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「だーかーらーこっちは俺の縄張りだって言ってんだろうがッ!」
「ちげーって言ってんだろ!?
ここは俺が目を付けてたんだ!!」
いつものルートで見回りをしていると、剣呑な会話が耳に入ってきた。
「知らねーよそんな事!
こっちは苦労してやっと手に入れたんだ!
それなのにいきなりやって来てよこせと言われてホイホイ渡せるわけがねえだろッ」
「おーい、一体なにがあったんだー?」
「あ?うっせぇな、口挟んで……って、クロの旦那じゃねぇか」
見兼ねて声をかけると、そのうち片方。
黄色いトラ柄の大柄な猫が返事をしてきた。
「結構遠くまで響いてたぞ?
あんまり騒いで大事になる前に話聞かせてみろよ」
「あー、すまねぇな。あんまり迷惑はかけたく無かったんだが」
申し訳なさそうに頭を下げるトラ柄の猫の反応に、言い合っていた相手、白地に黒斑の猫が怪訝そうに首を傾げた。
「誰だ?コイツ」
なんの気なしに呟いたそのセリフに、またもトラ柄の方が過剰反応。
「コイツとか誰に向かって言ってんだコラ!
これでもこの地区の長だぞ!?」
「……これでもは余計だ」
もうちょっといい紹介の仕方ないのか?
「え、地区長!?し、失礼しましたぁ!!」
トラ柄の言葉に慌ててかしこまり、頭を下げてくる斑猫。
「あー、そんなにかしこまらなくていいから、話聞かせて」
猫がお座りしつつ地に額を擦り付けんばかりに下げている図は、とてつもなくシュールとしか言いようがない。
ぶっちゃけこういうのツボにハマるんだよ。
必死に笑いを噛み堪えつつ、事のあらましを聞いていった。
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「あー、つまり、君はまだ、この街に来て間も無い訳ね」
「へい。あっしは元々東の方にいたんですが……情けない話、争いに負けちまって。
元いた所を追い出されちまったんですわ。
そんなにいい所って訳でも無かったんですが、そこしかけぇる所がねぇあっしは……」
「そうか、お前も大変だったんだな……」
意外と縄張り争いに負けて移動……と言うのは珍しくない。
大抵、いい食い物が手に入る場所は、大抵誰かの物である事が多い。
誰の物でも無い所は、食い物が手に入らなかったり、危険な動物がいたり……まぁ、それなりの理由があっての事となる。
だから、よほどの理由がない限り、追われたり、新参の者は、大抵どこかの縄張りへ首を突っ込み、奪い取るか、負けてまたさすらうか……のどちらかになる。
そしてひどい時には……。
「その尻尾もその時の?」
半ばから噛み千切られた、普通の半分以下の長さしかない尻尾。
恐らくそれも……。
「ええ、まぁ。
命があっただけでももうけもんですがね」
少してれくさそうに顔を洗う斑猫。
よくみれば、体の至る所に傷跡が見える。
「うむむ……大変だったのはわかるが……それでもここをやる訳にはいかぬし……」
ムムム……と首を傾げるトラ猫。
そりゃそうだ。明け渡せば今度は自分の居場所がなくなる。
「あー、もうだいじょうぶでさぁ。
またどっか、違うシマ探します。
こんだけ真剣に話聞いてくれた人達に向ける爪はありません」
そう言って一度頭を下げると、くるりと振り向き、立ち去ろうとする斑。
「あー、まった」
呼び止められ、怪訝そうに振り向く斑。
「新しい縄張りはやれないんだけどな……、
お前、飼い猫にならないか?」