32、憧れのお姫様だっこ
私の隣から聞こえてきた呻くような声。
その声のした所へと皆の視線が集まる。
その集まった視線の先、そこには汐莉さんが自分の足を押さえて蹲っている姿があった。
「どうした葉月!?」
「葉月さんっ!?」
「し、汐莉さん?」
その汐莉さんの姿を見た瞬間、皆の足が一斉に止まり、汐莉さんの下へとすぐに集まる。
「つっ……!!」
よっぽどの痛みなのか、汐莉さんは蹲ったまま言葉を発せないでいる。
その痛がりようから、それがただ事ではないという事が皆にもすぐに分かった。
「葉月、足でも挫いたのか?」
汐莉さんは、千聖君の声にぴくりと反応し。
「い、いや……、何かに噛まれたみたい……」
痛みを堪えるようにして声を絞りだす。
「な、何か、というのは何ですの?」
「わ、わからない…。急に足に痛みが走って……」
そう言って、汐莉さんは痛みの走る足を擦る。
「その痛がりようからすると、スズメバチとかか…?」
え、それってやばいんじゃ?
スズメバチでの死亡事故が毎年何件もあるとかって…。
いや、スズメバチは二回目に刺されるのが危険なんだっけ……?
「いや、どうやら蛇みたいだね。さっき一瞬だけ茂みに入っていくのが見えた」
怜史君のその言葉に皆の背筋に冷たいものが走る。
「…蛇って、毒蛇か?」
「い、いや、尻尾が見えただけだから、そこまでは分からなかったよ」
千聖君はそれを聞いて、少し考え込む。
「葉月、ちょっと見せてみろ」
「あ、ちょ、橘君っ!」
千聖君は汐莉さんの返事を聞く前に、手早くジャージの裾を捲って傷口を確認する。
「これは……」
汐莉さんが抵抗する間もなく顕になったその傷口。
その状態は、脛の一部が赤く腫れあがって中心からは血が滴っていた。
その傷口は痛々しく感じるけども、素人がこれを見て判断できるのかな…?
「ち、千聖君……、どうですか?」
「思ったより腫れてはいないな……」
千聖くんは何か思案するように手を顎に当てている。
――そして。
「……あまり効果は無いらしいが、やらないよりはましだな」
千聖君が小さくそう呟いた。
そしてそのあと、信じられない事が私の目の前で起こる。
「た、橘君!?」
なんと、汐莉さんのその傷口に、あろうことか千聖君の唇が吸い付いているではないか。
な……。
な……。
な、な、……。
な、何を……!?
いやーーーー!!!!!
いやーーー!!! やめろーーー!!!!
今すぐそれを止めるんだーーー!!!!
あああ……、ああぁぁぁうぁぁぁぅぅぅ……。
あ、あぁ、眩暈が……。
もうだめだ…、もう私は生きていけない……。生きていちゃいけない……。
お父様、お母様、お兄様、もうだめです。
祥子は明日死んでるかもしれません……。
死因はショック死です。
力士五人分のショックが私に圧し掛かってきて敢え無く死亡です。
不甲斐ない娘でごめんなさい。
あ、汐莉さんは一緒に連れていきますね。
連れて行ってあの世で説教ですよ、この子だけは。
ううぅ……。
分かってるよ、分かってるんだよ。毒を吸い出すって……。
でも嫌だあぁぁぁ……!
ぬぁぁぅぅ、蛇め…、何で私を噛まないんだ……。
私を噛んでいたら今頃あそこにいたのは私だったのにぃぃ。
うぅぅぅ………。
「祥子ちゃん大丈夫かい? 顔色が悪いよ?」
足の力が抜けていき、ふらつきそうになっていると怜史君が心配して声を掛けてくれた。
「え、ええ、私は……大丈夫ですわ。それよりも、汐莉さ――」
私が言い終わるその前に、更なる悲劇が私を襲う。
「葉月、このまま施設の医療室まで運ぶぞ」
そう言いながら千聖君は汐莉さんの肩と足に手を回し…‥。
「ひゃっ、た、橘君、何してるのっ!?」
「動くなっ! 動くと血の巡りが早くなる!」
お!
お!
お!
おおお!!
お姫様だっこーーーー!!!
やめろーーーー!!!
それだけは本当にやめろーーーー!!!
やーめーるーのーだぁぁ~~~~~!!!
ああああぁぁぁぁぁぁ~~!!!!
「怜史、後の事は頼んだ」
そう言い残すと、千聖君は汐莉さんを抱えたまま施設へと走り去っていった。
私はその後ろ姿を茫然と見つめながら、目の前が暗くなっていくのを感じていた。
終わった…。
私の夢、お姫様だっこが……。
初夜まで取っておくはずだった、お姫様だっこが……。
お姫様だっこが…、お姫様だっこが…、お姫様だっこが…、お姫様だっこが……。
ああ、明日になったら私確実に死んでるなぁ……。
汐莉さん、化けて出てやるからね……。
ああもうダメだ、立ってられない……。
「祥子ちゃん、大丈夫かい?」
その言葉と共に私の肩をしっかりと掴む感触を感じた。
「か、神楽様……?」
「倒れそうになってたよ、山道で疲れたんじゃないのかい?」
気が付くと、私は怜史君に支えられるようにして立っていた。
そ、そうか、わたし本当に倒れそうになってたのね…。
「あ…、いえ、私は大丈夫ですわ。それよりも…、心配ですわね……汐莉さん」
「そうだね…。腫れ方は酷くなかったから大丈夫だとは思うけど……」
私と怜史君は、暫くのあいだ千聖君たちが去っていった方向を眺めていた。
そして、少しの沈黙が続いた。
「葉月さんが心配だし、僕たちも戻ろうか。オリエンテーリングを続けてる場合じゃないしね」
「そ、そうですわね、そう致しましょう…」
何とも言えない落ち込んだ気持ちのままだったけど、いつまでもここでこうしている訳にはいかない。
怜史君にそう言われて合宿所に戻るべく一歩踏み出そうとする。
しかし、予想以上に私の足は重かった。
う…、さっきは何とか気持ちだけで歩いてたけど、それが切れて一気に足に疲労が襲ってきている。
足が、足が震えるよぉ……。
それでも何とか一歩を踏み出し、また一歩と前に出る。
だ、大丈夫、勢いに乗れば足は自然と動くものよ……。
動け私の足…。
すると怜史君が。
「祥子ちゃんも、お姫様だっこしてあげようか?」
とんでもない事を言いだした。
「なっ、お、お姫様だっ…!? け、けけ結構ですっ!」
「ははは、冗談だよ。顔が赤くなってるよ祥子ちゃん、ははは」
「――っ!?」
な、何だ!? 何なんだ!?
私を、からかっているの……か!?
ぬ~~、その笑ってる顔が何か腹立つんだけど……!
「あ、赤くなんてなってません! ちょ、ちょっと日差しが強くて焼けただけですっ。あー、日焼け止めを、そう日焼け止めを忘れちゃいましたからね、そ、そのせいじゃないですか?」
「なんだ、そうなんだ。それじゃ、しょうがないね」
そう言って、怜史君はまた「ははは」と笑った。
ぬぅ、人が落ち込んでるときに。
何気にデリカシーの無い人だね、この男も!
何? 普段の紳士っぷりは偽りの姿だったってこと!? 遂に本性を現したってこと!?
これから怜史君は、要警戒人物に指定しておかないと…。
「こ、こんな所で油を売ってないでさっさと施設に戻りますよ」
そう言って、私はふんっと鼻息を荒くさせ歩きだした。
その足取りは、不思議とさっきよりも楽に動くのだった。
「はは、待ってよ祥子ちゃん」
「神楽様は、置いていきますっ」
「でも、辛かったら言ってよ。おんぶくらいはするから」
「お、おんぶとかっ。そ、その必要はありませんっ」
その反応で、また怜史君に笑われた。
何なの、もう!
施設に戻る道すがら。
足の疲労を感じながらも、頭に浮かんでくるのはさっきの光景ばかり。
仕方のない事とは分かっていても、どうしても気分が沈んでいくのだ。
ああ、私が蛇に噛まれていたらあの役は私だったのに……。
何なの、私は美味しそうじゃなかったの? 鶏ガラみたいで食べる所が無いってか?
ぬぅ、蛇のくせに選り好みなんてしてんじゃないよ。
と、そんな事を考えていると。
「千聖の事が気になる?」
私の考えてる事が分かっているかのように、怜史君が訊ねてくる。
「い、いえ、そういう訳では…」
「はは、祥子ちゃんはすぐに顔に出るなぁ」
「なっ!? そ、そんな事はありません!」
「ほら、すぐに顔が赤くなる」
「な、やめてくださいっ。何なんですか、さっきから!?」
私は自分の顔を触りながら、必死に動揺を抑える。
「ごめんごめん、揶揄うつもりは無かったんだよ」
「いえ、絶対に揶揄って遊んでいます! 神楽様がこんなに意地悪な方とは思いませんでしたわ」
「ははは、さっきから浮かない顔してたからね、ちょっとした冗談だよ」
むぅ、ほんとに意地悪だなぁ。
原作の怜史君はもっと紳士的だったのに、そんなんじゃ女性ファンが泣くよ?
いや、…それが良いという意見もあるのかも……。
「す、少し考え事をしていただけですから、ご心配なく」
私はふんっと言ってそっぽを向いた。
「祥子ちゃんがそういう顔をするときは、決まって千聖の事だよね?」
「べ、別に、私は年中千聖君の事を考えてるわけじゃありません…よ?」
むぅ、何だか全てお見通しって感じだな。
私はそんなに顔に出やすいんだろうか…?
「千聖君……か。祥子ちゃん、なんだか最近変わったよね」
怜史君がまたもやドキリとさせる事を言ってくる。
「そ、そうですか?」
いくら祥子ちゃんの記憶があるといっても、完璧に他人を演じるというのは難しい。
親しい人が見れば、やっぱりどこか違和感というのは付いて回ってしまうだろう。
ましてや、私に本物の祥子ちゃんのように振舞えって言うのはほぼ不可能だ。
何とか地が出ないようにはしているつもりだけど。
どうしよう、そのうち偽物ってバレる気がする……。
「前はもっと張り詰めていた、というか…」
まるで以前と今の私を比べているかのように話す怜史君。
「き、気のせいではないでしょうか……」
こ、この話題やめてくれないかな……。
「いや、変わったっていうより、昔の祥子ちゃんに近くなったのかな?」
「む、昔の…、私?」
「うん。ちょっと前までは見ていて痛々しいくらいに無理をしているように見えたから。なんだか今は憑き物が落ちたみたいというか」
……。
怜史君はそういう風に祥子ちゃんを見ていたのか。
なんだ。
ここに、ちゃんと祥子ちゃんの事を見てくれてた人がいたんだな。
なんだか嬉しい気持ちが込み上げてくる。
私は怜史君ににこりと笑顔を見せると。
「私は如月祥子です、それ以上でもそれ以下でもありませんわ」
そう言って指をびしっと立てた。
「……ぷっ、なんだいそれ?」
「私は昔から変わってなどおりませんって事ですわ。……でも神楽様、ありがとうございます」
嬉しい気持ちから、思わずお礼の言葉が出た。
怜史君はそれに、笑みをこちらに向けて返事をした。
「変わったといえば、最近の千聖も少し変わったような気がするね」
「そうでしょうか?」
「前の千聖だったら、さっきみたいな事したかなって思ってね」
「さっき……?」
「ほら、千聖が葉月さんを抱えて連れていったでしょ?」
一瞬だけ気が紛れていたのに、その言葉でまた思い出してしまった。
せっかく忘れかけてたのに、そこを掘り返すのやめて……。
「ち、千聖君はっ…」
「はは、また動揺が顔に出てるよ」
「うっ……」
私のその反応に、怜史君はまたもや揶揄うような笑い声を上げた。
「前はもっと愛想が無いというか、どこか人に興味が無いようにも見えたのにね」
ぬ、そんな冷徹人間みたいに言わないでよね。
千聖君は本当は優しいんだから。
「ま、まあ、千聖君はあまり表に出さないタイプですから…」
「うん、だから葉月さんの事であんな行動に出るって、ちょっと前からは考えられなかったなって」
怜史君のその言葉が、私の胸に刃物のように突き刺さる。
そ、そうなの?
本来の千聖君は、あんな事はしないの…?
「し、汐莉さんの、事で……」
私の千聖君のイメージは原作のイメージが強いから、違和感が無かっただけ…?
ヒロインと、千聖君の物語…。
それは……、ヒロインの為の物語で……。
ここで、怜史君の口からさらに衝撃的な事実が告げられた。
「葉月さんで思い出したけど、そういえばあの下駄箱の話。あれ千聖が自腹を切ったらしいね」
「えっ…!? じ、自腹って、…どういう事ですか?」
下駄箱の話って、あれは千聖君が学園に掛け合って替えさせたのでは……?
「いくら千聖が言ったからって急に下駄箱を替える予算が下りるわけじゃないからね。だから千聖はあの下駄箱を学園に寄付したんだよ」
「ち、千聖君が……どうして」
ちょ、ちょっと頭が追いつかない……。
なんで…? どうして……?
何故、千聖君がそこまでするの…?
「あ、ごめん、知らなかった? 僕も先生から聞いただけなんだけど、てっきり祥子ちゃんには話してると思ってたよ」
「い、いえ、私にも……」
気持ちが沈む…。
どんどんと、考えが嫌な方に進んでしまう。
千聖君は、そんな事をするような人ではなかった……?
千聖君が変わった原因は……?
どうして汐莉さんの為にそこまでするの……?
色々な事が頭をぐるぐると巡ったけど、私はその答えを出す事が出来なかった。
少女漫画で、ヒーローが変化していく理由は一つしかない。
そんな事は分かっている。
分かっていても、私はその答えを出す事が出来なかったのだ。
それから、怜史君が何かを話していたけど、私は深い闇に嵌まってなにも聞こえなかった。
☆
施設に戻ってきた私たちが目にしたものは、教師たちの慌てる様子だった。
その、教師たちが右往左往している姿を見ると、私たちに一抹の不安がよぎってくる。
「随分と…、騒がしいようですが……」
「うん、まさかとは思うけどね……」
私と怜史君は、お互いの顔を見合わせて少しのあいだ沈黙した。
「祥子ちゃん、急いで医務室に行こうか」
「そ、そうですわね」
やはり怜史君も同じことを考えたんだろう。
私たちは、お互いの不安を解消しようと医務室へと急ぐ事にした。
しかしその歩を進めようとした、その時だった。
「ああ、如月さん、神楽君っ」
私たちに呼びかける声が、その歩みを止めた。
「あ、先生。僕たち今から医務室に向かおうと思ってた所で」
その声の主は私たちの担任教師で、二十代後半の中肉中背の男性教諭だ。
これといって特筆すべき特徴のないのが特徴な人である。
「ああ、葉月さんの事だね。それで、君たちは大丈夫だったのかい?」
「ええ、僕たちは何とも――」
「如月さんは? 何ともない? どこか怪我とかしてないよね!?」
担任教師は、怜史君の言葉を遮るように私へと質問してくる。
「え、ええ、私は何ともありませんわ……」
「そ、そうか! 良かったぁ…。いやぁ、焦ったよぉ。橘君が詳しい事言わないから心配したんだよ。ほんと、如月さんが無事で良かった良かった」
担任教師は、さっきの不安げな顔から一変して満面の笑顔へと変わった。
何なの、そのあからさまな態度は……。
教師としてそれはどうなの?
「ご、ご心配をお掛けしました……」
「よし、これで最大の不安は解消されたよ」
そう言いながら担任教師は胸をなでおろす。
「ところで先生、葉月さんの具合は――」
「僕はこれからオリエンテーリングの中止を通知しに行かなきゃいけないから、君たちは夕食まで施設内で自由にしてていいよ。それじゃ、また後程」
担任教師は怜史君の言葉も聞かず、言いたい事だけ言って去っていってしまった。
私たちの担任、あんなのでいいんだろうか……。
完全に自分の保身しか考えてないタイプよあれ。
「あの様子だと、葉月さんは無事なのかな……?」
「そのようですね……」
私と怜史君はどっと疲れが出たように深い溜息を吐いた。
そして、少し沈黙したあと。
「とりあえず、医務室に行ってみようか?」
「そうですわね」
謎の疲労感は置いておいて、とりあえず私たちは医務室へと向かう事にした。
医務室の中に入ると、医師と看護師数名が何やら作業をしていた。
一見すると、これといって忙しそうという雰囲気も無い。
どうやら、慌てていたのは教師たちだけのようだ。
偶々通りかかった看護師に怜史君が汐莉さんの居場所を聞きだすと、奥のベッドで点滴中とのこと。
言われた通りの場所に移動するとベッドに横たわって点滴を受けている汐莉さんと、そのベッドの傍らの椅子に座っている千聖君がいた。
「千聖、どうだい?」
怜史君の声に、ようやく千聖君と汐莉さんが私たちに気が付いた。
「あ、祥子さんと神楽君」
「二人とも、戻ってきたのか」
「うん、さっきね。何だか先生たちが慌ててるんで吃驚したよ。それで、葉月さんの容体は?」
そう言われ、千聖君はチラリと汐莉さんに視線を流した。
「今、検査してもらってるけど、たぶん大丈夫だろうってさ」
「そもそも、この山に毒蛇はいないらしいよ」
そう話す汐莉さんの顔は血色も良く、その笑顔に私たちも安堵する。
「そか、それは良かった。ね、祥子ちゃん」
「ええ、安心しました」
その、私たちの胸をなでおろす様を見て。
「本当にごめんなさい、皆には心配をかけてしまったよね」
笑顔だった汐莉さんは一転して申し訳なさそうにそう言った。
「こういうのはお互い様というのですわ汐莉さん。ひょっとしたら私が噛まれていたかもしれませんし」
「そうそう、その時は僕が祥子ちゃんを抱き抱えて運んでたかもね」
「なっ!? そ、そういう冗談は、やめてくださいっ」
そう言って「ははは」と笑う怜史君。
ぬぅ、ここでも揶揄ってくるのか……。
あれよ、それはイケメンじゃなかったらセクハラだからね。但しイケメンに限るなんだからね。
なんか悔しいので、私は呑気に笑う怜史君にジト目を送った。
「それで、その点滴は?」
「ああ、これは抗生物質だ。菌が入ったかもしれないからって、念のためにな……」
怜史君の質問に、千聖君が色々と答えていく。
しばらく、そんなやり取りが続き。
「さ、もういいだろ。葉月が休まらないから、お前たちはもう部屋に戻れ」
そう言って、千聖君がこの場に幕を引こうとした。
――しかし。
「千聖はどうするんだい?」
「俺は検査結果が出るまで付き添ってるよ」
千聖君のその言葉で、私の気持ちは再び重く沈むことになった。
また、嫌な考えが頭の中をぐるぐると巡る……。
千聖君が付き添う必要はないのに……と。
「千聖君、ここは私が付き添いを……」
私は絞り出すように声を出す。
なんとか、付き添う事をやめてもらうために。
掠れる声を振り絞った……。
「ん? いやしかし…」
渋る千聖君に、私の胸はさらにずきずきと痛みが走った。
その痛みを堪えるように、胸の前で拳を強く握り。
「女同士の方が何かと都合が良いので…」
弱々しくそう言うと。
「…そうか、そうだな。じゃあ、頼めるか?」
千聖君は、ようやくその言葉で納得したようだった。
「はい……」
私はさらに弱く、か細い声でそう返事をした。
いつもお読みいただき、ありがとうございます(/・ω・)/
オリエン編も次で終わる予定です(たぶん)
自分では面白いのかどうかよく分からない所がありますので評価を頂ければ大変参考になります。なので、どうぞよろしくお願いいたします。
それではまた次回にお会い致しましょう(゜д゜)/




