私は、ローザに会いました。
次に気がつくとそこはホールで、セチーリアは馴染みの友人との会話に花を咲かせていた。
「——そうなのよ、ライオネルったらまた劇場に出かけるようになっちゃって」
「……それは、大変ね。ご家族は何て」
戸惑いながら言葉を繋ぐ。
「それが、お父様ったらもうカンカンで。二人のことは二人でどうにかするって言ってるのに」
「あら、あんなに素敵な紳士も怒ることがあるのね」
ローザ=ヴィルヴェッチェリ。
彼女の家は国内の防衛を一手に担う侯爵家だ。
幼い頃にヴィルヴェッチェリ侯爵家で後見教育を受けた時分に知り合った、セチーリアの数少ない友人——いや、少し背伸びし過ぎた。
唯一の、友人だ。
腕を組んで頬を膨らませるローザのドレスはその名前の通りの赤色で、蕾のように首筋で切り揃えられた髪も小さい頃から褪せる事のない赤毛だ。実はセチーリアの愛読書に出てくる赤毛の主人公は想像の中では彼女の姿をしていたりする。
辺りを見渡すと、セチーリアの記憶よりも随分時間が経っているようでまさに宴もたけなわ、といった風だ。客も、料理の品数もだいぶ減っている。
どうやってここまで来たのだったか。
「ねえ」
気付くと目の前にローザの瞳があった。その名に恥じない情熱的な色。「え」
「貴女大丈夫?さっきから様子がおかしいわよ。話の相槌が上手くて……いつもの貴女じゃないみたい」
「……それなら、少し休んでこようかしら」
つい先程までの自分の行動がわからないのだ。様子がおかしいのは確かだろう。
そう思って、彼女の言う通り、公爵家の使用人に話しかけ裏に通してもらう。
聞くところによるとセチーリアの居室は既に準備されていて、今回もそこに通されるらしい。
体調が改善する、しないに関わらず、今日からセチーリアはそこで過ごすことになる。
使用人に案内されながら歩く公爵家の廊下は流石に豪華だった。
壁一面は大理石は縁取りに蔦模様が彫られ、天井には女神とそれを祝福する天使達が描かれている。彼らの土を踏んだこともないような柔らかな足やふくふくとした頬は市井で見た赤ん坊そのものだ。
その先にも聖書についての絵画が続いている。
左手の壁には等間隔に先の尖った形のガラス窓が張られていて、そのいくつかには色がついている。
その奥に夜の中庭がぼんやりと見えた。天井とは対照的に絨毯すらひかれない床が冷たい月の光を反射していた。




