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【十三章】危険信号 〜侵される精神〜 4

【削除のお知らせ】


クロス・ガーディアンを読んで下さっている皆様にお知らせです。


この度、読みづらいということと、ラストがグダグダしているという理由で、クロスを削除することにしました。


8月10日より、毎日一話ずつ削除をしていく予定です。


リメイク版のアップ予定は今のところ未定ですが、なるべく努力はしたいと思います。


ではでは、いつかまた会いましょう(´艸`)


有澤透真

飛ばした車で華園に到着した力は、高速を出てすぐの道路脇に停車しているイリュージョン、グラーヴェを見つけた。


要達は力が着くまでの間、休みなく祐也を探し回っていたらしいが、彼はどこかに消えたまま今も行方を眩ましている。


殺し屋二人にとって不名誉な説明をすれば、鋭い勘と視力を兼ね備え、人探しがめっぽう得意な要の読みが珍しく全て外れ、見夜都もその異常な聴覚をフルに使っても何の手掛かりも得ることは出来なかった、……ということになる。


肝心なことをし忘れていた彼等には、それが、焦燥と不安という『恐れ』になって降りかかっていた。


祐也の、残弾が切れた銃を彼に所持させたまま、取り上げていなかったのだ。


物が物だけに、病院側に銃を預かっているのか、という確認も出来ない。


過ちを上乗せさせない為にも、一刻を争って彼を見つけ出さなければならなかった。


捜索のルートを話し合ってから三人は車で都内に散って、まだ探していない場所をシラミ潰しに当たっていった。


祐也の愛車、スラストが部屋の駐車場に置かれているのは要と見夜都の二人によって確認されている。


病院のパジャマで出歩いていると思われる彼の行動範囲も、自ずと狭くなるはずだった。


しかし、


それから四時間が経過して空がオレンジ色に変わっても、祐也の足取り一つ、得られない。


捜索前にあらかじめ決めた十七時というタイムリミットを迎え、三人は一旦探すのを打ち切った。


飲食店が円を描くように軒を連ね、その中に複数のバス乗り場が点在する駅裏のロータリー。


その片隅に路駐させた赤、白、シルバーの三台のスポーツカーの傍で、彼等は再び顔を合わせた。


それぞれが自分以外の車のシートを見て、淡い希望を鮮明な絶望に変える。


「ったく! どこ行ったんだよ、あいつは!!」


仁王立ちをしながら金髪をせわしなく振りつつ、苛立ちを声にする要。


「閉鎖病棟から抜け出すとは…」



その後ろで見夜都は俯き、腕を組みながら祐也の不可解な逃走方法に頭を悩ませていた。


『敵』のリストに自分から飛び込んできた彼を、王がここまで真剣に探す理由など無いに等しい。


しかし、冷酷と噂されるトップの殺し屋も、結局のところは人間。


敵意を向けた祐也を殺すということに特別な情感を持ちはしなかったが、他の仲間が悲しむことをしなければならないと思うと、心苦しかった。


よって、このような矛盾した行動を取っているわけである。


その向かいにいて何かを察した力は、疑いを込めた眼を要と見夜都の二人に送った。


「……どっちだ」


何のことを言っているのかさえ分からない彼等は、互いに顔を見合わせた後、力へ疑問の視線を投げ返す。


二人のうち、どちらかがとぼけているに違いないと、根拠もなく確信していた力は、強く濁りのない口調を叩きつけた。


「どっちだ、血生臭いのは」


今の彼には、その鼻をつく匂いが不愉快でならない。


昨日、目の当たりにした無惨な記憶を嫌でも引き起こさせる、血の匂い。


「俺様は殺ってないぜ? お前か?」


要は聞くまでもないと思いながらも見夜都に話を振った。


それに対し、懐疑的な否定を返すつもりでいた『容疑者』。


「私では、」


しかし、


突如として、返事を遮断せざるを得なかった。


銃を鳴らして歩く音が、見夜都の聴力を伝って、失踪した『彼』の居場所を指し示していたからだ。


その地点は、向かい合った力の、ずっと遥か後ろのガード下。


一本道ではあるが、そこまでの道のりがあまりに遠くて、肉眼ではまだ『彼』を捉えられない。


だが、様子が急変した見夜都の目線を追った要の眼は、しっかりとその姿をキャッチしていた。


「祐也……!」


「……えっ?!」


たった一人、意表をつかれた力が、反射的に体を後ろへ反転させる。


視界に全く映らない、『彼』。


しかし、人物を形取った黒い影だけは、夕闇の中で徐々に、徐々に、こちらへ近付いていた。


ブルーの眼の王は、脚を投げ出し、腰に手を当てて一見、傲慢にも取れるような立ち方に体勢を崩す。


組んでいた腕を解いて腰に当てられたその指は、祐也の死角でいつでもティガーを抜けるように、グリップの間近で待機させていた。


街灯の柱に背をもたれた要は、その狭く遅い歩幅を待つ。


三人がいるのは駅の北口。


人がまばらに彼等の前を通り過ぎては、見ていない振りをしながらチラチラと怪しんでいる。


険悪な気配をビリビリと漂わせていた三人は、自然に、良くない意味で人目を引きつけていたようだ。


(――また笑ってやがる)


只でさえキツい印象を与える鮮血の眼が、祐也の気味の悪い笑顔を受けて、いっそう鋭さを増し、吊り上がる。


フラフラと覚束おぼつかない足取りは、力と見夜都の眼に捕捉できる距離にまで、ゆっくりと歩み寄ってきた。


表面上はただの脱走した入院患者かもしれない。


しかし、いつもの祐也とは似ても似つかぬ恐ろしい気迫を流出させている彼は、三人にとって、もはや入院患者と侮れる存在ではなかった。


警戒する仲間達の至近距離に彼が踏み込んだ、



その瞬間、



邪悪に引きつった顔は、張った糸を断ち切ったかのように突然、



フッと、緩んだ。



(――?!!)



あまりに唐突な変わりっぷりに、目を丸くした力と要からは、緊張感までもが一気に抜け落ちてしまっていた。


二人と対極な反応を示したのは、彼の急激な変化に故意を感じなかったことを、逆に不審に思った見夜都だけだった。


「何だ? みんな揃って……」


声の抑揚が極めて平たい以外は、普段と大差がない様子の祐也。


発火装置を作動させた要は、公衆の面前で彼に怒鳴り声を浴びせながら、叱り飛ばした。


「『何だ』じゃねえよ! 脱走しやがって! 俺様達がどんだけ探したと思ってやがる!!」


力も、いつものように呆れた顔と声で責め立てた。


「俺なんて学校抜けてきたんだぞ? 出席日数もヤバいってのに……!」


見夜都は消極的で、会話の中に入ろうともしない。


心配をかけてしまったんだろうと受け取った祐也は、心の底からすまなそうに謝った。


「悪かった……。ちょっと海が見たくなって……。今から病室にちゃんと戻るから……」


まるで元気も無く、疲労感が溢れ出している彼。


祐也が病院に帰ろうと見夜都の横を素通りした、その刹那に、



「待て、荻野」



重いバイオリンの声が待ちかねたように口を開いた。


何故呼び止められたのかも分からない祐也に、見夜都は右手を差し出して要求を示す。


紫色の眼が、王の皮手袋を直視した後、ポカンとした呆け顔で目線を上げた。


見夜都は彼が、演技をしているのか、そうでないのかを慎重に判断しながら出方を決める。


今の祐也は、どの角度から見ても作りものの態度を表しているようには思えなかった。


よって、見夜都が彼に取った対応は、一番優しい制裁。


「銃をこちらに渡せ……。閉鎖病棟に入院しているお前には所持の必要性が無いものだ」


「ああ、なんだ! 何事かと思ったじゃないか」


爽やかさを与えるほどの素直な笑顔で、祐也は迷わず、すんなりと銃を差し出した。


何故か冷ややかなブルーの眼は、不穏の根源をじっと、深く見つめる。


「預かっておく……」


SPDのグリップではなく、スライド付近を触るような不思議な持ち方で、見夜都は彼から銃を取り上げた。


他に話すことも無かった祐也は体を休める為に、病院のある方へ向かい、一歩、また一歩と遠ざかって行く。


夕映えの中の、ひょろりとした背中を追いかける三人の目つきは、いつしか刺々(とげとげ)しいものに一転していた。


力は気分を害しつつ、ぼそりと呟く。


「鼻が折れそうなくらい血の匂いさせてるのは祐也だな……」


やけに軽く力に同調を重ねたのは、見夜都だった。


「そうだろうな。銃のスライドもまだ熱が残っている。……殺して来たんだろう」


口をつぐみ、要は脳裏で思い起こしていた。


今朝、祐也がいなくなったことを知った彼が、医師から投げかけられた言葉を。


『戦闘ストレス反応というものに似ている症状が一部見られるんですが……、何か心当たりはありませんか?』


『……。……いや、全然』


嘘を見透かしたような医師から、無言で手渡された、一枚の紙。


そこには、白黒コピーされた『戦闘ストレス反応』の記述が載っていた。


ご丁寧にオレンジ色の蛍光ペンでマークされている、症例の一つ。



『攻撃衝動』



――


その四文字を浮かび上がらせたペンとよく似たオレンジ色で、彼等を照らし続けている三台の車のハザードランプ。


点滅するその光は、



――危険信号。


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