第40話 夜明け朗読会(終)
――
君がつまずいた日。
僕は空っぽの灯台の上で、潮風にまかせてうつむいていた。
君が笑った夜。
僕は何も言えず、でもその笑顔が、ずっと残っていた。
言葉にならない想いを、
声にするのが怖かった。
だけど今、ここに光がある。
誰かが歩けるようにと願った足跡がある。
ぶつかりながら、すれ違いながら、
それでも進んだ時間が、朝を連れてくる。
灯台は、ただ照らす。
照らして、消えずに、そこにある。
君が道を探すそのときに、
どうか、この光が届きますように――
――
読み終えた瞬間、沈黙が降りた。
水平線の奥、雲の切れ間から、太陽が顔をのぞかせた。
朱に染まり始めた空の下。
灯台の最上部、ステンドグラスの窓が朝日を受けて輝き、カットガラスの光が地面に色を落とす。
虹のような光が、観客の足元に、静かに広がっていく。
「うわ……」
誰かがつぶやいた。
その言葉をきっかけに、ゆっくりと拍手が起こる。
やがて、それは大きな波のように広がっていった。
亮汰が拳を突き上げ、志歩が目元をぬぐい、祐介が深く息を吐いた。
理央はただ静かに、掌を重ね合わせていた。
そして、亜梨沙は、そっと目を閉じて空を仰いだ。
灯台のてっぺんに据えられた新しい投光器が、東の空に向けて光を放つ。
その光が、海を走り、空へ跳ね、再び誰かの背中を押すように――。
「ありがとう」
樹が、ぽつりと呟く。
これは、終わりじゃない。始まりだ。
この光が、次の挑戦者へと受け継がれていくことを、彼は願った。
灯台は、今日も、街を照らし続ける。




