第08話 夜
結局家までついてきた。何がって、コウモリが。
コウモリ、もとい、コウちゃんが。
「その名前のセンス」
「え、そう? かわいい名前だと思うけどなあ」
かわいいどうのの前に、安直すぎねえか。コウちゃんて。コウモリのコウちゃんて。
「でもでも、ほら、喜んでるみたいだし」
「俺にはそいつの感情が読み取れんな」
「キャッ、キャッ」
そう鳴いて二人の前をフワフワ飛ぶコウモリのコウちゃん。そんな会話をしつつコウちゃんの後ろを歩く二人。
三分の一がでかいコウモリだというだけで、絵面はここまで奇妙になるものなのかと、むしろ感心してしまう俺だった。
感心してたら、いつの間にか家の扉の前だった。
「ただいま帰りましたー誰もいないけどー」
「じゃあ何故言うんだ。誰に言っているんだ」
太陽はとうに沈んでいる。日も暮れて、夜のとばりが下りていた。前の世界との共通点として新たに発見したのだが、この世界にも星があった。……太陽があったのだからそうだろうなとは予想していたが、その星空は前の世界の方が上な気がした。
綺麗なんだけどな。何かな。
「ていうか暗っ。なあ、灯りとかはないのか?」
蛍光灯なぞは求めないが、松明くらいならあっても良さそうなものだ。が、この建物にはそれがなかった。昼日中こそ外から差し込む太陽の光で足りていたが、今は夜。外は真っ暗。
故に、室内も真っ暗。明るさが外と変わらなかった。
「まー、あってもいいかもしれないけど、今日はもう寝ましょ。お互い疲れてるだろうし」
その言葉には一理ある。あれだけ眠った(気を失った)俺だが、散歩のこともあって、確かに疲れていた。当然、コウモリのこともある。
めっちゃ痛かったんだぞ。お前、めちゃくちゃ寝るやんけと思われるかもしれないが、それくらい大変だったんだぞ。
「そうだな」
と答えると同時に、あくびが出た。そのあくびはシトルフにも伝染した。最終的にはコウちゃんにも伝染した。お前もあくびすんのかよ。
新事実。
そこでパンデミックは終わりを告げた。
「あ、でも、おい、今気が付いたことがある。ベッドが一つしかねえ」
「それっ」
ベッドが増えた。
結局のところ、魔法が万能だった。
しかも二つ増えた。横に並ぶ、それら合計で三つのベッド。その内の一つに、至極自然といった顔つきで潜り込む、コウモリのコウちゃん。
お前もベッドで寝るんかい。
別にいいけど、いかんせん絵面が奇妙だわ。
「おやすみなさい」
「キャッ、キャッ」
「ん、あ、ああ、おやすみ」
見れば彼女も、既に床に就いていた。真ん中のベッド。
それに続いて、俺も横になる。そういえばスーツのままだなと、夢に落ちて行く思考の中で少しだけ思い出したが、すぐに忘れた。
それと入れ替わるようにして出て来た、あの言葉。
『その方と、一から文明を再建するのです。』……
この世界にはもう、文明がない。どころか、人さえ、今では二人しかいない。
俺と彼女、……ハジメとシトルフ、……男と女。
隣から、寝息が聞こえてくる。
(……やんのかな……)
そこで俺の思考は完全に途切れ、中断され、そして意識は、夢へと誘われた。




