虚弱体質
「失礼」
「あれま、どうしたの。珍しいねぇ。藤沢君はなんだか体調悪そう…………」
「ヒィッ………!」
「あぁん、そんなあからさまな拒絶反応見せるなんて………センセー何かしちゃったかしらぁ…?」
「思いっ切りしただろ」
「思い当たる節が多すぎて…………うふ!まぁ気にしないわ。それでどうしたの?」
「………ヒトヨが新入生歓迎会中に体調が悪くなったらしい。見てやってくれ」
「センセーに対する言動がなってないわねぇ?葛西クン?」
「………………」
「んふふ、わかってくれたなら嬉しい」
医療用のハサミをチラつかせる保険医には近寄りたくない。
葛西を盾にしてちらっと保険医を見てみると、ハサミ特有の金属が擦れる音が響く。
一年の夏前、体育の最中に足を捻って、葛西と皇に両脇を抱えられて保健室に行った。
葛西が扉を引くと、ものすごい速さで何かが飛んできた。
壁を若干凹ませたそれはハサミ。
ついでに俺の肩も掠っている。
扉の向こうで、綺麗なアルカイックスマイルを浮かべる保険医としなやかな肢体を晒しかけている龍垣先生がいた。
3人揃って顔面蒼白。
あの時ばかりは死を覚悟した。
龍垣先生のお陰で事なきを得たが、それから二度と保健室に足を踏み入れることはなかった。
だから俺はここになんて来たくなかったんだ……!
「ん~……最近あまり寝てないわねぇ。ちゃんと寝ないと身長伸びないわよ~」
「なっ………!それ気にしてるんです!」
「葛西君みたいに身長あってそのボサボサ頭どうにかすればいけなくもないと思うのだけどねぇ………あら、番犬ちゃんは許さないみたいね。んふふ……見てて楽しい」
「番犬?ま、まさかここにドーベルマンでも「いないわよ。ワンワンなんていたら龍ちゃんがメロメロになって私の事構ってくれないもの」……さいですか……………」
「向こうのベッドでいいかしら。準備してくるわね」
そう言って仕切りの向こうへと行ってしまった。
視線を感じて葛西を見上げる。
相変わらず無駄にでかいから首が痛い。
「どうした、葛西」
「いや…………お前がこれ以上背が伸びたりしないか心配なんだ」
「ふざけんな殴んぞテメェ」
「ヒトヨはこれくらいがちょうどなんだよ」
そう言って俺を後ろから抱きしめてくる。
度々やられる抱擁は優しい時もあるが、基本骨が軋む。
今回も骨が折れないのが奇跡なくらい強く抱きしめてきた。
空いている窓から春の日差しと穏やかな風が入り込む。
心地よい温かさとそんな陽気に、瞼は自然と重くなる。
「保健室でいちゃいちゃしていいのは私と龍ちゃんだけよ」
「いや、あの、これは、その…………」
背後からいきなり声をかけられて心臓が跳ね上がる。
呆れた顔の保険医に見られていた…………
それが無性に恥ずかしくて顔に熱が集まるのがすぐに分かった。
「ほら、病人はココで大人しく寝てなさいねぇ。私、龍ちゃんにお弁当届けに行かなくちゃいけないからっちょっといなくなっちゃうけど、大丈夫?」
「え、はい…大丈夫………です…」
「ウブ~~~~!!!!ほら、番犬ちゃん、怖い顔してないで一緒に行くわよ」
「あ、おい!」
「病人襲ったらそれこそアンタ極悪人よぉ?それに静かなところじゃないと治るものも治らないわぁ。大人しく寝ててねぇん、藤沢君」
仕切りの向こう側を指さして、葛西の首根っこを掴んで出て行った。
身長約150cmが身長約185cmの野郎を引きずるとは……………案外小さいと力は弱いというわけではないのかもしれない。
俺もあんな風に引きずっていけるかと聞かれるとなんにも言えないが。
大人しくベッドに潜り込む。
ほんのりと体温で温められていく布団の気持ちよさにうとうとしていると、カラカラと保健室の扉を開く音が響いた。
足音は徐々に近づいてくる。
「やっほー、軟弱体質藤沢クーン。今日も元気に貧血起こしてるー?」
「黙っててもらっていいですかね。というかさっさと出てけ」
「やだなー俺は単純に心配してるんだから。好意はありがたく恭しく受け取るもんだよ?藤沢君」
「日和からの好意だけは絶対に何が何でも受け取らない受け入れない」
「断言されちった。あーあ。空しいな」
ベッドを囲んでいたカーテンを開け放ってニヤリと笑うのは、学年も苗字も不明な日和。
名前以外何も知らない。
こうして俺が一人の時にふらりと近寄ってくる、なんか変な奴。
制服を着ているからここの生徒であることは間違いない事だろうけど、名前以外を教えてもらった事は無い。
前にそれとなく問いただした時は綺麗にはぐらかされた。
「一年前まで箱の中で飼われていた割には、言うようになったよね」
「世間知らずから常識に一歩近づいたんだ。マシだろ」
「どーだかねぇ。俺からしてみりゃ、世間知らずどころか無知なガキとしか思えないわ。すまんな!藤沢君」
「謝る位だったら言うな。うっとおしい」
「無知なガキってところには華麗にスルーしたねぇ。おっとなー」
「もう黙って帰れ……………」
日和を相手にすると結果として疲労感が貯まる。
ただただ話しているだけなのに。
ため息を吐くと、日和の手が目を覆う。
じんわりと他人の体温で温められた瞼は、下がっていく。
意識が途切れる瞬間、優しい声色が頭の中で響いた。
「今はとりあえず寝てなよ。現実から目を背けて、夢に浸っているといい。幸せで温かくて生ぬるい夢を見ていて。辛いのは………俺達だけでいい」
全員そろった………!あーうれしい。
ちょっとバックアップでも修正不可能な事態が起こって泣きながらキーボード叩いて漸く投稿できました申し訳ないです……
次の更新は4月上旬になるかと思います。引っ越し作業とかあるんで………
次回はちょっとヒトヨ君お休みです。すやすやしてろ。
謎の小僧日和君ちゃんとしたキーメンとして作ったのですが、容姿に関する事は何一つ言わない予定なので、みなさんご自由に想像してください。
他のキャラは確実に決まっているんですけどね。
名前と性格と立ち位置以外は決めていません。ドンマイ日和君。
あと、先生の身長凄い数字になってて笑いながら修正しました。失礼しました。