【十一章】二者の欲望 2
【削除のお知らせ】
クロス・ガーディアンを読んで下さっている皆様にお知らせです。
この度、読みづらいということと、ラストがグダグダしているという理由で、クロスを削除することにしました。
8月10日より、毎日一話ずつ削除をしていく予定です。
リメイク版のアップ予定は今のところ未定ですが、なるべく努力はしたいと思います。
ではでは、いつかまた会いましょう(´艸`)
有澤透真
非常に居づらい場にとり残された祐也と要は、裏切られたと思い込み、手が付けられない程に泣く姫の前にじっと佇んでいた。
「なぁ、姫。今のは本当に」
最悪な勘違いで距離が開いてしまう二人。
それを側で見ていられずに口を出した要の肩を、祐也のしなやかな手が勢いよく引き、制止した。
その睨んでいるような紫色の眼が、鮮血の眼に黙示の合図を寄せる。
『今はどんな手を使ったとしても、姫は聞く耳を持ってくれない』と。
これは、元彼である祐也だからこそ知る、彼女のマイナス点の一つだった。
無論、要が祐也を、彼女の元彼だと知っているはずもなかったが。
今は姫を好きなだけ泣かせ、彼女が落ち着きを取り戻すまで待った方がいい。
そう案じた祐也は、車の鍵を手に取って先に部屋を出る。
要も、祐也の『一人にしてやれ』と言いたげな目線に促され、渋々と後をついて足を踏み出した。
外はジメジメとした不快な風が漂う。
駐車場に着いたときには、既に祐也の車の隣には暗いアスファルトがむき出しになっていた。
その位置は、力のFREEWAYが停めてあるはずの駐車スペース。
二人は祐也の車に乗り込み、車内が蒸し暑いのでエンジンをかけた。
直後、スピーカーから振動を伴った馬鹿にでかいギター音が、要の鼓膜を突き抜ける。
それは音楽というより、もはや騒音。
顔をしかめて耳を塞ぐ彼を前に、祐也は平然とボリュームをオフにした。
一旦部屋を出ただけで、どこへ行くわけでもない彼等は、それぞれのリラックスできる体勢を取って、時間が過ぎるのを待つ。
要はシートを倒し、足場を可能なだけ広げて寝そべると、長い脚を行儀悪くダッシュボードの上に投げ出した。
頭の後ろで左手を枕にし、ジーンズのポケットから出したパールブルーの携帯を操作して力の居場所を特定する。
「高速に乗ってるぜ、王子。実家にでも帰るつもりか?」
祐也はハンドルに腕を置いて、要に否定を返した。
「有り得ないぞ。あいつの実家はもう無いんだ。東京に出てくる前に売り払ってるはずだ」
どこからか雲を裂いて遠雷が鳴り響いた。
それは、あたかも、不穏を彩るような重低音。
フロントガラスに透過する世界は、昼だというのに夕方のように薄暗かった。
要の携帯画面が光を放っているのが分かる程。
「ったく、世話が焼ける奴だぜ……」
彼はメール画面にして、宛先のアドレスを『王子』にする。
本文には、
『明日には一度帰ってこいよ』
と、わざとらしい笑った絵文字をつけて入力した。
当然その後、力から要に返信が返ってくることは無かったが。
携帯をしまった要は、助手席の窓に一粒ずつ落ちてくる小さな水滴を見つめながら、祐也に切り出した。
「説明しようにも姫に何て言ったらいいんだかなー……。モロに性教育だぜ?」
彼は一人娘を持つ父親のような悩みを抱え、大いに困り果てていた。
力があの時、何の話をしていたかを語らずには、姫の誤解はまず解けないだろう。
しかし、その話の中身をどんな風に易しく教えたらいいのかが、いくら努力しても分からない。
それは、無表情で部屋の壁を見つめる祐也も同じだった。
本降りになってきた雨がガラスを強く叩く音の中で、二人は悶々としながら意見を出し合っていた。
「こうなったら俺様が保健体育の教科書を大阪まで取りに行くかぁ?」
「時間の無駄だろ。やめておけ」
「ならお前が姫に説明しろよ?! 夢の内容まで詳しくな!」
「……なんで俺が」
くだらない言い合いをしていたその時、要と祐也の視界を一台の車が横切った。
二人は同時に反応を示す。
初めて見るスポーツカーが、部屋の入り口の下に沿うように横付けした。
まるで誰かを待っているように留まる、シルバーの外車。
「誰だ、あのグラーヴェ……」
祐也は眼を凝らして見てみたものの、運転手の姿までは視認できなかった。
不審に感じた指が、腰にさした銃に届く。
しかし、優れた視力で即座にその人物を認識できていた要が、祐也を止めた。
「待て! ファラオだぜ……!」
更に、降り続く雨の中、助手席に走って乗り込む姫の姿。
それは祐也にも確認できた。
「あららー……」
要はその意外な組み合わせに呆気にとられてしまい、間抜けな驚嘆を微弱に発することしか出来なかった。
姫を乗せ、水を跳ねながら走り去る見夜都の車、グラーヴェ。
二人はそれを眼で追いかけながら、思いがけない展開に沈黙するばかりだった。




