【十六章】RIght KIng 1
【削除のお知らせ】
クロス・ガーディアンを読んで下さっている皆様にお知らせです。
この度、読みづらいということと、ラストがグダグダしているという理由で、クロスを削除することにしました。
8月10日より、毎日一話ずつ削除をしていく予定です。
リメイク版のアップ予定は今のところ未定ですが、なるべく努力はしたいと思います。
ではでは、いつかまた会いましょう(´艸`)
有澤透真
廃墟の一歩手前まで足を踏み入れている枯れた土地。
相当に長い間、手入れをした形跡がない庭は、背を伸ばした雑草が茫々(ぼうぼう)と群れをなす荒廃ぶり。
その中を一本の縦線で突っ切っている冷たいコンクリートは、白壁を蔦で覆い隠した屋敷まで真っ直ぐに導いていた。
深夜の暗闇に息を顰める、歪んだ守護者の邸宅だ。
二階のとある部屋には、フレームに閉じ込められた写真が壁に整然と、しかし多すぎる程に飾られている。
更に、古びた傷が目立つ焦茶色のタンスの上にも、教科書も乗っていない勉強机の上にも、動物のぬいぐるみがひしめき合うベッドの上にも、圧倒されてしまうくらいに室内は、写真にまみれていた。
その部屋は、一枚の過去の中で、ショートパンツに隠れない左太腿のホクロを覗かせながら、しゃがんで無邪気に砂を掘る彼女、姫に与えられるはずだった子供部屋だ。
「黒豹とファラオの暗殺には失敗。私が雇った殺し屋はみんな始末してしまう。神奈も戻ってこない……。あなたみたいな人を厄介者と言うのをご存知かしら」
一本足の円テーブルの上に灯されたランプの蝋燭が、そこに腰掛けて紅茶を啜る女を暗いオレンジ色に浮かび上がらせた。
薄明かりに弱く彩られた少女趣味な空間には、もう一つの、威圧感な響きが存在する。
「……貴様は神に対する口のききかたを知らないようだな。頭に直接叩き込んでやろうか?」
女の真正面から、これ見よがしな不満を手に握り締め、装填音を聞かせる、邪神だ。
嘘をつかない彼は、威嚇などという優しい脅しはしない。
その性格を知った上で、雇った『仲間』を一人残らず殺してしまった狼の凶暴性を、女は思い知っている。
「……いいわ。ただし、邪魔な男共は早く片付けて頂戴。神奈は最後に私が殺します」
抑えつけられ、妥協をせざるを得なかった女は、今放った物騒な言葉に不似合いな、整った美しい顔立ちをしていた。
スッと通った鼻筋に、緩やかに上がったパッチリ眼。
黙っていても男を惹きつけてしまう悪魔的な魅力は、羽を広げた揚羽蝶を思わせる。
祐也は、紅茶が満たされた白いティーカップを手に取りつつ、指示をした。
「娘は殺すな。あれは俺のものだ」
薄い唇には運ばなかったカップを、真っ赤なペルシャ絨毯の上で逆さにする。
彼は、とりわけ紅茶が嫌いというわけではなかったが、最初から口に入れる気は更々無かった。
農薬入りの薬臭い飲み物など。
「気の重い冗談はやめて。あの子は私を愛してるのよ? 私が産んだんですもの、ずっと私だけのものなの。あの人にも、あなたにも、誰にも渡さないわ。だから奪われる前に殺すのよ」
異常さを並べる女は、神経を尖らせながら子猫を守る母猫に似ていた。
誰かに愛しい我が子を奪われるくらいなら、自分で喰い殺して隠してしまおう。
その、歪んだ心理が。
「……クククッ、アハハハハッ! そうか、そうだよなぁ! 知るわけもないな! ……だったら何も知らないお前に教えてやる。娘はもう貴様の所有物じゃない。要するに、手遅れだったわけだ」
「……!」
優雅に紅茶の味を堪能し、ティーカップを下ろそうとした手が、思考回路と共に停止した。
水面に映る蝋燭の炎が、揺らめいて形を壊していく。
「……分からないわ。分からないのよ! それはどういう意味?!」
女はカップを戻すことさえ忘れ、淡いピンク色のテーブルクロスに紅茶の染みを零しながら興奮し出していた。
彼女にとっては騙されたくもない嘘か冗談、それでなければ、いつか覚めるであろう悪い夢だ。
祐也は女の、慌て、混乱する様を、嘲笑うかのように楽しんでいる。
「俺なりに配慮をしてやったつもりだったんだが、それも無用だったみたいだな。じゃあ遠慮なくストレートに言わせてもらうが、娘は二人の男と体の関係を持っている。そのうち一人は婚約者だ。お前も知ってる、……高山力のことだがな」
「!!」
――『婚約者』
もう、愛しい我が子は他の男を、自分ではない誰かを愛している。
ここに飾られた写真の数々より、もっと沢山の素敵な笑顔を、喜びを自分だけに向け、辛く苦しい時も、いつだって愛を与えてくれた可愛い娘が、小さな指を離して、遠のいていく。
薬指に繋がる、糸の向こう側を手繰って。
悲しい衝撃は、女の心を突き破り、その傷口からは真っ赤に染まった憤りが溢れ出していた。
呼吸を震わしながら唇を噛み、鋭い爪でテーブルクロスをグシャリと握り潰す。
その感情と矛先の移り変わりを、悪巧みをしているような眼で見届けた彼は、銃を手に立ち上がり、漆黒のジャケットを翻して歩き出した。
夜叉の形相をしている水色の眼が、その立ち去る黒い影にどす暗い声をぶつけ、引き止める。
「……どこに行くの」
「出迎えだ。お前の娘を唆した張本人が来たからな」
――バタン
一人取り残され、静まった室内。
しかし、女の心はそれと対照的に暴れ狂っていた。
激情に髪を掻き毟る奥底で、狂気をせき止めていた何かが、形も残らずに滅びていく。
「……許さない」




