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Legend of kiss5 〜森の王子編〜  作者: 明智 倫礼
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Last resort

 どこまでも続く青空。

 足元には、どこまでも広がる白い雲。

 そこから、不思議なことに、美しい花や木々が絶妙な配置で生ける中庭。

 

 ここは、神世のスメーラ神殿。


 スメーラはいつも通りの朝を迎え、ガラスのような素材でできた、書斎机の椅子へ腰掛けた。羽根ペンを取り、書類に目を通そうとすると、壁も何もないのに、ドアだけが立っている、それがノックされた。


「はい?」


 優しく凛とした声が、穏やかな空間に舞った。水色の長い髪の女が顔をのぞかせ、


「おはようございます、スメーラ様」

「おはようございます。どうしたんですか? 悠《ゆう》さん」

「今、お時間よろしいでしょうか?」


 スメーラは手に持っていた資料から手を離し、にっこり微笑んだ。


「えぇ、構いませんよ」


 悠は資料を持って、上司の書斎机の前に立った。


「ルシア シンダールの能力のことなんですが……」

「えぇ」

「こちらにしようかと思います」


 悠はそう言って、持っていた資料をスメーラへ差し出した。優しさの満ち溢れた瞳で、その資料を眺め、


(そうですね……?

 これだと……勝利するという可能性は、76.56%ですね。

 少し低いかもしれませんね)


 太陽がどこにもないのに、明るいという不思議な空を見上げて、


(ですが……あの者の物の考え方……直感……。

 五千年前のこと……それを考慮すると……。

 86.67%に変わります。

 しかし、やはり低いですね。

 時間軸がずれる可能性は65.6%

 これでは、五千年前と同じことが起きるかも知れませんね。

 全てのことを考えると……)


 森の世界は、メインの王子が魔法を使うため、空間や時間を勝手に変えてしまうことが起きる可能性大。他の世界と違って、ゴールの時間が長くなる可能性が出てくる。攻撃を他の世界へ集中させて、その隙に無事に時を進ませるという作戦が、取れなくなってくる。


 だが、スメーラは神であり、悠の上司でもある。全ての人の心の成長を考えて、行動しなければならない。そのため、スメーラは悠をじっと見つめ返して、


「これで構いませんよ」

(あの者の認識を変えるには、こちらの方法が一番合理的かも知れません)


「わかりました」


 悠は頭を丁寧に下げて、部屋から出ていった。スメーラはふと立ち上がり、空を見上げ、遠いラピスラズリが存在する宇宙ーー敵へと神経を傾けた。


「これで、六度目です。フレナスは何度同じ繰り返しをすれば、気がすむのでしょう。今回のことによって、魂が大きく揺さぶられ、ルシア シンダールは順番を破って、最初の記憶ーー1st《ファースト》 change《チェンジ》を、取り戻してしまうかも知れません。ですが、そちらで力が本来のものに戻るかもしれませんね」


 スメーラは優しく微笑んで、ドアへ振り返り、


「そろそろ、転生し始める者が出ますから、謁見の間へ行きましょうか。まずは、パル プレインからですね」


 きりっとした瞳に変わり、スメーラは執務室を出て行った。


 

 スメーラ神殿の別の庭で、細身の剣を鮮やかにひらめかせている、紫髮の人がいた。月のような透き通った綺麗な肌、髪は綺麗にブラッシングされ、剣を振るう度、サラサラの髪が美しく舞う。


 すらっとした体躯で、女性的。人ではない、どこか神秘的なものを感じさせる。左下から右上へ剣をビュッと引き上げると、


「ーーあぁ、こちらにいたんですか」


 女の声がかかって、紫髪の人ーーレイト ザキレイは剣を慣れた手つきで、鞘《さや》へしまった。そして、野太いなよっとした感じで、


「ちょっと〜、遅いじゃな〜い。もう、あたし、転生する順番来るんだけど〜」

(ヒュー、カータ、あたしの順なんだから〜)


 水色の髪の女ーー悠がにっこり微笑みながら、


「レイトは関係ないです。いつでも、出入り自由ですから」


 他の人とは違う点を挙げられたが、レイトは少し冷たい視線をやって、


「あんた、あたしの肉体だけ作って、中身空っぽにする気ぃ〜?」

(魂は入れないってことじゃな〜い、それって) 


 悠は真面目な顔で、


「話は変わります」

(要件があってきたんです)


 急展開の会話を、レイトは絶妙に拾った。


「あんた、意外と強引ね」

(しっかりしてるわね)


「レイトの転生まで時間がありませんから」


 さっき関係ないといっていたのに、魂をしっかり入れて転生させる気の悠。レイトはあきれ顔で、


「あんた、ルーちゃんに似てるわね、どことなく」

(思考回路、ちょっと壊れてるんじゃない?)


 レイトはため息をついて、長い髪を耳にかけた。


「でぇ〜、結局どうするの?」


「何もしないと、未来の可能性はこうなります」

(ルシア シンダールの行動を全て予測した結果です)


 悠が言うと、紙の山がうず高く積まれた状態が突如、ふたりの間に現れた。てっぺんが見えないどころから、空を突き抜けそうな資料の山。


 レイトはそれを見上げて、ため息をつき、


「立派な塔ができたわね。ルーちゃんのミラクル未来って名前の塔が〜」

(ルーちゃん相変わらず、めちゃくちゃだわね、思考回路が。

 予測ができないってことね、これって。

 でも、森の世界じゃ、あたしがルーちゃんのサポート役だから、仕方がないわね。

 精霊族を守護できるのは、人族《ひとぞく》じゃできないものね)


 視線を下ろして、悠の顔をじっと見つめた。


「っていうか、これ、全部あたしに拾えっていうんじゃないでしょうねぇ?」

(あたし、他の人よりもやること、ひとつ多いのよ。

 それ、ちゃんと考慮してる?)


 レイトの心の声に応えるように、悠は打開策を提示。


「ですので、ルシア シンダールの過去世の記憶を消すことにしました」

(こちらで、だいぶ未来の数は減ります)


「そう。で、どうなるのよ? この立派な塔は」


 レイトはルシアの未来という名の塔に手をかけた。すると、すっと縮んだが、190cmの背があるレイトの、二倍ぐらいはまだあった。


「それでも、これくらいあるの〜?」

(ルーちゃん、本当に予測不可能よね〜)


 レイトは一旦納得しかけたが、何かに気づいて、素早くツッコミ。


「って、それって、ルーちゃん、魔法も忘れてるってことじゃな〜い」

(どうすんのよ?

 精霊族の王子なのに、魔法使えないって。

 政治に大きな影響与えるじゃな〜い)


「そこは、すぐ思い出します」

「そう……」


 一旦納得しかけて、レイトはまた素早くツッコミ。


「って、ちょっと待ってよ。東の森を出るってことじゃないの? それって」

(精霊族の決まりも、全部消え去ってるってことよね)


「はい」


 反論もせず、修正もせず、問題を肯定してきた悠に、レイトが両腕を下に降ろして、突っ張った感じにし、


「『はい』じゃないわよ! あたしが魔法をずっと使わなくちゃいけないってことじゃないの〜。その間、狙われたらどうすんのよ?」

(フレナスにバレたら、あんた、それこそ、世界崩壊しちゃうじゃないの。

 それから、守るには、あたしの魔法が必要ってことでしょ?

 そこに、あの男が攻撃してきたら、あたし一人じゃ防ぎきれないわよ。

 あんた、あたしを殺す気ぃ?)


 悠は穏やかな笑みで、こんな言葉を口にした。


「大丈夫です。レイトは死にませんから」

(そこは、きちんと計算してます)


 レイトは軽く腕組みして、言い返す。


「あんた、あたしの過去を、その笑顔で、よく利用するわね〜」 

(肝が座ってるわね、あんた)


「はい」

(おそらく、序盤は狙ってきません。サンドル ガルディーたちは)


 平然とうなずき返してきた悠を前にして、レイトは小言を言うのをやめ、真面目な顔で、


「ルーちゃんとこが、あの女と一番関係してるのよ。それはどうすんのよ?」

(記憶がないってことは、王子の仕事するわよ、きっと。

 そしたら、使命のひとつが果たせないじゃな〜い。

 オリヴィーンの血族の、ルーちゃんが解決しないと、戦いに負けちゃうでしょ?)


「そちらは、大丈夫です」

(あの者は、できます)


 レイトは長年の付き合いがあるルシアの特徴を思い出して、


「それって、国民全員、殺すってこと?」

(ルーちゃんするわよ、それ。

 自分に対しても、悪に対しても異常なほど厳格だから〜)


「それもあるかもしれませんね」


 悠はにっこり微笑んで、大きくうなずいた。レイトは神をまじまじと見つめて、


「あんた、母性がずいぶんあるわね」

(ルーちゃんのこと、何でも包み込みそうな勢いね)


 戦術の説明がひと段落したところで、レイトはうず高く積まれた未来の可能性を見上げて、


「でも……」


 アメティス王子のアッシュグレイの瞳が不意に陰った。


「……でも、それでいいのかもしれないわね、ルーちゃんには」

(悔やんでたものね、五千年前のこと。

 思い出さない方が、幸せよね、きっと……)


「はい……」


 悠はどこかぼんやりとした瞳で、返事を返し、もうひとつ、


「それから、出来るだけ、こちらの世界にいるようにしますから」

(政治関連は、あっという間に解決する可能性が高いです。

 ですから、真実の愛をはぐくみの方が重要になると思います)


 レイトはラピスラズリのある決まり事を思い出して、悲しげにため息をついた。


「そうね、あっちじゃ難しいものね」

(精霊族と人魚族って……あの関係だものね)


「そういうことです」

(恋愛に発展したのが不思議なくらいです)


 レイトは小言も言わず、寂しげな顔を空へやった。


「あたしの……せいよね、それって……」

(あたしが……間違えなかったら、こうならかったのよ、きっと)


「3dr change《サードチェンジ》と1st rewind《ファーストリウィンド》のことですか?」

(ふたつ前と、三つ前のことですよね? レイトが気にしているのは……)


 神に図星を指されて、レイトは言葉をなくした。


「…………」

(あんたは知ってるのよね、全部……)


 悠は優しげに微笑んで、


「後悔ですか?」

(意味があったんだと思いますけど……)


「さぁ、どうかしらねぇ〜?」


 レイトは気の無い返事をし、サラサラの髪を耳にかけた。アッシュグレーの瞳の奥を悠はのぞき込んで、神の余裕で少しだけ微笑み、レイトは素知らぬふりで、頬で神の視線を受け止めた。


「…………」

「…………」


 悠とレイトの間に、穏やかな風が吹き抜けていった。しばしの間、沈黙が広がる。レイトは生きている条件が、他の人とかなり違うため、記憶がみんなよりも、いくつも前まで残っている。 


 レイトは気を取り直して、庭の植え込みに視線をそらし、


「夢は見せるの?」

(五千年前の記憶は見るの?

 あの場面、見せるの?)


「そちらはまだ調整中です」

(まだ、しばらくあとのことですから……)


 来たる戦いまでは、まだ三十年近くある。調整はギリギリまで行われる。転生した人たちが選択肢を選ぶたびに、未来は変わってしまう。そうなると、全体の調整を、いちいちしないといけないことに。


 レイトは剣の柄に手をかけ、


「あたしは見せない方がいいと思うけど……」 

(精神壊すわよ、きっと……) 


 そして、悠とレイトの言葉はまた途切れた。


「…………」

(あの者が原因ではないんですが……)


「…………」

(ルーちゃんのせいじゃないのに……)


 ふんわり天使のルシアの笑顔が蘇って、あの純粋無垢な瞳の持ち主に、課せられた五千年前の運命を思い返すと、しばらく沈黙が続いてしまった。


 悠が先に我に返って、持っていた資料をレイトへ見せ、


「あと、こちらをしてください」

「まだ、あんの〜?」


 レイトのアッシュグレイの瞳に映った文字を見て、悠に射殺すような視線をやった。


「あんた、あたしに何させる気ぃ? 何なのよ、このオプションは」


「そばにいた方が何かといいですよ」

(いつ、計画変更してくるわかりませんから、ルシア シンダールは)


 あまりの内容に、レイトはあきれ顔。


「あたし、そんな歳じゃ、もうないんだけど〜」

(旧石器時代ぐらい前の話じゃない、これって

 それくらい、古いポジションなんだけどぉ〜)


 そこへ、悠の強引な言葉が、


「これは戦術のひとつなので、お願いします」

(レイトに拒否権はありません。

 全ての世界で、調整済みです)


 レイトは珍しく顔をしかめて、


「あたし、あの魔法使いたくないんだけど……」

(すごい罪悪感が出るから、かけたくないのよ)


 悠はにっこり微笑みながら、こんな提案をした。


「ヒュー ウィンクラー経由で、理事長へ申し出れば、問題ないと思います」


 レイトはいぶかしげな視線を悠へやって、


「ヒュー ウィンクラー? あたしの言うこと聞かないわよ〜、接点が全然ないんだから」

(あんた、あたしが一番興味のない王子持ってきたじゃない?

 それじゃ、動かないわよ、あたしは)


 悠は腕時計へ目をやって、


「そうですね……? あと、十年後には、あちらからの攻撃が、彼の者に向かってきます」


 レイトの瞳が急に真剣さを増した。神経を研ぎ澄ませ、高い霊力を使って、未来を見て、


「……そう、そういうこと。それを利用しろってこと?」

(ヒュー ウィンクラー、狙われるのね。

 そして、心を閉ざす。

 航空機事故の真相を探すことになる。

 そうなると……それを使えば、動くってことね)


 そこまで、考えて、目の前でにこにこしている悠に、レイトはため息まじりで、


「あんた、怖いわね、本当に」

(人の弱みにどんどんつけこんできて〜)


 悠は晴れやかな顔で、


「ありがとうございます」

「褒めてないわよ」


 とりあえず、一言突っ込んで、レイトは、


「理事長って、関係してんの?」

「してます。葛見 雅也で、別枠で転生しています。ちなみに、クラスメイトの前原 瞳もです」


 レイトのアッシュグレイの瞳は一瞬閉じられ、前世が誰なのかわかって、ため息をついた。


「それって、あっちの親子でしょ?」

(いたわよね、そういう人間)


「そうです」


 短くうなずいた悠の前で、レイトははるか彼方《かなた》、ラピスラズリへ想いを馳せた。


「手広くやってるわね、スメーラ神って」 


 ここで、悠からある人たちの名前が。


「そこには、セリル グェンリードとユーリ ソフィアンスキー もいますよ」

(これで、レイトは動きますね)


 レイトはその場で悶え苦しんだ。


「いや〜ん、セリルちゃんとユーリちゃんいるの〜♡ じゃあ、それやる〜」

(ふたりとも、ゲットしちゃう〜♡)


 オプションを納得させたところで、悠は注意点を上げ、


「それから、ルシア シンダールは、地球では魔法は使えませんが、途中から、レイトを見て、話はできるようになると思います」

(精霊族は使えません)


 レイトはすっと真顔に戻って、


「あたしは、肉体があっても使えるってこと?」

(あんた、わざわざそんなこと言うなんて、そう言うことよね?

 結構、策略的ね)


 悠はにっこり微笑んで、


「多少、誤差は生じるかもしれないですが……」

(おそらく生じます、レイトは初めてですから)


 不確定要素を突きつけてきた神に向かって、レイトは目を細めて、 


「思いっきり嫌な予感のすること言ってくれるじゃな〜い?」

(初心者にも優しくしなさいよ、あんた)


「はい、思いっきり嫌な予感です」

(レイトの経験になります)


 どこまでもにっこりしている悠。レイトは空を見上げて、


「あたしの言葉失わせて、どうすんのよ?」

(よくも、チェックメイトしてくれたわね、このあたしを)


 悠は腕時計を見て、


「そろそろ、転生の時間です。行ってください」

(戦いが始まるまで、二十五年と一ヶ月です)


 レイトはどこまでも晴れ渡る空を一旦見て、再び悠へ、あきれた顔を向けた。


「あんた、時間まで計ってたでしょ?」

(それも、全部計算済みで、やってたでしょ? 今までの会話)


 悠は動じることなく、にっこりと、


「行ってください」

(小言は聞きません)


 テコでも動かない神を前にして、アメティス王子は観念した。


「わかったわよ、行ってくるわよ」

(まったく、人使い荒いんだから〜)


 レイトはその場から、姿をすっと消した。



 悠はスメーラ神殿へ戻った。長い廊下を歩いて行くと、札のかかった部屋の前へたどり着いた。


『フレナス対策室』


 ドアを開けると、中には五人の女がそれぞれの席に座って、PCのモニター画面をじっと見つめていた。悠は慣れた感じで、


「お疲れ様です」

「お疲れ様です」


 五人は顔を上げて、悠に返してきた。悠は自分の席、右奥の真ん中へ向かって、歩いていき、持っていた資料を机の上に置いた。自分の右隣に座っていた、太陽の世界担当の、覚師《かくし》が妖艶な笑みで、


「どうでしたか?」

「こちらでいいそうです」

「そうですか」


「そちらはどうですか? もう、パル プレインは転生しましたよね?」

(太陽の世界は動き始めましたよね?)


「えぇ、あの者は過去世の記憶が残っているので、そこまで危惧することではないです」

(精霊族ですから、それに、地球でも魔法が使えるようになると思いますし……)


 ルシアの予測不可能な未来と同じチームの人の意見を聞いて、


「そちらの方が良かったのかしら……?」

(ルシアの過去世の記憶を残して、別の方法で進めた方が良かった?)


 真向かいの席に座っていた、炎の世界担当の枢《すう》が笑顔で元気良く、


「もう、決定でーす! ラリホー!!」

(変えられないことを、考えても仕方がないです!)


 その左隣から、淡い黄色の髪をした、水の世界担当の秋《あき》の大暴投が。


「どこがですか?」

(そんなところありましたっけ?)


 悠の左隣、月の世界の担当、改《かい》が絶妙に拾って、


「空にです」

(『欠点』ではないです。『決定」です。

 どこへ投げてもいいですよ、手が少し空いたので、お相手します)


 全然違うことをわざと言って、それにもれずに引っかかり、大暴投神、秋は、


「誰と誰がですか?」

(似てる……ですか?

 違う話をしてた気がしますが……)


 大暴投と誘発発言が繰り返されている入口に近い席に座っているふたりを放置して、他の四人は少し微笑みながら、仕事を進めていた。キーボードもマウスもない、PCのモニターを見つめて、転生の順番を、改は確認するしているふりをしながら、さらに誘発発言。


「アイシス ソフィアンスキー がそろそろ転生するんですね」

(『空似』ではないです。『空に』です。

 次はどちらへ投げますか?)


 秋はPCから視線を外したまま、不思議そうな顔で、


「それが今日のお弁当ですか?」

(足りるんですか? それだけで……)


「アイスではありません。転生の確認です」

(ここら辺で終わりにしないと、大きなことが起こるみたいですよ)


 ボケと誘発を、ここで改が強制終了した。


「あぁ、そうでした。仕事がーー!!」

(た、大変です!)


 秋はあるデータを見つけて、椅子からパッと立ち上がり、それを後ろへバターンを倒した。いつも通り慌てている彼女を前にして、他の五人はおかしくて微笑んだ。だが、対する秋は真っ青な顔をして、震える声で、


「み、みなさんに、共有します」

(すべての世界で、起きてしまいました)


 他の五人の画面上が、ぱっと切り替わり、


『フレナスの先制攻撃、Redelightz《リディライツ》家の滅亡、ヒュー ウィンクラー/八神 光の精神的ダメージ、その後の後遺症』


 机の上に乗せていた資料を、秋は大慌ててつかみ、ドアからぴゅっと飛び出していった。


「えぇっ!? 私もこれは初耳です!」


 向かいの席に座っていた、枢が少し驚いた顔をした。彼女の右隣に座っていた、雪の世界担当、惺《せい》は別に驚いた様子もなく、


「そうですか? ある程度予測できたと思いますけど……」

(秋さんは気づいてなかったんですね)


 口の横に手を添えて、大きな声で叫ぶような仕草をして、枢は、


「心臓ドキュンでーす!」

(びっくりして、私も思わず、椅子を倒しそうになりました。

 というのは、大げさな話ですが……うふふ)


 視線と思考でつながっているPCのモニターを見つめながら、改が片肘をデスクの上へつき、


「もしかして、太陽の世界への総攻撃も知らないんですか?」

(そっちの方が、可能性低いから、知らないんじゃない?)


 枢は手のひらで鼻をすする仕草を粋にして、


「それはガッテン承知でーす!」

(そこに攻撃を集中させて、一気に他を解決ですよね?)


 覚師は色っぽく微笑み、


「枢さんはどんな時でも、明るいですね」

(元気一杯って感じだわね)


「それが私の長所なんで、それなくしたら、私じゃなくなっちゃいます!」


 ここで、みんなが声を出して、笑い合った。それを遠くに聞きながら、悠は来《きた》る、運命の日のデータを見つめていた。


(やはり、ここは……五千年前と同じ……)


 異変を感じ取った右隣の覚師が、


「悠さん、それでも意味があるのだと思いますよ。危険だったら、スメーラ様はお止めしてると思います。何か考えがおありなのだと思います」

「そうですね……」


 悠は画面をぼんやり見つめたままだった。今度は左側の改から、余裕の様子で、


「それを乗り越えなかったら、ルシア シンダールは、いつまでたっても前に進めないですよ」


 悠を励まそうと、最初は元気に言っていた枢は途中から、何か思い出して、言葉が失速した。


「大丈夫ですよ、リエラ カリアントは……月の属性なんですから……」


 妙な間が空き、みんな同時に、


「1st《ファースト》 rewind《リウィンド》……」


 人よりも長い年月を生きている彼女たち。当然、人が知らないはるか昔のことを知っている。ある時期の大きな出来事を、共通の名でつぶやいて、スメーラの部下たちはしばらく何も話さなかった。

 彼女たちの心とは裏腹に、綺麗で穏やかな光が窓から降り注いでいた。

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