第二章 魔法の言葉 2
降り止まない雨を店先で見上げながら、咲良は小さな溜め息を落とした。
ほんの数日前まで、あたたかな色で広場を彩っていた薄紅の花はすっかり落ちた。枝先の向こうには、暗くくすんだ空の色ばかりが広がる。
「さくちゃん」
店の奥で資材を片付けていた美弥から声が掛かった。
「来週のさくちゃんの誕生日、ちょうど定休日でしょ。うちでご飯どう? 蓮も帰ってくるから、みんなでお祝いしよ」
蓮は咲良の二つ下の従弟だ。
アメフトが好きで関西の大学に進学した彼が、帰省するのはそう多くはない。
気持ちは有り難いけれど、家族団らんの中に入っていくのはあまり気が進まなかった。
咲良は迷いながらスマホに文字を入力していく。
ほんの短い言葉を入力する指先がもつれる。
《ありがとうございます。でも、その日は友達とご飯に行くので》
画面を見せると、「そっか、よかった! なら楽しんできてね」と美弥は屈託なく笑った。
どうにか口の端を引き上げて笑みを返しはしたものの、胸が痛む。
本当は、誰とも会う予定なんてない。
退院してから、一度だけ友達と出掛けたけれど、筆談では会話に追いつけなかった。
言葉の速さに追いつこうと必死に文字を打つほど置いていかれる気がして、疲れるばかりだった。
大学も休学していたから、そのままなんとなく疎遠になって今に至る。
だから――誕生日はひとりでもいい。
お気に入りの花をたくさん飾って、好きなケーキでも食べたらそれでいい。
もう一度店の外に視線を投げた。
いつもなら、狐面の彼──ナギが、指先で世界を紡ぐ場所も、雨が叩きつけられている。
こんな日は、彼は何をして過ごすんだろう。
ナギのことを考えると、少しだけ息が苦しくなる。
咲良はもう一度そっと溜め息を落とした。




