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暖かく見守っていただけると幸いです。
俺の名前は前島幸雅。しがない高校生だ。
高2の春。卒業してから大学には行かず、どこかの会社に就職して一人暮らしも悪くないなと思っていた俺はアルバイトをすることにした。
何故アルバイトをしようと思ったのか?それは俺がコミュ症だからだ。
親や仲のいい友達と話す時はそうでもない。でも、女性や大人と話す時はどうしても言葉がつまり変な受け答えになってしまう。
そいつを解消しなきゃ会社生活なんて送れないと思ったわけだ。
そして俺が見つけたアルバイトがこれだ。
今、俺は全身から滝のような汗を流し、見辛い上に手足があまり動かせない身体になっている。
所謂、きぐるみの中に入っているのだ。
地元に何体か生息している御当地キャラクターの中身。それが今の俺だ。
人から顔を見られることもなく、喋る必要もない。だってこういったキャラって普通は喋らないもんだ。どこぞのゆるキャラと違ってな。
コミュ症克服のための第一歩って訳だ。
笑顔で長時間の下らない話を延々と続ける市長の隣でチビッ子に手を振る。
それが俺の役割。長いスピーチが終わり、いよいよ市役所前のちょっとした広場で俺ことキツネの〈キュービー〉との触れ合い会が始まった。
来ている子供達はそんなに多くはいない。そもそも今回の俺はオマケで市長の引きたて役でしかない。
だからそんなに人がいないのは仕方がないことなのだ。
それに最初からあんまり人がいても対応しきれないしな。
「ほらっ!あれ!キュービーいるわよっ!行ってきなさい!」
親御さんに促され何人かの子供が俺の元へとやってくる。当然俺は常にニコニコと笑顔で対応する。
まあキュービー君が笑っている顔のぬいぐるみだからなんだけどな。
キュービーは俺の住んでる県のとある町に伝わる、9本の尾を持つといわれる伝説の妖怪「九尾の狐」をモデルに観光ナビゲーターとして誕生しました経緯がある。
だから外見は可愛らしい二足歩行型のキツネで尻尾が9本ある。
公式設定ではキュービーの先祖は、インドや中国で、美女に化けて王様たちをだまし、いくつもの国を滅ぼしたと言われているらしい。なので美女に化けることが出来るんだと。
俺はそんなこと出来ないけどなっ!
一通りバイトを始める時に貰ったゆるキャラ対応マニュアルに沿って行動していると鼻水を垂らした小学校低学年位のガキが鼻をほじくりながらやってきた。
「なあ、お前さ」
俺がそのガキの頭を撫でようとしてそんな第一声を言われ、ガキの頭上、数センチで手がピタッと止まる。
「人間が中に入ってんだろ~?何とか言えよ~」
最近のガキは言葉使いがなっちゃいねえな。まぁ小1位じゃ仕方ない。ここは大人の対応をするとしよう。
俺は大げさに首を傾げ「なに言ってるか全然分からないよ~」とポーズを取る。
「ふざけるなよ。小学生だからってだまされると思ってんしゃねーぞ?」
下からキュービーの口の辺りをのぞき込むようにガンつけているガキ。
つまり俺の顔がある辺りを見ていることになる。
耐えろ俺。17歳の、人生の大先輩である俺がこんなガキに心を乱してはいけない。
そう言い聞かせ心を落ち着かせる。なんだっけ?あれだ明鏡止水ってやつだ。
というより俺はそのガキをシカトして他の子供たちの対応に回った。いつまでもこんなガキの相手ばかりしてはいられない。
俺は皆のアイドル(笑)なのだ!
しばらく他の子供たちの相手をしていると後ろから聞こえて来た陰口が聞こえなくなった。
ようやく諦めて帰ったか。そう俺が安堵していると妙齢の女性。つまりおばさんから声がかかった。
「どーしてウチの子の相手をしないの!?ケンちゃんさっきからあなたの後ろでずっと寂しそうにしているじゃない!?」
話しかけて来たのはどうやらあのクソガキの母親らしい。
血走った目でこっちを睨みつけてきている。
苦手なんだよなぁこういうババア。あれだろ?今時はやりのモンスターペアレントってヤツだ。
このままガキを放っておくとマズイことになりそうだ。
つか、話しかけても面倒なことになりそうだが・・・。
しかたねぇな。と思いつつ俺は再度ガキに向き直る。
丁度、母親、俺、ガキで直線状に並ぶ形となり必然的にガキの表情は俺にしか見えない。
(このガキャアァ・・・)
振り返ったその時、ガキは思いっきりニヤニヤとしたり顔で笑っていた。
正直子供にここまでコケにされたことは生まれてこのかた一度もない。
普段の俺ならば力任せにぶん殴っていただろう。
だが、俺は御当地そしてゆるキャラなのだ。いちいちこんなガキ相手に怒っちゃいけない。
そう思っていた時期が俺にもありました。
気がついた時には俺はガキの眼前にキュービーの口を持っていき、水分補給や視界が悪い時に開ける為の編み状になっている口を開け、キュービーの第三の眼である・・・つまり俺の眼だが・・・。でガキを睨みつけ、
「オイ、クソガキ。あんまチョーシくれてっと殺すぞ・・・?」
と、肉親にすら恐れられる「絶対この人殺ってるよ」的な鋭い眼光でガキを睨みつけていた。
し、しまったああああああああ!!!
そう思った時には遅かった。
ガキは想定していた中年のおっさんでは無く、強面の不良風な男が中身だったことを知り眼には溢れんばかりの涙を溜めている。
もう決壊寸前だってくらいに・・・。
「う、うううえ~~~~ん!!!ママァッ!」
俺を突き飛ばすようにガキは母親の元へと抱きつくと有る事無い事吹き込み始めた。
(テッメェ・・・)
と思いながら俺は素早く口元をなおし振り返る。
ガキを胸に押し当てキッと俺を睨みつける母親。
(終わった・・・)
「困るよ~キミィ。キュービーは由緒ある御当地ゆるキャラなんだからあんなことされちゃあ・・・」
俺はその後、早速控室に呼ばれお説教をくらっていた。
甘んじて説教を受け入れていた俺に傍でその光景を見ていた市長から声がかかった。
「まぁまぁ田代君。それくらいにしてあげたらどうかね?」
「市長・・・」
「私も近くで見ていたから言えることだがね。この青年が相手にしていた子供は相当に酷かった。温和な私でもカチンとした位だ。年頃な若者なら相当に頭にきただろう。許してあげなさい」
「しかしですね・・・」
「ならチャンスをあげたらどうかな?次の仕事で彼の有能さが分かれば今回の件は水に流してあげようじゃないか・・・」
「まあ市長がそうおっしゃるのであれば・・・」
おっ、黙って下を向いていたら市長が弁解してくれたぞ。
と同時に俺の次の仕事が決まったらしい。一石二鳥だぜ!ありがとう市長!
「とはいえだ。普通の仕事では中々分かる事も分かるまい。とっておきの仕事があるんだが・・・?」
その時、俺には市長の温和な笑みが悪魔の笑みに見えました・・・。
数週間後、俺はとあるデパートの屋上に来ていた。
何をするのかって?それは・・・。
「くらえ悪党共!サンシャシンパンチ!!」
「グフッ!!」
全身をピチピチのスーツに身を包んだ男に俺は正拳突きされ悶絶する。
薄い生地のスーツを着ている為ダイレクトにその威力は俺の身体に突き刺さる。
(コイツ、加減ってモンをしらんのか!!)
そんな事を思いながら俺の後ろに待機していた黒子達に俺は抱きかかえられ立たされる。
今行われているのはデパートの屋上で月、水、金のみ開催されるヒーローショー。
俺はその中のゆるキャラ怪人Aを演じさせられているのだ。
数週間前のイベント以降、俺は県内を転々とさせられ、つい一週間前からこのデパートの屋上でヒーローショーをさせられている。
そしてその相手っていうのが、
正義のヒーロー【郷土戦士カムマン】
県民の愛と平和を守る御当地ヒーローだ。
中の人が体育会系のガチムチ脳筋お兄さん五人で組まれたそのヒーロー達は市の予算を大量に注ぎ込んだスーツとCM効果で市民から一定の人気を博していた。
そして人気の理由の一つとしてどんな敵でも容赦しないガチバトルなんてものがあった。
テレビで見ていた時は相手がかわいそうだななんて思っていたが、実際やられる側に回ってみてその大変さが分かった。
「ちょ、て、手加減・・・」
腹にきている痛みに右手で腹を抑え、左手で待ったをかけるも相手はお構いなし。
黒子の人もそれは分かっているようで俺を死神に向かって押し出す。
「あっ、ちょっ!?」
押し出された俺の頭部にカムマンのレッドから強烈な回し蹴りがヒットする。
殺られる!!
そう思ったのもつかの間。鋭い回し蹴りが俺の頭に吸い込まれるようにして当たり俺は壁際へと吹き飛ばされる。
「ギギィ!!」
俺が吹き飛ばされたのを見た仲間の戦闘員達から悲鳴が上がる。
俺が着ているのはかつて別世界で魔王をしていた男が勇者や神々を倒し持て余した力でこの世界にやってきた際、身分を隠すためにゆるキャラを演じているというとんでも設定に彩られた幹部のゆるキャラだ。
つまり傍で戦いを見守っている連中の上司ってわけ。
上司がやられたら次は自分達がやられる番ってことだ。
えっ?普通はボスキャラが最後じゃないかって?
確かに普通は弱い戦闘員が出てった後にボスが登場しやられるのが定番だろう。
でもこの脳筋戦士達にそんな常識は通用しない。
常に大物から先に狙ってくるのだ。
「いったぁ・・・くない?」
吹き飛ばされ壁に衝突した俺だったが不思議と頭部の痛みは無い。
頭を触ってみて納得した。
「ああ、俺。ゆるキャラだったんだっけ」
つまりどういう事かというと、俺の頭はゆるキャラ定番の大きなかぶり物に保護されていたってわけだ。
「あぶねえ。マジで助かった」
倒れて視界を塞がれてしまった為に周囲の状況は良く分からないが、戦闘員達の悲鳴が聞こえる為、おそらくカムマン達の興味はそちらに移ったのであろう。
叩き起こされて攻撃されなくて良かった。そう思いながら本日の公演は終了したのであった。
そう簡単には異世界には行かせません!




