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第71話 二人の仕事

 金剛さんはカウンターの席に着いた俺にお酒を入れるコップにオレンジジュースを注いでいく。そして、手早く作ったサンドイッチ3切れと一緒に提供した。


「いただきます」


 それを受け取ると乾いた喉をオレンジジュースで潤し、レタス、ハム、トマト、チーズと色どりのいい食材が挟まれたサンドイッチを食す。

 うん、普通に美味い。新鮮なレタスがシャキッとしていて、トマトの酸味が丁度いい。ハムとチーズの組み合わせが良いことなんてもはや言わなくてもいいだろう。


「美味しいですね。バーよりもカフェの方が良いと思いますよ」


「ふぉっふぉ、そこまで褒めてくれるのは嬉しいのう。じゃが、ここはもとよりワシの場所じゃないんじゃ」


「そうなんですか?」


 2切れ目のサンドイッチをパクリ。


「古くからのよしみの店でな。ワシらがこっちに来た時に丁度腰を悪くしたらしくて、宿を借りるついでにこうして働いておるのじゃ。同時に、こういうバーはいろんな情報が転がり込んでくるからの。そういう点では好都合なのじゃ」


 金剛さんは同じく自分ようにも作った朝食用サンドイッチをしっかり噛んで飲み込んでから答える。さすがに食いながら話すのは行儀悪かったか。

 ということで、俺は全てのサンドイッチを黙々と食べ、少し乾いた口内をオレンジジュースで満たしていく。冷たくて上手いジュースが喉へスッと流れていく。

 そして、食事がひと段落着いたところで先ほど金剛さんが告げた言葉について聞き返した。


「そういえば、さっき『これまでの話』って聞いてきましたけど、それって俺がこの世界に入ってからのことですか? それとも、入る前のことで?」


「そうじゃの......出来れば、入る前から()()()ってところじゃな」


「別にこれといって物珍しいものはありませんけどね。まあ、ざっくり言うと俺は小さい頃からいろんな人に助けられてきたって感じですね。物心つく前に母は父親と離婚して顔も見てませんし、母も小学生の頃に体を悪くしてそのまま息を引き取りました。その後はいとこのおじさんの家に引き取られたって感じです」


「『父親の顔を見ていない』と言っておったが、写真も見ていないのか?」


「母が全てを焼き捨てたらしいです。“こんなもん残してやるものかー!”って。だから、母からは父親の情報は一切聞いていません。まあ、どんな人物か興味がないといったら嘘になりますけどね」


「......そうかの」


 金剛は少し唸るように返事を返した。俺の言葉に何か感じることでもあったのだろうか。もっとも、さすがにそこまでは踏み込めないが。

 オレンジジュースを飲み干すとお代わりとばかりにコップに追加した。


「それからはどうじゃ?」


「おかげ様でごく普通の学生生活を送れてました。まあ、それは単純に俺が色々な記憶を忘れていて、守られてるという自覚が無かったからですがね」


「二斬君のことじゃの。特に妹さんの方。好成績で訓練学校を卒業し、本人の強い志望でこの東京支部にやってきたからの。あの時はまるで余裕がなさそうだった。ずっと何かを探しているような感じで、もとよりあまり変わらない表情がさらに凍り付いたように動いていなかったの。歓迎会をした時も一人だけ遠くを見つめてるようじゃった」


「そうなんですか......まあ、その原因はまごうことなき俺ですけどね。結衣がどういう経緯で俺のいる学校にやってきたかはわからないですけど、その時から俺はずっと結衣に守られてたというわけです。知ったのはまだ最近と言える範疇ですけど」


「ふぉっふぉ、確かに凄かったの。目的のものがようやく見つかった時、本気で所長に頼み込んでおったからの。無理を承知でこれまで頑張ってきた実績を全て使って掴もうとした何か。それが君であったとは驚きじゃが、今なら納得がいく」


「俺が? そうなんですか? 別に俺は普通の一般人で、巻き込まれて結果的にこの世界に足を踏み入れたという感じですが」


「君や他に事情を知らない者たちから見ればそうなのかもしれない。しかしな、ワシや所長、焔薙君から見れば驚きではないのだよ。どちらかというと成るようになってしまったという方が大きい。約束を果たせなかったという意味だからな」


 金剛さんは悲し気に俯くとどこかの一点を見つめながら言葉を紡ぐ。

 きっとその目に映っているのはカウンターの材質ではなく、目を瞑らなくても思い出される何かを見ているのだと思われる。

 その何かは当然わからない。しかし、俺に関する何かということは察することが出来る。


「結衣もそのことを気に病んで俺を探して守ろうと?」


「いや、結衣君の方は単純に君を想ってのことじゃろう。ワシらも君に関することとはいえ、その前の――――――」


「おはよっす~。善さん、なぎっち」


「焔薙さん」


 焔薙さんは熊の可愛らしい顔突きのパジャマのまま乱れた金髪の頭を掻きながら、眠たそうな目でやって来た。大あくびもついでだ。

 まあ、昨日は結構飲んでたし、俺が迷惑かけたせいもあるしな。そのことについては改めてお礼を言わなくちゃ。

 .......ん? 何かまーだ引っかかるようなことがあるな。何だろう? あ、やっべ。俺って今銀髪じゃん。


「焔薙さん、昨日は助けていただきありがとうございました。そして、迷惑かけてすみませんでした」


「いいっていいって。そんなかしこまらなくたって。昨日みたいに気軽に『りっちゃん』って呼んでくれちゃっていんだぜ? だって、俺達はもうダチトモなんだからよ」


「ふぉっふぉっふぉ、昨日初めて会ったのにもうそこまで仲良くなっているとはの。だから、そんな髪色なんじゃな」


 ほんっと昨日はどうにかしてたんです。あれが数日も続くようならもはや自分に狂気です。

 それと、金剛さんのその慧眼には恐れ入ります。


 焔薙さんは俺の横の席に座ると「善さん、俺にも朝食作ってください」と告げた。すると、金剛さんは優しく頷き、素早く食材を切り始める。

 と、そこで俺は焔薙さんに質問した。


「そういえば、お二人とは俺があの事務所に入社してか初めてって感じになるんですけど、今まで一体なんの仕事を?」


「そうだな~。一言で言えば、ゲートの破壊ってところだな」


「ゲート?」


「ファンタズマが異界からこっちの世界に現れる空間の歪みのことさ。50年前の未曾有の大事故からこの世界の空間は不安定になったらしくてな。それでその不安定な部分から空間を繋げるゲートを作って、ファンタズマ(あちらさん)が勝手に領土侵犯してるってこと。全く空間に干渉するなんてどこのSFだよってツッコミたいところなんだが.......あ、善さんあざーっす」


「ワシら人間が長年の月日を重ねようやく充実した設備を揃え、それでて最高の研究員と最高の機材を使ってようやく干渉することが出来た空間をこうも簡単に干渉してくれる......まあ、ワシらが何かしたわけでもないが同じ人間として悲しいものがあよの」


「その仕事を今までずっと?」


「まあ、そういうこった。どこにあるかを虱潰しにも範囲が広すぎるから俺は外で、善さんはこのバーで情報を集めてちまちまやっていたというわけ。そして、その規模がまだまだ広そうだから助っ人を頼んだわけ」


 なるほど。要するに俺は二人と同じように情報を集めて、そしてその情報をもとにゲートを壊せばいいということだな。

 俺がそう思っていると焔薙さんは水をグイッと一気に飲み干して告げた。


「ってことで、なぎっちは戦闘訓練ね」


「.......え?」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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