第90話 上級種格闘戦#4
俺の目の前に現れたのは二人のベテラン。
一人は身長と同じぐらいの大剣を担いだ焔薙さんと全身を装甲で覆ったマジでカッコイイ恰好をしている先生こと金剛さんであった。
その二人は情けなくも床に這いつくばっている俺を見て、優しく声をかけてくれた。
「なぎっち、心配するな。後は俺達に全て任せておけ」
「ここまでようやったわい。じゃから、後はワシらの戦いを見ておけ。まあ、参加したいというなら止めはしないだろうけどの」
「あの二人は殺されたか。全く散々人間を食っておいてその程度か。やはり所詮そうだったとしか言いようがないみたいだな」
蜘蛛野郎は二人の存在を見て、憎たらしく言葉を吐きだす。
それは恐らく仲間に向けてのものだろうが、これまで過ごしてきた仲間にかけることばだろうか? こいつらには仲間意識がないのか?
そんな俺の気持ちの一方で、事態はすぐに進んだ。
「まあ、まとめて食らうだけだがな!」
蜘蛛野郎は指の間に糸を張るとそれを二人に向かって薙ぎ払った。細くたるんでいても岩さえ豆腐のように切り裂く強靭な糸が二人を襲う。
その二人に向かって咄嗟に俺はあいつとの戦闘で知り得た情報を口に出していた。
「あいつの糸にまともに触れてはダメです! 裁断されてしまいます! それに時折放つ粘着質のある糸と区別があまりつきません! あと、体勢が整っていない時にやたらと早い糸の弾丸やアンカーを飛ばしてきます!」
「なるほどな、サンキューなぎっち」
「冷静な分析。ふぉっふぉ、成長スピードはあやつよりも速いの。あやつは基本脳筋みたいな考えだったからな」
焔薙さんと先生は軽く跳躍してその糸を避ける。
すると、蜘蛛野郎は空中で無防備な二人に向かって、両手の指先を向け、それぞれから糸の弾丸を射出した。
それは高速で二人の方へと向かって行く。しかし、二人はそれを待っていたように身構えた。
「そら、お返し!」
「まだまだ遅いの」
「なっ!?」
焔薙さんは大剣の腹でスイングして弾丸を跳ね返し、先生に至ってはデコピンで撃ち返した。
全ての弾丸ではないが、その大半が蜘蛛野郎を襲っていく。
蜘蛛野郎は咄嗟に後方へ跳んだ。しかし、足元を炎でブーストさせた焔薙さんが空中を滑空するようにしてそいつに近づく。
その事実が蜘蛛野郎に衝撃を与え、一瞬の硬直を与えた。その瞬間を狙って焔薙さんが大剣を振るう。
「くっ!」
「おっマジか」
しかし、蜘蛛野郎が咄嗟に強固な糸を指の間に出して、大剣を受け止める。そして、斜めにすることで力を流すようにして攻撃をほぼゼロにした。
「じゃが、まだ数の利を計算してなかったな」
「がはっ」
だが、真横から迫ってきた影によって蜘蛛野郎はぶっ飛ばされる。
先生だ。先生が真横から振りかぶった右ストレートを横っ腹に叩きつけて吹き飛ばしたのだ。
蜘蛛野郎はその勢いでくの字に体を曲げながら空中を平行移動していく。相変わらずえげつねぇ威力。
「この人間風情が!」
「がっ!?」
「むっ!?」
蜘蛛野郎は高速で二人から離れていきながらも、両手から先が粘着質なアンカーを射出した。
すると、それは二人の体の一部に付着して、同時に引っ張られていく。
「おらああああ!」
「「っ!?」」
「焔薙さん! 先生!」
そして、蜘蛛野郎はそれを背負い投げするように思いっきり両腕を振り投げた。
その瞬間、二人の体は蜘蛛野郎の進行方向にあった中央柱へと叩きつけれた。
轟音と僅かな振動が床に這いつくばっている俺だからこそ伝わってくる。マジか、あの二人が投げ飛ばされた。
.......くそ、動け。正直、動かなくても激痛を感じるような感じだが、それでも動け。そして、両腕に電気を集中させろ。
俺は歯を食いしばりながら、震える両手を床につけ立てていく。
俺の体が起き上がるスピードはまるで一人だけスロー再生しているみたいな感じだが、それでも着実に起き上がれてはいる。クソ痛てぇけど!
そんな俺の一方で、二人の方でも動きがあった。
柱の崩れた瓦礫を押しのけて出てきた焔薙さんと先生はやや体に擦過傷のようなものを残しながらも、まだまだピンピンしている様子だ。
しかし、蜘蛛野郎もそんなことをわかっていたのか、すぐに指を網目状に絡み合わせそのまま両手を横に開く。
すると、その挙動に合わせて格子状の蜘蛛の巣が飛ばされた。それはまるで体をサイコロ状にするかのように網目が細かい。
「やりおるのあの蜘蛛は。本能で咄嗟に跳んで威力を殺しおったわい」
「そして、畳みかけてあの糸。まともに触れるのはよした方がいいっすね。となれば、ここは俺の出番かな」
すると、焔薙さんは大剣を大きく頭上に構えるとその剣を燃え上がらせる。まさに火柱を作り出したようだ。
そして、その剣をさらに炎上させ、太陽のような眩しさと灼熱に周囲を変えていくと告げた。
「さあ、いっちょ勝負と行こうじゃないか――――――幻炎烈断!」
焔薙さんは大きく右足を踏み出すと同時に掲げた大剣を思いっきり振り抜いた。
その瞬間、空気を焼くような炎の斬撃が迫りくる蜘蛛の巣に向かって迫っていく。
そして、直撃した。
―――――――ボオオオオォォォォッ!
直撃の瞬間、巨大な爆発音とともに大炎上した。
炎の斬撃が一瞬にして蜘蛛の巣の全てを包み込んでいき、その糸を焼き尽くしていく。
「狙いはここしないみたいじゃな」
すると、突如として燃えた蜘蛛の巣の一部が爆ぜて、何かが飛び出してきた。それは先生だった。
先生は全身が装甲の防御型を活かして強引に炎の壁を突破してきたらしい。確かに蜘蛛野郎には強襲として成功しているみたいだが、無茶過ぎるだろう。
とはいえ、やるということはきっと本人には無茶でもなんでもないということで、先生はそのまま大きく強力な右拳を振りかぶる。
それに対して、蜘蛛野郎は驚いたような顔をしていた。しかし、すぐにその口元を醜悪に歪めていく。
「これで貫く」
そう言って構えたのは糸で出来た弓であった。矢も弓も全て糸製だ。しかし、あの蜘蛛野郎が作り出したいかれた強度の持つ糸だ。
あんなのを放たれてしまえば、いくら先生でもひとたまりもないだろう。その前にしかける!
「そうはさせるかよ! 俺の今の全力を食らいやがれ――――――放電撃!」
俺は床につけた手から両腕に集中させた雷を解放した。
雷は別に地面には感電しないというわけではない。地面でも電気は通す。それ利用して、床を通電させたのだ。
幸い、結界で作り出されたとはいえ金属で出来ているようだ。これなら十分に伝えることが出来る。
「がああああああ!」
俺の電撃が一瞬にして伝わったのか蜘蛛野郎は弓を先生に構えたまま体を激しく痙攣させた。
そして、断末魔にも似た声を響かせていく。
そいつに真っ直ぐ飛び込んできた先生は強烈な右ストレートを打ち抜いていく。
―――――――パァッン!
甲高い何かが割れたような音ともに、俺の延長線上にいた蜘蛛野郎は頭を木っ端みじんに吹き飛ばされた。
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