炎龍
村の広場に行くと、さらに慌ただしい雰囲気になっていた。
「皆のもの、落ち着くのだ!まずは、先程戻ってきた偵察隊の話を聞こう!」
広場の中央、初老の村長らしき人物が村人を静める。そして、偵察に行った衛兵に話を促すようだ。
「俺達は、ゴブリンキングがいると思われるゴブリンの森へ偵察に出た。しかし、そこには戦いの跡はあれど、ゴブリンキングや、他のゴブリン達の姿はなかった。気になって、さらに奥に進んだら炎龍がいたんだ…」
衛兵の顔は皆真っ青だ。それどころか、話を聞いた村人達も全員血の気が引いていた。まあ、龍だもんな。
「そんな…」
「終わりだ…」
村人達からはそんな声が聞こえてくる。さすがに絶望しすぎじゃないか?確かに、圧倒的な力を持っているのは事実だろう。実際炎龍ってのは、ファイアドラゴンのことを示しているはずだ。モンサモでファイアドラゴンのレア度はSRの中位に位置して、基本ステータスもゴブリンキングよりも圧倒的に上だ。ファイアドラゴンの進化前、ファイアコドラなら村の衛兵達でかかれば行けるかも知れないが、ファイアドラゴンとなれば絶望的なのもうなずける。…うん、考えれば考えるほど村人達の気持ちが分かって来るな。
「炎龍は今どうしてるの?」
俺は1つ質問してみた。炎龍を見つけたのに、衛兵達が無傷でいるのが気になったからだ。
「ああ、今から話すつもりだった。炎龍を見つけたのは、森の北側にあるゴブリンの集落でだ。俺達が見つけた時はすでに何体かのゴブリンがやられていたが、ゴブリンリーダーが複数体いて炎龍と争っていた。ゴブリンキングの姿はなかったが、炎龍はやけに気が立っていて、まともにゴブリンと戦えていなかったように見えた。もう少し様子を見たかったが、これ以上は危ないと思い、気づかれる前に撤退してきたんだ」
話を聞く限りだと、炎龍はゴブリンと互角に戦っているようだ。本来ならゴブリンリーダーが複数いようと瞬殺のはずなのに…まともな状態じゃないということか?
「村長!今炎龍は、ゴブリンと争っています!今のうちに更なる援軍を呼ぶべきです!」
「ああ、わかっている。炎龍が争っている隙に、更なる援軍を呼ぶ。馬を出そう。先に呼んだ援軍が来たら、次の援軍が来るまでに我々と共に持ちこたえてもらう。援軍はいつ来るかわかるか?」
「はい!王都の冒険者は対応が速いので、遅くとも三日、速くて一日で来ます!」
「そうか…よし!女、子供、年寄は緊急用の洞窟に避難!男は炎龍が来た時のために、戦闘の準備だ!いいか!三日だ!遅くとも三日で援軍が来る!それまでなんとしても持ちこたえろ!皆のために!」
「「「オオオオォォォォォーーーー!!」」」
村長の言葉で、村人全体に活気が溢れてきた。すごいな…これなら本当になんとかなるかも。最悪俺が何とかすればいいしな。もちろん影から手助けするだけだが。
「ほら、ボウヤもいくよ!」
「えっ?あっ、うん」
宿屋のおばちゃんに呼ばれた瞬間、疑問に感じてしまったが、今の俺は子供なんだ。どうにも忘れてしまうな。
こうして、俺は村人達と一緒に洞窟へ避難した。
ーーーーーーーーーー
「やっぱりあれは、炎龍のせいだったのかな?」
洞窟へと避難した俺は、昼間の出来事を思い出していた。昼間、ゴブリンの森で囲まれたときは、おかしいとは思っても、もしかしたらこの森はいつもこうなのかもしれないと深くは考えないでいた。しかし、あの量のゴブリンはやはり異常だったと思う。
「あのゴブリンキングは炎龍から逃げたってことかな」
ゴブリンの集落にはゴブリンキングがいなかったと衛兵は言っていた。ということは、俺が戦っていたゴブリンキングが、その集落の主だったのだろう。
「いち早く危険を察知したゴブリンキングは複数の仲間を連れて逃げた…残りのゴブリン達はおとりとして炎龍と交戦…って感じか」
結局ゴブリンキングはただの余興で、炎龍が黒幕だったってわけだ。ほんとめんどくさい状況になってきたな。あまり目立ちたくないのに、これじゃあ簡単に強さが露見してしまう。それだけは絶対に嫌なんだ。目立っても碌なことがない。
「だから速く俺のためにも援軍来てくれよぉ」
「さっきから何ブツブツ言ってるんだい」
おっと、宿屋のおばちゃんが近くにいたんだ。聞かれちゃまずい、人前ではあまり独り言は控えないとな。
「いや…速く援軍来ないかなぁ、と思って」
「大丈夫だよ。王都の冒険者達の対応は本当に速いからね。すぐに来てくれるだろうよ」
「そうだけど…さすがに今日中には来ないかな?」
「それは分からないねぇ…運しだいだよ」
「運かぁ…」
「なーに!遅くとも三日中には来るのは確かだ!あとは村の男どもを信じてればいい!」
「うん、そうだね!」
龍が来ようが援軍が来ようが今は待つしかない。どちらが来ても状況は動くんだから。
「おい、動いたぞ!」
「ん?村の男どもが来たね。あたし達も行ってみるよ!」
「わーとっと!そんな急がなくても行くから!痛い痛い痛い!!」
パワフルなおばさんだな全く…
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「偵察隊が戻ってきたんだが、炎龍が動き出したらしい」
「そんな!」
「速く援軍を…」
「戦闘の準備を…武器は!」
洞窟に入ってきた男たちの所に行くと、炎龍が動き出したと話していた。村の男達は大丈夫だろうか。
「落ち着け!村に近づいているのは確かだが、ゴブリンと戦闘をしたためか、思ったより動きが鈍いようなんだ!村長達も今なら我々だけでも倒せるのではないかと話していた!」
「危険よ!ギリギリまで援軍を待つべきだわ!」
「そうじゃ、相手は炎龍。例えゴブリンとの戦闘で弱っていても、勝てるとは限らんぞ!」
「しかし、動き出したのもまた事実!向かい打たねばいづれやられてしまう!」
「だから援軍を!」
「いや!そうではなく―――――」
これじゃあ埒があかないな…しかし、炎龍が強いのは本当だ。手傷を負っていても、ただの村人たちに勝てるかどうか…
「おい!おまいらも来い!炎龍が村へ急接近してるようだ!迎え撃つぞ!」
「は、はい!」
「わかった!行くぞ!」
「「おお!」」
どうやら、四の五の言ってられなくなったようだ。もしもの時は俺も外に出るか。さて、どうやってこのおばちゃんに気付かれないででるか考え―――――
ドオオオォォォォォーーーーーー!!
「うおっ!」
「なんだい!今の音は!」
「キャアアアーーーー!!」
「来てしまったのか…」
「援軍をー!援軍をー!」
今の音で、村人はパニックだ。くそっ!外で何が起こっているんだ!
「今なら…」
村人はパニック状態だ。宿屋のおばちゃんは…よし、まわりの人を落ち着かせるために夢中だ。今ならひっそりと外に出られる。
「よし、召喚!ブルスラ!」
とりあえずブルスラだ。メタスラはこの世界でどう認識されているかわからない。となると、むやみに人前で召喚できない…R以上のモンスターも子供が召喚するのは不自然だ。となればこいつしかいないということだ。
「行くよブルスラ」
「キュイ!」
ーーーーーーーーーー
「はあ、はあ、はあ、もう少しで入り口だ!」
「キュイ!」
この洞窟は思ったよりも入り口までの距離が長い。おかげで、無駄な体力を消費した。
まあ、体力のことはいい。それより外に出る前にやることを確認しよう。
「ブルスラ、俺は人前で目立ちたくはない。だから、外に出てもまずは様子を見るんだ」
「キュイ!」
「よし、いいこだ」
ブルスラにも言ったとおり最初は様子を見る。もし、村人が戦っていたなら、当たり障りがない程度に援護。まずい状況になりそうなら、いったん隠れて強力なモンスターを召喚する。
よし、そうと分かれば出るぞ。
「外はどうなって…ッ!これは!?」
「キュキュウ…」
外に出た俺は絶句した。なぜなら予想とは大きく違っていたからだ。
「なんで龍が2体いるんだ…」
なぜかそこでは、赤い色をした龍と青い色をした龍が争いあっていた。