9話
初めて乗ったときはずいぶん長い時間に感じたのに、三人で雑談をしながらの美桜の帰宅はあっという間に過ぎてしまった。
渚珠たち二人も同席して、美桜が自らの進路を決めたことを報告する。
「みなさんのところ以上の行き先を見つけることなどできません。まだ経験不足で頼りないかも知れませんが、娘をよろしくお願いします」
二人をホテルに送りながら、美桜が案内してくれた。
すでに人口の半分以上はこのコロニーを出てしまっていると。また、彼女の家族も既にこのコロニーでの仕事は終えていて、テラ=フィールドへ向けた準備を進めていると。
「みんな、バラバラになっちゃった。中にはまだ連絡取れる人もいるけど。でも、コロニー生まれの私たちにはそれは宿命だと思っていたし」
渚珠には分かる。生まれ故郷を離れて、そこに戻ることは無い境遇とその心の中。
「ご家族と離れてしまいますけど、大丈夫ですか?」
「私ももう大人です。それに、時間はかかるけど、船はあるんですから、必要なときに会いに行けます」
翌日、移民局での手続きを終えた二人は、一足先に美桜の暮らすコロニーを後にした。
そして、美桜が住み慣れたコロニーを出発する日を決めた。それは山野家がテラ=フィールドに出発する日でもあって、渚珠に連絡したときには、あのリーダーは何も事情を聞かずにいてくれたし、その間に訓練などの日程を入れなかった。
この心遣いを美桜はありがたく使わせて貰った。同時に、このチームの居心地の良さの理由の一部を感じることが出来た。
「必ず、アクトピアに遊びに行くから」
「うん、私も必ず行くから」
「美桜、しっかりやってきなさい」
「はいっ!」
抑えきれない涙を見て、父親が檄を飛ばしたが、美桜は最後だと言って、両親に抱きついた。
「体に気を付けるのよ」
「うん……」
自分の乗る便の最終コールと共に、家族が乗る便のコールも始まった。
「行ってきます!」
遠ざかっていくコロニーを窓から眺めながら、次にここに来るのは何時になるのだろうと感慨にふける。
今回は星間連絡船での旅のため、直接アクトピアに降りていく旅。
その時に思ったのが、前回の体験だった。
この大型船ですら揺れてしまう大気圏突入を、同い年のパイロットは全く不安にさせないように操縦していった。あのリーダーの隣に置いてもらえる。誰もが自分の進路を喜んでくれた。
家族と離れてしまうことは寂しいが、今の自分にとって一番幸せな選択なのだと思う。
到着した第4ハブポートの審査カウンターを抜けたところに、見慣れた制服を着た友人が待っていてくれた。
「おかえりなさい」
「ただいま。お迎えに?」
「ううん、お仕事のついでなんだぁ」
きっと、そういう仕事を作って来てくれたのだろう。彼女はそういう気遣いをさらりとやってしまう人だ。
「審査でびっくりされなかった?」
「そうそう。ID見て大変だった」
「わたしの時もそうだったんだぁ」
渚珠はそう笑いかけてくれて、あとはゆっくりと並んで歩いてくれた。
ハーバーに泊めてある船に乗り、ゆっくりと海上を進めてくれた。
「どう? 気持ちは落ち着いたかな……」
「渚珠さん……。ありがとうございました。大丈夫です」
潮風に吹かれながら、空を見上げる。生まれ故郷で見上げた天井はここには無い。どこまでも突き抜けるような青空が広がっている。
「まだ、今日のテラ=フィールドの空は赤いそう。そのうちに青くなるって。みんな、そのために頑張っているんだもの……」
「渚珠さん……」
「固いなぁ。同い年なんだし、ちゃんでいいんだよ。わたしもテラ=フィールド、行ってみたい。きっと、みんなが行きたくなるような星になるから。わたしたちはそのお手伝いをさせて貰うんだよ」
毎日のようにテラ=フィールドに飛び立つ船がある。それらの整備や点検も自分たちの大事な仕事だと。
「わたしも、最初の数日は気持ちを落ち着けるのに使っちゃった。みんな経験したことだから、不安とかいつでも相談して?」
水平線に島が見えてきた頃には、美桜の気持もすっかり落ち着いた。
「一人の不安もあるよ。でも、私、ここに行きたいって決めたんだもん。だから、よろしくお願いします」
「あ、みんなお出迎えだぁ」
桟橋の上には三人の影が待っていてくれた。
渚珠と一緒に手を振って応える。
横付けにした船に、弥咲が板を渡してくれた。
「おかえりなさい。ALICEポートへようこそ」
「ねぇ、なんかそのセリフ変じゃない?」
「どう言えばいいのかなぁ?」
船の上の渚珠も一緒にみんなでひとしきり笑う。
そう、この仲間たちとならやっていける。だからもう一人じゃない。
「ただいま帰りました! よろしくお願いします!」
美桜の新しい生活がこうして始まった。
いつもお越し頂きましてありがとうございます。
今回は渚珠チームの最後のキャラクターでもある美桜の登場編です。
ただでさえレベルの高いメンバーの中に合流させることになるので、必然的に美桜に求められたスペックが高くなってしまいました。
これで、ようやくメンバーが揃えられたので、次回作からは彼女たちを自由に動かすことが出来るようになります。次ものんびりと日常を書いていくお話となると思いますが、お付き合いいただけますと幸いです。




