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つくられた密室(後編)

 そろそろ堪忍袋の緒が切れる頃だと思っていたが、案の定だ。会って数分しか経っていないのに、森は宏士を追い詰めようとしていた。

「ぼ、ぼ、僕が家内を殺したと言うのですか⁉」と宏士は分かり易く動揺した。

「はい。現場を一目、見た時から犯人は母屋にいる人間だということは分かっていました」

「そんな馬鹿な⁉」

「ここには、あなたしかいないようです。ということは、あなたが犯人だということになります」

「何故、屋敷にいる人間が犯人なのですか?」

「奥さんは母屋で殺されたからです。犯人は奥さんを殺害した後、奥さんを抱えて小屋に向かった。先日、夕方にぱらぱら雨が降りましたよね。昨日の雨で地面が柔らかくなっていたのでしょう。庭にいくつか足跡が残っていました。足跡を比べると、母屋から小屋に向かう足跡は、母屋から屋敷に向かう足跡より、はっきりと残っているのです。あれは、母屋から重たいものを抱えて庭を歩いたから、足跡がくっきり残ったのです」

「足跡⁉ 別に家内でなくても、重たいものを抱えて庭を歩けば、足跡はくっきり残るでしょう。それは、きっと・・・ああ、確か・・・昨日、小屋にセメント袋を運んだと思います」

「夜中にですか?」

「はい。また少し、部屋を改修しようと思って、昼間、買っておいたものです」

「そうですか。では入り口の血痕は?」

「血痕?」

「犯人は奥さんに遺体を抱えて、小屋に入った時、抱えていた奥さんの頭を入り口の柱にぶつけてしまった。ドアを開けて中に入る時、うっかりぶつけてしまったのでしょう。奥さんが頭をぶつけるには低い位置です。誰かが奥さんの遺体を抱えていたからです。今、鑑識が血痕を採取しています。直ぐに、奥さんのものであることが分るはずです」

「・・・」宏士が沈黙する。

「それに部屋のゲーム機やテレビの電源が入っていませんでした。自殺するつもりだったのなら、ともかく、何をしに部屋に行ったのでしょうね? ゲームをするつもりで小屋に行ったのなら、普通、真っ先に電源を入れませんか?」

 そうなのだ。宏士の犯行であることは明らかだった。

「ま、待て、待て。部屋は密室だった。俺に家内を殺すことなんて出来ない。そうだろう?」

「あの小屋は、あなたが奥さんを殺害する為に造ったものです。ゲーム・マニアなのは、あなたでゲーム部屋が欲しいとでも言って、庭に造ったのでしょう。ということは、密室になるように細工がしてある。そう考えて間違いないでしょう。どうです? 小屋に行ってみましょう。密室の謎を解いて見せますよ」と言って、森が胸を張った。

 宏士を連れて小屋に向かった。

「密室の謎を解くヒントは、ゲーム部屋を見ていても分からないでしょう。隣の物置にあります」と森は物置に向かった。

 小屋は廊下を底辺とすると、上に二つ並んでいる形だ。小屋を建て、先ず、廊下と部屋の二つに分け、更に部屋を二つにしたのだ。

 外壁は断熱、防音措置が施してあるようだが、部屋の仕切りの壁は板壁だ。

 物置に足を踏み入れた森は、ぐるりと周囲を見回した。入って正面の外壁に窓がある。部屋の中央に作業台だろう。木製のテーブルがあった。板壁沿いにクローゼットが置いてあり、反対側の外壁は下半分が棚になっており、上半分が有孔ボードになっていて、趣味の工具が整然と掛けられていた。

 几帳面な性格のようだ。

「素晴らしいものですね~おやおや」と森は言うと、床に這いつくらんばかりにかがみ込んだ。顔を床、すれすれに近づけ、人差し指で床をなぞった。

 広い部屋ではない。宏士と石川は廊下で森の様子を窺っているしかなかった。

「なるほど~分かりました」と言うと、森はぴょんと立ち上がって言った。「床の埃を見ると、ほら、この壁沿いのクローゼットを動かした跡があります。もともとは、もっとドアに近い場所にあったのでしょう。石川さん、隣の部屋に行って、このクローゼットの位置の板壁を押してみてください。今、クローゼットを動かします」

「分かりました」と石川は隣のゲーム部屋に向かった。

 森がクローゼットを入り口側に動かす。

「結構です。壁を押してみてください」

「はい。押しま~す。うん! ダメか。もう一度、ふん!」

 石川が力を込めると、板壁がそのまま、ずりと物置側に動いた。そして、人が通り抜けることが出来るくらいのすき間が出来た。

「板壁にしたのは、隙間があっても不自然ではないように見せかけるためだったのですね。ここまでして、小屋まで建てて、奥さんを亡き者にしたかったのですか!」

 森の言葉に、「ちくしょう!」と宏士は呻くと、ぺたりとその場に座り込んだ。



 遺体の検死が行われた。

 綾はタオルではなく、両手で首を絞められたことによる窒息死であることが分かった。首に指の跡が残っており、手のサイズから宏士の犯行であることが裏付けられた。

 綾の父親は男手ひとつで綾を育てつつ、会社を経営し、資産を築いていた。その財産を綾は全て引き継いだ。

 宏士は財産目当てで綾と結婚した。仕事もせずに、綾の遺産を食い潰しながら、生きていた。それなのに、外に愛人までつくっていた。綾が宏士の浮気を疑い始め、離婚をほのめかした。そこで、財産を横領する為に、綾を事故に見せかけて殺害したのだ。

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