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4 懐かしい呼び名

その電話があったのは、連休明けの火曜日夜9時半頃、会社からの帰宅途中だった。

最初の着信は電車の中にいて出られなかったが、名前が表示されなかったから間違い電話だろうと思っていた。

それから30分位、家路を歩いていたときもう一度スマホが震えた。多分同じ番号だ。僕はおそるおそる電話に出てみた。

「はい…」

僕の名前を呼んだのは女性の声だった。電話の向こうも手探りのような話しぶりで、どうやら営業の電話ではなさそうだったが、その声に聞き覚えはなかった。

「そう…ですが」

「ちー?」

知らない相手から懐かしい呼び名を聞くのは妙なものだ。僕は混乱していた。

「えっ?それって」

「ハヅキです、覚えてる?」

ハヅキという名前は一人しか思い浮かばなかったが、その声にはまだ確信がもてなかった。

「もしかして、はーちゃん。で合ってる?」

「よかったぁ!ちーちゃん見っけ!元気?」

急に緊張の解けた明るい声が聞こえた。

「元気だよ。はーちゃんこそ」

「元気、元気。そんなことよりちーのお母さんに聞いたけど、今東京に住んでるんだって?ねぇ、久しぶりに会わない?」

相変わらずハヅキの用件はストレートだった。なるほど、実家に電話をしたということか。

「いいけど、俺、海外赴任が決まっててさ。来週からベトナムなんだよ。だからもう一週間もなくて。」

「まじか。お母さん言ってなかったのになぁ。」

「いきなり電話かけてきた相手に息子の転勤の話とかする親いないんじゃない?」

このご時世に携帯番号を聞き出しただけでも大したものだ。それより我が家のセキュリティは大丈夫か?


それは置いておいて、とにかくこのチャンスを逃すわけにはいかない。

「でも良かった。こっちも日本にいるうちにはーちゃんに会わなきゃと思ってたんだ。今週は予定が詰まってて木金はダメなんだけど、明日の夜ならなんとか調整できると思うよ」

「私も一応予定あるけどリスケするね。じゃあ決まりだ。」

ハヅキの決断はいつも早い。そこも昔のままだった。

「さっき言ってたけど、ちーも私に会おうとしてたの?」

「大したことじゃないんだけど、ちょっと聞きたいことがあって。明日話すよ。」

明日の夜8時に待ち合わせの約束をして電話を切った。

明日の朝、目が覚めたら夢オチってことにならないか。それともまた僕だけの幽霊が現れたのだろうか。

ハヅキからの着信履歴、それだけが僕にとって確かな証拠だった。


(続く)

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