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絶対捜査戦のアストラルホルダー~新人特務官の事件録~  作者: 夜月紅輝
第5章 ギャルゲーみたいになったんだが
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第93話 新入社員

 俺は焔薙さんに一旦自宅まで連れて行ってもらって一時帰宅した。

 そして、専用のスーツに着替えるとある気で事務所に向かっていく。

 久々の家でちょっとリラックスしたい気持ちもあったが、一応顔を見せに行かないといけないよな。

 .....と言いつつも、少しだけソファでゴロンとしてお菓子と冷蔵庫にある牛乳を飲んだけど。


「ただいま戻りましたー」


 少し慣れてきたせいか若干間延びした声をかけながら、事務所の中に入っていく。こういう時、案外緩いから助かる。

 そして、所長の所に向かおうとすると所長の机の前に一人の少女が立っていた。


 黒髪で両サイドで髪を結んだ―――――いわばツインテールという今時珍しい髪型をした女の子で黒いパーカーを着ている。フード付きでさらに猫耳付きだ。


 その少女が俺の存在に気づいてこちらを見る。若干童顔気味のされど可愛らしいスラッとした顔だちをしている。

 俺が元いた学校にいれば漏れなく告白入れ食い状態だっただろう。なんなら、告白予約待ち。

 もっとも、俺に向ける目はギロッとしていて完全に敵意を向けたような視線だが。


 これはどういう状況だ? 俺はその子に会ったこともなければ、見たこともない。まあ、それは当然か。

 ......あ、そういえば、焔薙さんが新しい子が入るって言ってたな。それで睨まれる理由があるとすれば......なるほどな。


 俺は一つに結果に辿り着くと努めて優しく上から目線にならない言葉遣いで自己紹介した。


「初めまして。俺は天渡な――――――」


 俺が言い終わる前にまるで興味がないことを主張するように顔をそっぽ向けた。

 あー、これは相当深そうだな。もしかしたら、俺は無条件で嫌われてるかもしれない。いや、嫌われている。

 ああにも露骨に嫌な顔をされるとさすがにメンタルに来るな。


 俺が何とも言えないため息を吐くとその姿を見ていた所長が紹介してくれた。


「あいつが最後のこの事務所のメンバーだ。一応君より先に入ったが、そもそもこの業界に接している期間が短いからな。無知の行動しても大目に見てやってくれ。まあ、あいつもそこら辺は気を付けてると思うけどな」


「なら、どうしてあんな奴入れたんですか! 私の方が訓練学校を終えてやって来てますから詳しいし、戦闘技術だって高いはずです! あんな奴よりもよっぽど役に立ちます!」


 ドンッと書斎机に両手をつけて前のめりになると右手を俺の方に指さして、声を荒げた。

 う~む、やっぱし相当怒ってる様子だ。しかも、「あんな奴」って二回も言われた。一応、苗字までは言ったのに......。


「聞きましたよ。あの男は命令違反に加えて、二回も身勝手な行動で重傷を負って入院したそうですね。ホルダーの怪我は普通の治療じゃ治りが遅いから特別な治療キッドを使わなければいけないはずです。しかも、数が少ないからかなり高くつくはず。それを二回も使わせたのはバカですよ!」


 初対面の女の子にバカって言われた......っていうか、え? 俺が入院してたってそう言うことなの?

 もしそれが本当だったら.......というか、十中八九本当なんだろうけど、だとしたらやばくね? 俺の入院の意味ってやばくね?


「そもそも一般人が能力を得たとして私達についていけるわけ――――――」


「愛依、これ以上は口を慎め。誰に向かって暴言を吐いている?」


「......!」


 所長が静かにそう伝えた。顔は俯きがちでどう見ているのかわからないが、一先ず凄みが出てると思った方が良いだろう。

 なぜなら、先ほどまで言いたい放題だった愛依さんが一瞬で押し黙るのだから。


 とはいえ、ここまで言わせる何かが彼女にもあるというべきか。結衣といい、来架ちゃんといい、やっぱり抱えてるものは大きいんだろうな。

 ほんと一般人である俺の肩身が狭い。仕方ないけど。


 俺が自己嫌悪にも似たため息を吐いている一方で、所長は話しを続けていく。


「はあ......お前の言いたいことはわかる。事情も知ってる。そう言いたくなる気持ちな。確かに、本来何事もなければお前は今頃メンバーとなって仕事をしていただろう」


「でしたら――――――」


「だがな、一般人がホルダーになってしまった場合は話が変わる。優先順位がな。彼は止む終えずホルダーになってしまった。その場合、私達が取るべき行動はこのホルダーをどうするかだ。それは最悪違法ホルダーとなる危険性を持っているということで、何もリスクなく迎え入れる予定のお前とは話が変わってくる」


「......納得はしました。だとしたら、どうして保護観察処分にしなかったんですか? わざわざ仲間にする必要なんてないですし、そもそもその選択肢も本来あるとは思えないです」


 え、そうなの? やっばい、俺全然知らねぇな。


「まあ、そこは当然突いてくるだろうと思ってた。納得してもらえるかどうかは別として一応大きな理由は3つある。しかし、恐らく2つの理由で事足りる」


 所長は椅子を座り直すと足を組み替えた。そして、背もたれに軽く寄りかかりながら告げる。


「まず1つ目にあげるとすればあいつの能力だ。アストラルを所持した時、能力は多岐にわたる。それは双子のように似た能力もあるが、それぞれが独立した個性を持った能力だ。しかし、その能力であっても重要視、または危険視しなければいけない能力がある」


「まさか......第一世代かそれの前の能力......ですか?」


「ああ、あいつは雷を操る第一世代型自然(オリジン)の能力者だ。火力もまさしく自然そのものを相手にしてるようだ。もっとも、まだまだ伸びしろばっかだがな」


「あんな奴が」


 愛依さんは後ろを振り向いて俺に憎たらしい顔を向ける。ああ、なんだろうすげー猫にシャーって威嚇されたの思い出した。


 なんというか、この能力を使い始めてからたまに無意識に電気が漏れてるみたいなんだよな。

 静電気のさらに弱い感じだけど、そのせいでたまに犬や猫からすげー威嚇されたり、電子機器に不具合を起こすんだよな。

 そのせいで家に少しずつ絶縁性の道具が増えてきた。


「でも、私だって氷を使えます! あんな奴よりもよっぽどうまく使いこなしています!」


「知ってる。第一世代型の水の派生属である氷を使えて強力なことも、あいつよりもマギの練度が高いことも。だが、2つ目にこの特務という役割は今現在でも人数が少ないんだ」


「それが2つ目の理由ですか?」


「そうだ。お前らは別に浮かれ気分で仕事に就くわけじゃないんだろ。だが、一定数能力を得たことで相手の力量差を見誤って死んでしまうものだって少なくない。それにホルダーになりたいからってなれるものでもない。体がついていかなかったり、拒絶反応を起こす場合だってある。それらを除くとやはりどうしても少なくなるんだ。だから、あくまであいつの意思を尊重したうえで決定を下した。だから、正直あいつが入ってくれていることには感謝してる」


「......」


「別にお前の存在が必要だったわけじゃない。ただ色々な不幸が重なってこうなってしまった。それは私の不手際だ。本当にすまないと思ってる」


「.....わかりました。私こそ出過ぎた真似をしてすいませんでした」


 愛依さんは丁寧に頭を下げた。すると、若干険悪で張り詰めていた空気も霧散していく。

 ......ふぅ、一時はどうなるかと思ったが、無事に和解できてよかった。といっても、ほぼ俺のせいだけどな。そこが悲しい。


「ちなみに、3つ目の理由をお聞きしても?」


「......すまないな。それは完全に私情を挟んでしまっている」


「そうですか」


 所長の言葉に意外にも突っかかりはしなかった。まあ、何もないならそれに越したことはないけど。

 それにしても、所長の私情とは何だろうか。俺に選択肢を与えた時点でもうその私情が絡んでいたのだろうか。


 俺がそんなことを考えていると愛依さんが「一つお願いがあります」と言って所長に頼み込む。


「私とあの男を戦わせてください」


 そう言ってノールックで指さすのは当然俺......え、マジで?

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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