3.兄弟
「に……兄さん……?」
「真華。久しぶり。元気にしてたか?」
兄。不知火政則。28歳。小中高大と常にトップの成績を残し、いかにも漫画に出てきそうな学力優秀、スポーツ万能な人間である。
女子からもモテていてバレンタイン最高記録は高校2年生の43個である。
その時からイケメンだったという証拠だ。声はCV.神谷浩史かと思うくらい似ている。
要はイケボということである。
先生からも生徒からもとても評判がいい。
しかし6年前、大学を卒業するとともに『旅に出る。世界中を回りたいんだ。』と言い姿を消した。
その後、音信不通となり今何処にいるかも分からなかった。
その兄が隣町の大学の教授をしているなんて思ってもいなかった。
「兄さん何処にいたの……」
「まぁそうやって驚くのも無理は無いよね。世界を回ってるなんて嘘ついちゃったんだし」
その時。
まただ。脳裏に響く。
[ほら。嘘。]
私の回りの人間は……
[全部、嘘。]
本当の姿は何……
[全員、存在しない。]
「おい真華。大丈夫か?」
私はこんな駅前で……
「兄さんごめん……事情は後で話すから……」
「ああ、とりあえずあそこの喫茶店でゆっくり話そう。」
私は兄に全てを話した。理解してもらえる。そう信じて。
「磯崎さんから聞いた通りだ。とても面白い。論文に書いたら有名になれるかも。」
「ふざけないで。私は本気なの。」
「ごめんごめん。そうか。妹がこんな事になってるなんて兄ちゃん悲しいぜ。」
「全然反省してないじゃん……」
「じゃあ見せてあげよう。」
「へ?何を?」
「この世界のあり方。この世界の本当の姿を。」
「兄さん……何を言ってるの?」
兄は急に立ち上がった!客、ウエイター、調理人。全員の視線が兄に集中する。
「真華!君はこの16年間、嘘をつかれていた!」
「ちょ……兄さん恥ずかしい……嘘ってだれに?」
「全人類に。って考えたらどう?」
回りがどよめく。そりゃ、そうなるでしょ。
「この問題を解決したいんだろ?そりゃ僕だって解決したいさ!解決したらノーベル賞なんて余裕で取れてしまう難題なのだから!」
「それってつまり……どうゆう事?」
兄は机に手を乗せ、真華の顔をまじまじと見た。
「兄さん……顔が近い……」
「この問題はね、今の人間には解決出来ないのさ」
嘘でしょ……
席に座り直しゴホンとわざとらしい咳をする。
「要はだ、そんな事を科学者や哲学者に言っても根拠がない。つまり立証されないわけ。そんな事証明できるんならとっくの昔にやってテレビとかの取材受けてるわ。」
「……兄さん。私を……騙したの?」
「騙したというか……兄の仕事は妹を守る事だろ?」
「6年間音信不通になったくせによく言うね。」
「な〜んも聞こえないなぁ〜」
そういうと小声でこう言った。
「まぁ別にこの世界のほんとの姿見せる事なんて容易いんだけどね。あ、これ内緒ね。」
話題を変えるんじゃない。って何それ?そんな事が出来ないってさっき言ったばっかりじゃない。
「今日って暇か?」
「ええ……別に大丈夫だけど。」
「大学の研究室に来てくれ。真華。君が世界を変えるんだ。」
え?何その勇者設定?フラグ?
「兄さん何言ってるの?そんな漫画みたいな事出来る訳……」
「出来るんだ。いや、3年前に出来る様に俺がした。大学の人にも、俺の研究室にいる研究者にも知られてないんだ。使う予定無かったけどまぁ試験運用ついでに。」
「嫌。それって私死ぬかもしれないんでしょ?」
「知らない。そっから先は未曾有の世界。」
「冗談じゃない!私嫌よ。そんな事。」
そういって兄は私の手を握り
「僕と一緒に改変少女になってよ!」
と言った。
なにその魔法少女的な奴。私それ下手したら死ぬでしょ。
「帰る。」
「ちょっと待ってくれよ。やだよ。なんかデートにふられた感じやだよ。」
「兄さん。」
「な。。。何だよ……」
兄の顔色が悪い。
「もっと信用出来るやつにしたら私を使ってもいいけど、今の時点では夢物語。だったら自分が乗ってしまえ。」
そういって私は帰った。
大損。ここまでの交通費返して欲しいくらい。
家に帰る途中。
「あ、真華ちゃ〜ん!」
「あ、雪穂……」
部活帰りであろう。服は汗で濡れている
「シャワー学校でしないの?」
「いやだって先輩優先だし。待ってたら1時間は余裕でかかっちゃう。だったら家帰ってゆっくりお風呂に入る方が早いもん。」
「大変だね。私、部活入ってないし。」
今の精神状態で入ったら多分ヤバい事になるであろう。
「そういや真華ちゃん何処行ってたの?」
「あぁ、実はちょっと隣町のデパートで買い物してて。。。でも良いの無かったから結局何も買わなかったんだ。」
「ふぅ〜ん。ねぇ真華ちゃんに兄弟っているの?」
今その質問をするの……雪穂……
「あたし能天気な妹と熱血馬鹿な兄に囲まれてもう嫌なんだ〜。早く一人暮らししたいな〜」
「雪穂……意外に大変だね。」
「そうなんだよ。いつも妹に平日休日構わず起こされて兄は『気合いだぁー!』なんて言って走っちゃうし。ねぇ真華ちゃんはどうなの?」
「私は……」
私は……一瞬悩んだ。
「……一人っ子だよ。」
兄なんていない。
あんな兄は私たちに要らない。
あんな兄……私は認めない。
「一人っ子かぁ〜いいなぁ〜真華ちゃん羨まし〜」
「そんな事無いよ。一人っ子は結構寂しいよ。まぁそれで自閉的になっちゃうっていうか。いつも私自分部屋にこもっちゃうんだ。私からすれば雪穂の生活の方が賑やかで羨ましいよ。」
「……兄弟なんか……いても嬉しくないよ。真華ちゃんが思い描いている生活なんか……夢のまた夢だよ。」
今の私の感情を雪穂は忠実に言った。
これから私はどう生きていくべきなのだろうか。
そう考えている少女の姿がそこにはあった。




