【十六章】RIght KIng 3
【削除のお知らせ】
クロス・ガーディアンを読んで下さっている皆様にお知らせです。
この度、読みづらいということと、ラストがグダグダしているという理由で、クロスを削除することにしました。
8月10日より、毎日一話ずつ削除をしていく予定です。
リメイク版のアップ予定は今のところ未定ですが、なるべく努力はしたいと思います。
ではでは、いつかまた会いましょう(´艸`)
有澤透真
血の滴を溜めた拳が飛沫を振り落とす。
踏み出す右脚と共に重く振られるチェーン。
剣を象った誓いを胸に揺らし、ハンターは邪悪な獣との決着の時を確実に縮めていた。
「……!!」
しかし、
紫色の眼がその金属音に神経を尖らせ、知らぬ間の接近に突発的な動悸と焦燥感を走らせる。
右肩の焼け付くような痛みを無理に押し、狼は天敵を亡き者にする為、銃を握った。
だが、スライド側面にある表示窓には、
『Uselessness』
の赤文字。
これは残弾切れにより使用不可能を伝えている。
「チッ……!」
舌打ちの響きが、銃を床に転がす音、そしてナイフの刃を上げる音に流れた。
壁に体を押し付けながら立ち上がるのが精一杯な狼は、致命傷、いや、それさえ超えた傷を負わせた筈の金色の瞳に、ただただ、驚愕を示す。
まるで姿形だけ死んだまま、再び蘇ったような不気味、且つ異常な在り方に。
ホールから階段を上った、その頂上に追い詰められている邪悪な獣。
その眼に映る獅子の輪郭が、ぼやけ、そして二重にも、三重にも分裂していく。
もう、戦える力が残されていないことなど、疾の昔に分かっていた。
そして更に、逃げる体力すら使い切ってしまったことも。
「来るな……」
落ち着いた足取りで床を踏みしめ、狼の乱れる心拍と共に迫り来る獣の王。
対する邪悪な獣は、ふらふらと階段の手すりに腰をぶつけながら、一見、高貴で、そして気高い金色の瞳に初めての『恐れ』という不安感を抱いていた。
「来るなッ!」
しかし、
口を結び、頭から流れ出る血に顔の上半分を真っ赤に染め替えた王は、じりじりと邪神を追いやっていく。
逃げようものなら死が待っている、崖の上へ。
「……ひ」
キレを失い、上擦った声が退いた、刹那の出来事だった。
祐也に巣くっていた邪業の狼が、自分より遥かに強く、その上凶暴な存在にひれ伏し、
彼の中で慄きながら、
逃げ出したのは――。
まさに、これ以上にない最悪なタイミングで、祐也は我に戻って来てしまった。
しかし、
彼は手の届く死から逃げようとは思っていない。
既にそのものを、恐れてはいないからだ。
「お前も俺も、バカタレだな……」
シャンデリアの破片が敷かれた真上にある行き止まり。
そこに佇み、溜め息をつくように儚く笑った祐也は、血まみれの手に持ったナイフの柄を力に向けた。
そして、泣いているように眼を細め、呟く。
「……ここから突き落とすような、一瞬で死ぬ殺し方はやめてくれ。苦しんで……それから死にたいんだ。……自分の仕出かした事を後悔する時間が、……欲しい」
彼は、自ら切望していた。
多くの過ちを上塗りしてしまった、自分そのものを抹消することを。
「……」
言葉も無く、ナイフを受け取った獅子の左手は、すぐに行動を起こすことをしない。
(やめてくれ……)
誰かが、誰かの正しい意志が、獅子にすがりついている。
(頼む……)
強がることを捨てた、悲しく痛ましい涙声。
(俺の……俺の家族を、殺さないでくれ……!)
哀れな懇願が、左手に戸惑いを持たせ、
そして、
「……」
獅子は、ナイフをぎこちなく、徐々に、徐々にと
下ろした。
彼の中にいる力が寸前の所で意識を取り戻し、懸命に起き上がる。
向かい合っている、鎖が解けて言うことを聞かぬ筈の、もう一人の自分。
力は、自身がいつからか生み出してしまった孤独な獣に、そして祐也を救った獣に、感謝の情を向けていた。
(ありがとう……)
姿だけは、鏡に映したようにそっくりな獅子。
だが、返された微笑みは、割れてしまった鏡に映る、壊れた笑顔だった。
次の瞬間、
――ドスッ!!!
ナイフを握った左手が、祐也の脇腹に
触れた。
「……がはっ!」
冷酷にも抉るように引き抜かれた傷口から、夥しい返り血が飛び散る。
力の手に、生暖かい触感を伝わらせて。
「………………」
祐也の苦しんだ笑顔が、
最後の彼の思い出が、
紅く滲む床に、沈んだ。
「……ゆう…や」
真っ白な心にこみ上げるのは、獅子のものではない痛み、悲しみ、苦しみ。
それが、金色の眼の形を波の外に歪ませる。
……いつも自己中心的で我が道を突っ走る祐也。
短気で、『このバカタレ』と毎回叱り飛ばす祐也。
棘を持つ言葉に優しさを隠している祐也。
協調性ゼロで、人の話を全然聞かなくて、それでいて冷静で、寝相が悪くて、適切な応急処置が出来て、マイペースで、馬鹿正直で……
数え切れない色んな祐也が、
過ぎたあの日が、
乾いた血の色に染まって、
遠く、小さく、薄く、……彼方に消えていく。
「……祐……也」




