第10話_ゴールデンウイークの資金集め
5月3日、金曜日。憲法記念日。
潮崎海浜公園では、朝から多くの人で賑わっていた。
広場の芝生にはテントが並び、手作りの雑貨、古着、野菜、アクセサリーなど、多彩な出店が並ぶ中、ひときわ目立たないが異彩を放つブースがあった。
看板には手書きでこう書かれている。
《辰巳岬灯台・再生プロジェクト支援フリマ》
その下に、小さな文字で添えられていた。
《古本あります。語ります。跳びます(!?)》
「……亮汰、最後の“跳びます”って何」
理央が額に手を当てて言う。
「いやー、パルクールやった方が目立つじゃん? スポンサーついたらラッキーじゃん?」
「違法行為はやめてね」
志歩がさっそくインスタ映えを狙ってテントと古本を撮影していた(※SNS名称は伏せられています)。
一方、亜梨沙は手帳を小脇に抱えながら、出品価格の最終チェックを終えていた。
「全体で230冊、うち半分が寄贈文庫と小説。最低価格が100円、最高が300円。スタートは妥当だと思う」
「現金管理は?」
「私と祐介で交代。途中経過は1時間おきに記録する」
開場と同時に、ちらほらと人が寄ってくる。
老婦人が足を止めて文庫本を手に取り、親子連れが「灯台ってどこにあるの?」と尋ねてくる。
志歩はすかさず笑顔で対応し、亮汰は「じゃあ一発芸!」と叫んで段ボール箱の上でポーズを決めた。
「何やってんの……」と理央がぼやきながらも、
「でも、目立ってるなら悪くないか」と祐介がメモ帳に“注目度:高”と書き込む。
正午を過ぎた頃、売上は予想よりも好調だった。
特に子ども向け絵本と地元作家の随筆がよく動いている。
「このペースなら、今日1日で3万円くらいいけるかも」
「倍の6万、狙おうぜ」
亮汰がニカッと笑った次の瞬間だった。
「じゃあ、俺、ライブやるわ!」
言うや否や、ポータブルスピーカーとスマホをつなぎ、流れ出す軽快な音楽。
即興のラップが始まり、志歩も即席でマラカスを振る。
「灯台! 残そう! 俺らの声で! Yo!」
人だかりができ、スマホをかざす若者たちが笑い声を上げる。
その間にも本は売れ、パンフレットも配られていく。
午後3時、日差しは少しずつ傾きはじめ、テントの影が長く伸びていた。
志歩は額に汗を浮かべながら、最後の一冊を手に取った。
「これ、売れたら完売よ」
「え、マジ? これ、例の“ボロボロの辞書”じゃない?」
亮汰が笑いながら、近くにいた少年に声をかける。
「坊主! 辞書って知ってるか?」
「しってるー! おじいちゃんちにあるー」
「じゃあこれ、今買ったら、おじいちゃんに“令和の孫は語彙力ある”って思われるぞ?」
少年は笑いながら母親の方を見る。
「買っていい?」
母親がうなずき、百円玉を手渡す。
こうして、最後の一冊が売れた。
「……完売、です」
亜梨沙の言葉に、一同がどっと息をついた。
「売上、最終集計!」
祐介が紙に書かれた数字を読み上げる。
「本日、合計売上:62,800円。物販売上の想定超過率およそ147%」
「すげぇ! 俺のライブ効果じゃね?」
「いや、あなたが騒いでる間、私は三回も在庫の補充してたから」
理央が疲れた表情で言い、志歩は笑いながら肩を揉む真似をした。
「でもさ、なんかさ」
亮汰が、ぽつりと呟くように言った。
「“お金集め”ってより、“人が集まった”って感じするよな。今日だけで、パンフ百枚以上捌けたし」
「ええ、数字と広がり、両方が成果。初動としては理想的」
理央が静かにうなずいた。
「次は、雨対策と商店街連携だな」
祐介がスケジュール帳を開きながらつぶやく。
樹はテントの片付けを手伝いながら、ふと空を見上げた。
雲の間から夕日が差し、遠く、辰巳岬の灯台の影がうっすらと浮かび上がっていた。
「……あそこが、もう一度光る日が、本当に来るかもしれないな」
誰にともなく呟いたその言葉に、隣の亜梨沙がきっぱり返した。
「来るわよ。今日みたいに、一歩ずつ進めばね」




