第83話 二体の上級種
―――――【焔薙 理一】視点―――――
俺は体験を配管に突き立てながら、ただジッと引きずり落とされるなぎっちの姿を見ることしかできなかった。
剣で耐えなければ落ちてしまう。しかし、大事な後輩が上級種とタイマンで戦わせるという状況にさせてしまった。
いや、この空間が高さのある場所だったら落下速度に加え、叩きつけられた時点で終わりの可能性すらある。
あの時、自分を顧みず動くことが正解だった。もちろん、自分が生きることは大切だ。しかし、あの子だけは.......俺はまだ咄嗟に動くことができません、先生。
「分断成功ってところだな。物思いに耽っていると痛い目遭うぜ、兄ちゃん?」
「!」
背後から聞こえてきた声。そして、その瞬間にすぐ横から鋭く刃が薙ぎ払われた。
俺は咄嗟に大剣をそのままに自分の体を腕力だけで持ち上げる。それによって、俺はその鋭い攻撃を避けた。
それから、ふと見てみると両腕を鎌のようにして、人間の足が生え、カマキリの尻と頭をしたような生き物が立っていた。
まさしく人間とカマキリを掛け合わせたような生き物だ。8割方カマキリといった感じだが。
俺はそのまま肘を引きつけ、体全体を大剣に引きつけながらそのカマキリに思いっきり蹴り込んだ。
すると、カマキリは両腕をクロスさせて防ぎながら後ろに衝撃を流していく。どうやら知能は働くようだ。
しかし、上級種が3対もいるとはな。これは早々になぎっちの救出にはいけない。出来る限り早く倒したいところだが、それまでの間はただ生きてることを願うしかない。
「こっちへこい」
「ああ、いいぜ」
俺は体験を引き抜くと同時に跳躍して、壊れた配管を離れた。そして、途中の配管に体験を突き付けて、上手く移動しながら少し下の配管へと移動する。
「ここなら好きに暴れられる。当然手加減はしねぇぜ」
「はは、俺達がどれだけ人間を食ってきたと思ってる? 勝てると思っているなら甚だおかしい」
「御託は互いに好きじゃねぇだろ。なら、勝負をつけよう」
「いいね。物分かりが早い奴はいい。オレもいい加減能力者を食いたかったんだよ!」
体験を構えた俺にカマキリは湾曲した鋭い刃を大降りに振って向かって来る。速度は速いな。けど、なぎっちの修行に付き合っていたせいか全然対応できる。
鎌を鋭く下から上へと袈裟切りに振っていく。大剣と鎌がぶつかり合い。激しくオレンジ色の火花を散らしていく。
しかし、その拮抗を俺がカマキリを押し返すことで終わらせ、そのまま吹き飛んだカマキリに向かって大きく構えた炎を纏わせた大剣を振り抜く。
その瞬間、爆発音とともに爆炎が周囲に広がっていく。
「あっつ」
「余裕で抜けられる辺りがうぜぇな」
しかし、その爆炎からサッと飛び出して少しの火傷で済んでいるカマキリは壁に脚を固定しながら、俺を見る。余裕かよ。
そして、後ろの尻の方から羽を出すと壁を蹴った勢いで飛び、高速で鎌を振ってくる。
その攻撃を大剣でガードしながら素早く振ろうとする。しかし、その時には通り過ぎていて大きく距離を取っている。
それから、再び同じように襲ってくる。それを同じようにガード。しかし、当てられない。クソが。
同じことの繰り返し。こちらは防戦一方でいら立ちが募る中、相手は余裕の笑みでそれがまた腹が立つ。
「ははは! イラ立ってる―――――なっ!?」
「ああ。もともと俺はクソ真面目だからな」
カマキリは調子に乗って同じように攻撃してくる。そこら辺の単細胞加減はまさに虫だ。
だから、俺はガードする振りをして大剣を配管に突き立てるとカマキリが鎌を振り抜こうとした瞬間、振っている腕を掴み、もう片方で反対の腕を掴んだ。
カマキリの頭をしているせいで表情はわからないが、声色から少なからず動揺している感じだ。
そのことにほくそ笑むと脚部に火炎を纏わせて、素早く足を引きつけドロップキック。
加速したまま突っ込んできたカマキリにとっては強烈なカウンター攻撃だろう。はっ、調子乗んな。
そして、カマキリはそのまま吹き飛ばされる。
「思い通りに嵌められたと思うなよ?」
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―――――【金剛 善】視点―――――
しまったな。数に意識を割かせてワシらを分断することが狙いであったか。それによって、凪斗君が一体の上級種に連れて行かれてしまった。
しかし、凪斗君なら大丈夫だろう。あの子の息子だし、何よりワシが強さを保証している。本人はあまり気づいていない感じじゃがの。
とはいえ――――――
「弟子がむざむざと連れ去られてしまっては先生としても面目がつかないというもの。それにワシから弟子を奪い取ったという意味を理解できないわけでもなかろう角虫」
「我はカブトムシなれぞ。角虫とはまた特徴的な部分しか捉えていないではないか」
「それで十分じゃろ。それにワシが思っているようなカブトムシとは容姿が似てても、そんなに気持ち悪くはないからな」
ワシの目の前にいるカブトムシは見た目の色や体系は従来のカブトムシと変わらない。
しかし、筋肉が黒光りしている四本の腕とその体を支える二本の足は人のそれだ。手足ともに指がある。
そのどこをカブトムシといえようか。角虫で十分じゃ。
「ワシは弟子のピンチに出遅れるわけにはいかんからの。さっさとやらせてもらうぞ」
「そうは上手くいくかな?」
傾いた配管の割れ目の近くに立つ角虫は四本の腕を組みながら、嫌らしい笑みを浮かべる。その瞬間、周囲に残っていたファンタズマが一斉に襲ってきた。
「親切以外で年寄りを舐めるものではないぞ?」
じゃが、ワシは立っていた位置に残像が残る速度で動くと囲んで襲いに来ていたファンタズマを全て一撃で粉砕した。
そして、何事もなかったようにもとの位置に戻る。ふむ、いい準備運動じゃった。
「やるな。それに確かに主は強い。それは紛れもない事実だろう。しかし、そもそもその弟子という奴が生きている可能性は低いだろう。なぜなら、弟子を連れ去ったあいつは我らよりも強いからな」
「そうかの。確かに、単純な実力差で言えば負けるかもしれんな。だがまあ、所詮纏うマギの質を見て判断しただけなのじゃろう。じゃから、君らは虫なのだよ」
「言ってくれるな!」
角虫はいきり立って殴りかかってきた。右側の二本の腕が大きく絞られていく。そして、ストレートに振ってきた。
それをワシは左腕を縦に構えて篭手で防いでいく。ガンッと鋭く鈍い音が響く。しかし、それだけ。
「軽いな」
「ぐはっ!」
ワシは角虫が驚きで固まっているうちに胴体に素早く右腕を打ち込んでいく。それによって、角虫は反対側の壊れた配管の方へと叩きつけられた。
追撃するようにその場を大きく跳躍すると足を引きつけ、落下してくる勢いとともに両足を叩きつけた。
しかし、直撃した感触はない。咄嗟に避けたか。羽音がする。空中か。
「素早さはあるようじゃの」
「我がただの脳筋野郎と思うな」
そう言うと角虫は右腕の二本を大きく振りかぶったまま突撃してきた。そして、変化が起こったのは殴る瞬間であった。
角虫が両腕を一気に一つまとめて自身の体よりも大きい巨大な腕を作り出したのだ。巨大化か、さすがにそれはワシでビックリじゃぞ。
――――――ドゴオオオオォォォォン!
巨大な爆発音によって、僅かに残っていた配管が壁から根こそぎ壊され地面に落下していく。そして、その配管は煙を伸ばしながら真下に移動していく。
その配管の上に乗りながらワシは空中から殴りかかってくる角虫を見た。
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