33.思わぬ休養
明け方、嫌な連中たちにトーチカを取り囲まれる。
火が有るのが怖いのか、
そこまで接近してこないが
時間の問題だろう。
夜の暗いうちから
彼らはゆっくりと近づいて来ていたのだろう。
彼らは犬と言うよりも、狼に近いが、
密林を駆けるためか、
そこまで大型ではない。
変わりに丈夫そうな太い足を持っている。
特に唸ったり吠えたりしないが、
焚き火の光が反射して、キラリと光る目を
此方に向けている。
彼女に警戒を知らせるために、
トーチカの入り口の壁を大きく一回叩く。
それに彼女は反応して起き上がり、
すぐに武器を手にする。
その音に狼似のモンスターたちも動き始める。
コボルトの服のまま、トーチカ入り口に来た彼女に、
麻痺薬の入ったボトルを渡すと、
それを理解した彼女が麻痺薬を鞘に補充する。
その補充を待ち、立ち上がると、
彼女もトーチカから出る。
武器とブーツ以外はいつもの装備が無い。
多少心配だが、
防御よりも、先制攻撃や回避、カウンター主体の彼女の戦闘スタイルなら、
問題無いだろう。
更にスカートの裾を素早く手で割き、
動きやすくしていた。
一応は彼女も準備が整ったようだ。
自分も昨日の爆発で手の先の分のバクテリアを失ったが、
一晩過ごしている間に快復したので、問題無い。
相手を見る。
数は15頭弱か?
距離は詰めて来るが、
大きく突出してくる者はいない。
昨日の猿のモンスターもそうだが、
集団を組む連中は、
その数を武器に、ゆっくりと此方を
追い詰めて来るのがやりづらい。
彼女に目配せすると、
彼女の視線がチラリと一所を見た後に俺の方に飛んでくる。
彼女の見ていた視線の先には、輪の少し後方に他者よりも大きく
少し色の薄い毛並の狼がいた。
どうやら群の頭を叩く考えらしい。
それに頷き、取られては不味い袋を
トーチカの中に投げ込んで土でトーチカの蓋をする。
その間に彼女が先に走り出す。
まっすぐに敵のボスの方へと向かう。
敵のボスは「バゥ」と一声吠えて身構える。
回りの狼たちは、ボスの指令なのか、
次々と彼女に飛びかかる。
前方の狼は彼女自身が切り捨てる。
サイドから襲ってくる狼を、
後から追いかける自分に任せて、
彼女は一直にボス狼の方へと走る。
かなりの速度で走るので、
途中から流石に彼女に離され始める。
それを後ろ目に確認した彼女がペースを落とす。
襲いかかってくる狼を4匹ほど
仕留めた辺りで、狼のボスが大きく遠吠えをかける。
「オウゥゥゥゥゥウーーーーーーン」
それに二人で警戒しその場で止まるが、
どうやら、撤退の合図だったらしい。
狼達が、逃げ帰って行く。
取り逃がしたのは痛いが、
これならすぐにまた襲って来ることも無いだろう。
麻痺して逃げられない者と、
自分の強打で口からアブクを出して倒れている者に
止めを指す。
麻痺していた者はともかく、
他の者は食べられるのでは無いか??
少なくとも毛皮は使える。
温暖な密林の狼だからから
毛はあまり長くないのが少し残念だ。
彼女がトーチカに入って着替えるようなので、
その間に、麻痺していなかった二匹を解体する。
こちらは食用目的でもあるので、血抜きを進める。
麻痺したもう2匹は毛皮だけ取ることにする。
先の二匹を血抜きしている最中で、
彼女がトーチカから出てきた。
手伝ってくれると言う事なので、
麻痺した二匹の、毛皮取りをお願いする。
作業を進めながら確認したが、
どうやらこの狼からは石は取れないようだ。
強力なモンスターほど、石を持っているような気がする。
チラッと彼女を確認すると、
彼女もハラワタの中の一つの臓器を裂いていた。
どうやら自分と同じ石を探しているのだろう。
試しに石を一つ見せて見ると、
ハッと表情を変えて、こちらに頷いた。
確かに、マイホームを出てから、
モンスターを多く切り捨てては来たが、
解体する時間は無かった。
この石を彼女も集めたいると言うなら、
機会が有る時は、石を一緒に集めよう。
少し時間が過ぎ、
狼の解体が一段落ついた。
そこからサイズのほどよい肉を取り、
まだ少し血の滲む肉を良く焼き始める。
全体的に締まった肉で脂身も少ない、、、
油を多目に使って誤魔化したが、
食べて見ると、やはり微妙だった。
彼女も同じ感想のようで、
今回はお互い我慢して食べた。
ほどなく、狼の肉の保存食化は断念する。
だが、毛皮だけはどうにか手に入れたい。
毛皮を洗うために、川の方へと行くと、
彼女も付いてくる。
そこで毛皮を綺麗な水で洗い始めた時、
彼女の顔が硬直する。
、、、
あっ!
綺麗な水とは、自分の手を茶色い川に突っ込んで汲み上げ、
それをそのまま腕でろ過した物を毛皮にかけたのだ。
その一部始終を彼女が見て、硬直した、、、。
やっちまったぁ~、、、。
今まで気分を害すると思って、
見せなかった行為を
つい油断して見せてしまった、、、。
多分、彼女の頭の中では、
今まで口にした物や、
水に関する記憶が一気にフラッシュバックしていることだろう、、、。
その彼女が、ニッコリとぎこちなく笑う、、、
痛い、
痛い、
痛い、
痛い、
本当に申し訳ない、
しっかりと腰を90度に曲げ、頭を下げて謝罪した。
それを見た彼女は、大きくため息を吐く。
一応は、お咎めは無いらしいので安心した。
作業に戻り、水を毛皮にかけていると、
彼女に肩を叩かれる。
ふと振り向くと、彼女が、、、脱いでいた!?
いや、全裸ではない!!
この世界の下着!?
なのか!?
薄い布地の、あれだ、あれ!!
前回彼女の服を洗濯した時に、
一緒に洗った、あれだ、あれ!!
胸部に一枚の体に沿って湾曲した布を巻き、
それを背中の辺りで軽く縛った姿の彼女がいた。
どうやら恥ずかしいとか言うのは、思っていないらしい。
まぁ、俺、ゴーレムだしね。
慌てて首を戻すが、また肩を叩かれる。
ゆっくりと振り向くと、
頭を下げて片手で頭をガシガシ掻いていた。
その上に俺の手を持ってきてもらいたいと、言っているらしい。
頭を洗いたいのだろう。
序でだと思い少し待ってもらう。
赤い実と、手拭いサイズの布、それとコボルトの服をもってくる。
準備ができたと伝えると、
彼女が頭を大きく下げるので、
そこに、ゆっくりと水を絞っていく。
ガシガシと洗髪していく彼女。
それが一段落したところで、
彼女に見えるように、赤い実を見せる。
洗髪しながら彼女が頷くので、
かけている水に赤い実を汁を混ぜる。
爽やかな香りが辺りを包む。
水と赤い実の汁をゆっくりとかけながら彼女を見ていた。
水のせいか?元々整った顔の彼女が、
一段と美しく輝いて見えた。
暫しその光景を眺めることにした。
赤い実が絞り終わり。
それを充分すすぎ流した後、彼女が上体を戻す。
彼女に手拭いサイズの布を渡すと、
それで髪を拭き始めた。
サッパリしたと、良い笑顔でお礼を言われたので、
大きく頷いて応えた。
今日も上流への移動と思ったが、
こういう日も必要だろう。
毛皮と共に、彼女の服とコボルトの服を乾かしながら、交互に洗う。
合間でモンスターの襲撃があったが、
見たことの有る連中達で、
二人で連携し、難なく撃退する。
昼食は、昨日のリベンジで
狼の肉を川に投げ込んで、
ピラニアのようなマンボーとナマズの合わさったような、
例の魚を取って食べた。
夕方には陰干ししていた
狼の毛皮が乾いたので、
それをトーチカ内へと取り込む。
彼女の布団変わりにはなるだろう。
狼の肉が残っていたので、
それを川へ放り込み、
また例の魚を取って夕食の準備をした。
昼と思考を変えて、
今回は丸々一匹を蒸し焼きにして、
そこに、アロエ風の野菜を煮詰めた
アンをかけてい頂いた。
一匹丸々蒸したことで見てくれは良くないが、
焼くのと違い、ホクホクの身に熱々の甘旨いアンがかかり、
非常に旨いと断言できる絶品になった。
早朝に出鼻を挫かれて、思わぬ休養を二人で取ったが、
お互い鋭気を養えたと思う。
明日からまた、旅を再開するとしよう。
彼女も毛皮の布団を楽しむらしく、
笑顔でトーチカに入っていった。
自分もそのトーチカの入り口で、
全く上達しない魔法と、
金属を変形させていじりながら、
夜明けを待つことにした。
ーー暗転ーー




