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【十五章】復活のクロス 5

【削除のお知らせ】


クロス・ガーディアンを読んで下さっている皆様にお知らせです。


この度、読みづらいということと、ラストがグダグダしているという理由で、クロスを削除することにしました。


8月10日より、毎日一話ずつ削除をしていく予定です。


リメイク版のアップ予定は今のところ未定ですが、なるべく努力はしたいと思います。


ではでは、いつかまた会いましょう(´艸`)


有澤透真

――ブン!!


『……ッ』


……


…………


………………?


ガチガチに圧縮された身が、引き延ばされた時間を怪訝に感じ、こわばりを解いていく。


精神世界での死とは痛みを、苦しみを伴わないものなのだろうか……。


自分は死んでしまったんだと誤認した脳が、そんなことを仮定しながら、思いもせず楽に死ねた理由を手繰たぐっている。


おっかなびっくりに開けられた鮮血の眼は、右往左往して様相を見渡した。


(……?! 俺様、もしかしてまだ死んでねえ?!)


要の察しでは、自分の頭上ピッタリに今、ファラオの剣の刃先がある。


この場合、上を仰ごうものなら頭はスッパリ切れてしまうだろう。


馬鹿げた自滅をしない為には、必要性の薄い確認作業を欠く、これが賢い対処法だ。


(……それにしてもどうしちまったんだ?)


狼、獅子、ファラオの三人は時計の針を止められたかのように立ちすくみ、何かに喫驚している様子。


要は彼等の目線を辿り、ぶつかる一点に眼球だけを下ろす。


「……な、なんで!」


分かり易い間違い探しに、彼はようやく気付けた。


尻餅をついて座ったまま開いていた自分の両脚の間。


そこに、背を向けた少女が乙女チックに、ベッタリと座り込んでいた。


いや、むしろ座り込んでいるのではなく、立ちはだかっているつもりなんだろう。


栗毛色の細い髪を垂らした彼女は。


「姫……!」


偽物のファラオですら、彼女を前に斬撃を躊躇ためらってしまったのだろうか。


要の金髪の上で牽制するように寸止めされていた剣は、すっ……と引かれ、下ろされた。


強気ぶった表情なのか、恐れをちらつかせているのかがサッパリ掴めない硬直した顔で、仲間に立ち向かっている姫。


それに臨むのは、始末の妨害をされたことに不愉快さを感じているのか、驚きを冷え冷えする無表情に塗り替えたファラオ。


要ははまったままの足を床下から引き抜こうとした。


が、しかし、


中断した。


そして、埃っぽい斎場に綺麗好きの体がついていけなかったのか、後方についていた右手を口元に当て、咳をケホッとする。


『黒豹を庇うなら君ごと斬る。退けるなら今しかない』


「嫌っ! 退かない!!」


生き延びる機会をさり気なく提供するファラオと、命懸けの強情さで要を守ろうとする姫。


その二人を両脇から見ていた狼と獅子の口から、気を害する程に非情な野次がぶつけられた。


『相変わらず我が儘な女だな。そんなに黒豹と死にたいならさっさと死ねばいいだろ』


『その女は言っても聞かねえぜ? もう殺っちゃえよ、ファラオ』


自分以外は精神世界に、それか、存在すらしない誰かの意志に形作られたイミテーションだ。


ねじ曲げられて残酷に形成された三人も、そして現実と少しも変わらぬまま飛び込んで来たような姫も。


それはうざったい程に、聞き分けのない心に説明している。


しかし、


偽物の彼女に投げつけられた罵りが、要を、更に黒豹を完全にブチ切れさせていた。


元より吊り上がった眼が、危険域を遥かに超えた、真っ赤な鮮血色に染まっていく。


『教えてくれてありがとよ』


二つの安全装置には、己から解除命令が出された。


『テメェ等が仲間のツラ借りただけの……』


――ジャキッ!


『汚ねえ化けもんだってなぁ!!』


黒豹は姫の胸の下に腕を回して、人質をとるように引き寄せる。


瞬発力に任せて突き出した右手には、持っていなかった筈の彼の銃、シヴァ。


『本物と違ってこっちのファラオは耳が遠いみたいで安心したぜ! 銃を受け取っても全然気付かなかったみたいだしな!』


要が先程していた、気にも止まらない程軽い、咳払い。


あの、ざらにある動作は、後ろについていた右手を、ごく自然に前へ出す為のフェイクだった。


つまりは、咳をおさえたように装った右手を前に下ろし、彼女が後ろ手に差し出した銃を受け取っていたということになる。


『白旗なんか上げんなよ。どうせ俺様の紅い眼には、好戦的な色に映るんだからよぉ!!』


黒豹は姫の視界を左手で遮り、振り上げた銀の銃口を獅子にロックした。


走り出す獲物をコマ送りで捉える眼に、すり替わって見えるいつかの強盗団の姿。


(許しゃしねえぞ……。あの血の色を忘れるまでは!!)


走る標的の急所を追跡しながら放った銃弾が、迷いもせず獅子を、偽物の心臓を貫き通す。


まるで吊り糸が全て切られた操り人形のようにグシャリと陥落した力の体は、白煙を巻き上げながら亡者の人骨へと容姿を入れ替えた。


直後、


『死ねぇーー!!』


剣を天に翳し、姫ごと叩っ斬ろうと突っ込んできたファラオ。


『ざけんなーーッ!』


黒豹は右足の足枷あしかせを無理やり突き破った。


そして、迫り来るファラオを生死の境界線の限界まで引きつけて、


――ドスッ!!


座ったままの長い脚で、華奢な腹に強烈な蹴りを見舞う。


剣が手を離れて落下し、彼は散乱したパイプ椅子の塊へ吹っ飛ばされた。


『……う』


ガラクタに埋まりかけた王を前に、ふらりと、嵐の前触れのように静かに、そして不気味に立ち上がる黒豹。


彼は、手で突き放すように姫を後ろへ下げた。


そして、気を失いかけている見夜都の首をガッツリと鷲掴みにする。


血筋を浮き上がらせた腕がそのまま高く持ち上がり、見夜都の足が宙をもがいた。


『ァ……!』


黒い獣は、出ない声を吐きながら苦しむ仲間にも、情けをかけない。


『……本物はなぁ、姫に凶器向けるような男じゃねえんだよ!!』


そして、右手は幻の命を一気に握り潰す。


『――!!』


――バキッ!


見夜都の虚像が掻き消え、首がへし折られた亡者の頭蓋骨は床にボトッと落ちて、いびつに転がっていった。


骨格標本のような胴体を壁に叩きつけ、手に残された骨を放り投げた黒豹は、じりじりと最後の獲物を追い詰める。


倒れたパイプ椅子を蹴っ飛ばしつつ、一つの宗教で破壊神の名を持った銃を片手に握って。


だが、


狼は手のひらを返し、ナイフを捨てて両手を上げた。


彼に化けた亡者は、分の悪い戦闘を避ける利口さを兼ね備えているようだ。


しかし、黒豹は心をからにした暗い薄笑いを向ける。


銃を、胸に突き付けながら。


『……!』


にわかに緊張を打ち出す狼には、反抗しようという計らいは無い。


それでも黒豹は、不信感を向けたままだった。


『……助かろうって考えても無駄だぜ。俺様は好きな女の事に関しちゃ、怒りの収まりがなかなかつかねぇんだよ!!』


次の瞬間、


狼は態度を裏返して反撃のスイッチを入れ、突き付けられた銃を勢いよく左腕で払い除けた。


『……!』


地面に転がった銃は、手が届かないところにまでバウンドしながら遠ざかっていく。


『油断大敵だな、黒豹』


『――チッ!』


立場は逆転。


ナイフを拾った狼は、悪意に尖らせた顔で武器を持たない黒豹に襲いかかる。


構えたナイフは失血を目論み、脇腹を的にしていた。


刺されれば、この世界も、『八木橋要』の人生も、全てが奪われてしまう。


が、しかし、


――バンバンッ!


連射の、よく耳にしている音が、狼を一瞬で肉無き亡者に変貌させていた。


黒豹から見て右、狼から見て左にいた彼女は広い内股で、要の所持するもう一つの銃、PGO2を突き出している。


偽物の姫ではあるが、やはり、とっさの銃撃に後から震撼が押し寄せたのだろう。


全身をブルブルと震わせ、銃を辛うじて持ちながら再び座り込んでしまった。


一方の要は、ことごとく情けない自分を責め立て、更になじる。


銃もろくに扱ったことのない彼女に、本来守らねばならない彼女に守られてどうするんだと。


偽物の姫に駆け寄る彼には、彼女が偽物だからこそ、伝えたいことがある。


しかし、


体が触れる瞬間に、幻の世界は息を止めてしまった。


――


意外にすっきりした気分で、現実に帰ってきた要。


彼は、とある大事なことに気づいていた。


確かに、邪業の狼と化した祐也に、かつて気を許した仲間に、銃を向けることは出来ないかもしれない。


しかし、力が死んで姫が悲しむことも、彼女自身が死んでしまうことも、絶対に考えたくはなかった。


そんな自分には、逃げる以外に一体何が出来るのか。


ただ一つだけの答えが、その手に見つかった。




――シヴァ、


破壊神の名を持つ銃。


しかしながら、同時に創造神の名を持っている銃を片手に、彼もまた、動き出す。


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