ゲルガ村へ
村を出た俺は、道の真ん中でどうするか悩んでいた。
「村を出たのは良いんだけど、これからどうしようか…」
そう、あの英雄達から逃げるように村を飛び出した俺は村を出た後のことを考えていなかった。
「王都を目指すのは確かなんだけど、速すぎるんだよな…」
王都を目指すにも、俺はザルテに『しばらく訓練してから』と言っていたため、3ヶ月ぐらいは滞在するつもりでいた。なぜ3ヶ月なのかと言うと、俺は子供では珍しいモンスター使いだからである。ただでさえ、この歳でモンスターを扱うのは珍しいと認識されているのに、たったの数日で子供一人が王都に辿り着くのは端から見たら異常なのではないだろうか?
「ザルテの話だと、この先のウルフの森はゴブリンの森より危険らしいし」
以前俺は、ザルテからウルフの森についても聞き出していた。
聞いた話では、名前のとおりウルフ系のモンスターが数多く生息していて、この辺の冒険初心者にとっては、ゴブリンの森の次に訪れる第二の壁とされているらしい。
しかし、王都に行くには必ずこの森を通らなければいけなく、ザルテからも『絶対に一人であの森を通るなよ!』と注意されていた。
それなのに、大して訓練のしていない俺が数日で再会なんかしたら、『大丈夫だったのか!?』なんて言われてザルテに心配されるのは目に見えている。となれば、数ヶ月の間訓練をしてから再会した方が自然で怪しまれない。
「本来なら3ヶ月でも速い気がするんだけど」
子供が、3ヶ月で王都にいけるほどの実力をつけるかと言われればそれも速い方だと俺は思う。せいぜい半年ぐらいは王都にいかない方がいいのでは?と思っていたが、おれ自身としては長すぎるし、王都に行って帝国の動きも調べたい。ということで3ヶ月に収まったのだ。
「最悪、3ヶ月で王都についても半年たつまで、ザルテに見つからなければいいとも思ってたんだが…とにかく今はウルフの森を抜けるか」
こんな場所で考えていても、体力の無駄になる。どこか、落ち着ける場所…ウルフの森を抜けた先にあるゲルガ村にいこう。その村もあの2人が通りかかる可能性があるので長居はできないが、少なくとも考える時間はあるだろう。
「そうと決まれば、村に急ごう…ん?あれは…軍隊?」
早速村へ行こうとしたら、ウルフの森から鎧を着た軍隊らしき人達が出てきた。
「どうしよう…とりあえず挨拶すればいいかな?」
見たところ、あの人達は英雄の2人を追って来たのではないかと思う。ファイアドラゴンを倒した後すぐにコロモ村の村長が、王都に知らせを出していた。それなのにこれだけの軍隊が来たということは英雄達の迎えに来た考える方が妥当だ。
「でも、普通に挨拶して大丈夫かな?不敬じゃないかな?あっ、こんにちは」
どうこう言っているうちに軍隊の人達が、目の前まで来てしまっていた。この1番前にいる男が隊長とかなのだろうか?
「ん?君、なんでこんなところにいるんだい?お家は?」
その隊長っぽい男が話しかけてきた。とりあえずここは、無難に答えるべきだろう。
「俺は王都まで旅してるんだ!」
「へぇ、でも王都に行くにはこの森を通らなければいけない。この森は君には危ない…私達はコロモ村に向かっているのだが、一端私達についてくればいい。あとで王都に送ろう」
「え、あ、その…」
まずい…コロモ村に戻ってはあの2人に…ましてや軍隊と一緒にいてはすぐに俺のことに気づくだろう。なんとかせねば!
「え、えーと、1人でも、だ、大丈夫だよ?」
「何を言っている!子供1人ではこの森は危険だ!私達と一緒に来た方がいい」
「あっ、えっと…」
まずいまずいまずい!考えるんだ!いち速くこの状況を打開する方法を!
「実は俺、王都に行く前にゲルガ村に用があるんだけど、いち速く村に届けなければいけないものがあるんだ!」
「なんだと?」
よし!我ながらいい考えだ。これならなんとかなるはずだ。
「その届けなければいけないものは今すぐにか?」
「今すぐにだよ!あっ、正確には今日中には届けたいんだ」
「そうか…今は昼だから、森を抜けたら村はすぐそこ…よし、エルバ!この子供をゲルガ村まで送ってやれ!」
「はっ!了解しました!!」
隊長らしき男が、エルバという若い男に俺の護衛を頼んだ。
上手くいった。1人ついてくるのは仕方がないとして、あとはこのエルバという男をどうやって出し抜くか考えていればいい。
「この森は危険だが、君は速くゲルガ村にいきたいということなので、護衛をつけさせてもらう」
「うん、分かった!この兄ちゃんに守ってもらうよ!」
「素直な子だ。エルバは若いが相当な実力者だ。安心して村に向かうといい」
「ありがとう!よろしくエルバ兄ちゃん!」
「ああ、よろしくな、ボウズ!」
「ボウズじゃないよ!俺、アキっていうんだ!」
「そうか…じゃあ、アキ!よろしくな!」
「うん!」
とりあえずアキと名乗っておく。偽名と言うよりあだ名に近いから、何かあっても大丈夫だろう。
そして、俺とエルバはウルフの森へ入っていった。




