第70話 もう一人のメンバー
「結界?」
「そう。いわば、周りに被害が出さないようにするための異空間さ。これを使うことによって、人が殺されることはないし、建物が破壊されても結界を解けば元通りってね」
りっちゃんは俺の疑問にすぐさま答えてくれた。原理や理屈やらはわからないが、とにかくマギを使ったそういう技術があるらしい。
そんな技術が使えれば、赤鬼の時も工場爆発とか起こすことはなかっただろう。今考えても意味ないことだとわかっているが。
「とはいえ、結界は維持するだけでもアストラルを消費する。だから、決める時は短期間。相手が強敵になればなるほど、結界は使いずらくなるのが欠点だけどね。特にこういう即時発動型の結界は」
「そうなんすか。っと、敵がこの異常事態を感じたのかこっちに向かって来るっす」
「Ok、それはむしろこっちにとって好都合ってもんよ。それじゃあ、酔い覚ましの運動と行こうじゃん!」
周囲から向かって来るのは子供サイズの下級種ファンタズマが十数匹と動物のなりをした人型や昆虫の中型種ファンタズマが五匹と言ったところだ。
正面から向かって来る小型ファンタズマAは手に持っているこん棒を振り下ろす。
見た目は西洋の悪魔ゴブリンと言ったところだ。しかし、機動力で負けるわけがない。振り下ろしたこん棒を即座に避けるとカウンター気味に胴体を殴って吹き飛ばす。
そして、横からそのまま殴りかかってきたファンタズマBの頭を掴むとそのまま反対側のファンタズマCに投げつける。
「集中強化―――――雷貫」
胴体が重なって身動きが動けなくなっている二体に強化した紫電と筋力で鋭く蹴りつける。その瞬間、槍で貫通したように雷の長く伸びた電流がその二体の背中から伸びていく。
そして、そのまま軸足で地面を蹴って跳躍すると胴体を捻りながら、大きく拳を振り上げる。それから、空中に漂って今にもお尻から何か噴き出しそうな巨大なガの胴体に拳を叩きつける。
ガは鱗粉を周囲にばら撒きながら地面に叩きつけられ、体を紫電にピクつかせてひん死の状態になった。
―――――――ドゴオオオオォォォォン!
「!」
背後から突如として聞こえてきた爆発音。そして、体を突き抜けるような熱風。風だけで一瞬焼けるような痛みを感じた。
咄嗟に目の端で背後を見ると天を焦がすような火柱がそこにはあった。その日柱にはファンタズマと思わしき黒い影が消えていくのが見える。
地面に降り立つと改めて背後を見る。すると、りっちゃんが身の丈ほどの巨大な大剣を肩に担いでいた。恐らくあの武器がりっちゃんのアルガンドなのだろう。
いや、それよりも――――――
「りっちゃんは......自然なんすか?」
「ん? ああそうだ。これが俺のアストラル【炎操者】。まあ、俺のであって俺のでない力だけどな」
「?」
りっちゃんは笑って答える。
......いや、声のトーンや口元の形からそう感じたという方が正しいかもしれない。月明かりに炎で明るいこの場ではりっちゃんのかけているサングラスはより黒っぽく見えた。
「そういえば、女帝から聞いてたけど本当になぎっちは自然のアストラルなんだな。はは、本物を見るには二度目だな。こりゃあ、すごい奴と出会っちまったもんだ」
「いや、それはこっちこそっすよ。この能力は強力っすけど、扱いが難しくて。後で指導お願いします!」
「いいぜ。なら、さっさと周囲を片付けないとな」
俺とりっちゃんは残りのファンタズマの討伐を始める。もうすでに上級種という格上のファンタズマと戦っていた経験のおかげか、存外手間がかからずに中級種を倒すことが出来た。
しかし、俺に変化が起こったのはそれらのファンタズマを倒した後のことであった。
「ふぅー、やっと終わった.......うぅっ!」
全てのファンタズマの気配が消えて俺が一息つこうとした時、突然胸あたりから喉にかけて何かがせり上がってきた。
咄嗟に手を抑えてむせ返すと手にビチャッと全体に濡れる感覚がする。そして、すぐに見てみるとその手に広がっていたのは血であった。
「吐血.......?」
思わぬ出来事に思考が止まる。すると、俺の様子を見にやって来たりっちゃんがその事態に気付く。
「どうした~、って血を吐いてんじゃんか!? 何があった!? どこか深い傷でも!?」
「いや、特に攻撃は受けずに倒したはずです。強いて言うなら、鱗粉を顔に浴びたぐらいで......」
「鱗粉? ってことは、アトロスフォルの毒か!? あれは即効性の猛毒だから普通は浴びたら即死だが、どうやら自然のアストラルだけが持つ特別なバリアで即死とはならなかったようだな」
りっちゃんが来てくれると安心したのか力が抜けた.....いや、力が入らなくなった。
毒が全身に回り始めた証明なのか意識も混濁し始め、視界も霞み始める。まさか敵に毒を使うやつがいると知らなかった。これは完全に知識不足だな。
「急いで安全なところに運ぶから。お前は意識を頑張って保て。寝たら死ぬと思えいいな!」
俺はりっちゃんに背負われると上下に歪み、二重に見える視界の中で段々と暗闇に落ちていった。
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「はっ!」
目覚めるとどこかの天上であった。薄暗がりだが、視界の端に光のようなものを感じる。
周囲を見渡してみると自分が寝ているのは壁にそって置かれたソファの上で、すぐ横にテーブルが見える。
そして、少し視線を落とすと横向きにいくつものお酒のボトルが置かれているのが目に入った。どこかのバーだろうか。
「おや、気づいたかの?」
「うぇ!? いつの間に!?」
俺が突然かけられた声に驚いて上体を起こすと膝に折りたたまれたタオルと冷えピタが降ってきた。それから、テーブルを挟んだ反対側にはシルバーのオールバックに白いひげをわずかに見せる好々爺の姿があった。
服装もタキシードのようなバーテンダーの恰好なので、恐らくこのバーを経営してる人だと思われる。ということは、りっちゃん......焔薙さんはこのバーに俺を運んできたということなのか。
「あの、焔薙さんはどちらに?」
「ああ、焔薙君ならまだ寝てるよ。それで君が新しく入った子かね?」
新しく? それにさっき焔薙さんを「焔薙君」って言ってたからそれなりに親しい人ということなのか?
いや、たとえ親しい人とはいえ、毒状態だった俺をわざわざバーに運ぶものだろうか。それでもわざわざ運んだということは特務の関わりがある人か。
......あれ? いつだか前に所長が「後メンバーは二人いる」みたいなこと言ってなかったっけ?
「あの、失礼ですが、あなたは?」
「ん? ワシか? ワシは特殊任務捜査官東京支部の副所長をしておる【金剛 善】というものじゃな。やり手キャリアウーマンから君の戦闘強化を直々に依頼されてるものじゃ」
「え、あ、初めまして! 天渡凪斗と申します! よろしくお願いします!」
「ふぉっふぉっふぉ、毒に侵されていたというのに律儀な子じゃ。それだけ体の調子が良くなったってことかの......それにまあ、実のところは君と初めてではないのじゃがの」
「え?」
金剛さんは何かをボソッと言ったような気がした。それが何だったかはわからない。恐らく気にしなくてもいいことなのだろう。
そして、金剛さんは手に持っていたモップで床を拭きながら、カウンターの裏に回っていく。そこにある小さめの冷蔵庫から瓶のオレンジジュースを取り出すとカウンターに置いた。
「どうじゃ、朝食を作ってあげるからこちらに来なさい。そしてついでなんじゃが、君のこれまでの話を聞かせてもらってもいいかの?」
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