


「まー、あってもいいかもしれないけど、今日はもう寝ましょ。お互い疲れてるだろうし」


その言葉には一理ある。あれだけ眠った(気を失った)俺だが、散歩のこともあって、確かに疲れていた。当然、コウモリのこともある。


めっちゃ痛かったんだぞ。お前、めちゃくちゃ寝るやんけと思われるかもしれないが、それくらい大変だったんだぞ。


「そうだな」


と答えると同時に、あくびが出た。そのあくびはシトルフにも伝染した。最終的にはコウちゃんにも伝染した。お前もあくびすんのかよ。


新事実。


そこでパンデミックは終わりを告げた。


「あ、でも、おい、今気が付いたことがある。ベッドが一つしかねえ」

「それっ」


ベッドが増えた。


結局のところ、魔法が万能だった。


しかも二つ増えた。横に並ぶ、それら合計で三つのベッド。その内の一つに、至極自然といった顔つきで潜り込む、コウモリのコウちゃん。


お前もベッドで寝るんかい。


別にいいけど、いかんせん絵面が奇妙だわ。


「おやすみなさい」

「キャッ、キャッ」

「ん、あ、ああ、おやすみ」


見れば彼女も、既に床に就いていた。真ん中のベッド。


それに続いて、俺も横になる。そういえばスーツのままだなと、夢に落ちて行く思考の中で少しだけ思い出したが、すぐに忘れた。


それと入れ替わるようにして出て来た、あの言葉。


『その方と、一から文明を再建するのです。』……


この世界にはもう、文明がない。どころか、人さえ、今では二人しかいない。


俺と彼女、……ハジメとシトルフ、……男と女。


隣から、寝息が聞こえてくる。


(……やんのかな……)


そこで俺の思考は完全に途切れ、中断され、そして意識は、夢へと誘われた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ