第69話 焔薙流おもてなし
「ふぅ~、いいね。ビシッと決まってんじゃん」
「俺、初めて銀髪に染めましたよ」
現在いるのはとある美容院の鏡の前。服が汚れないように前掛けして見事に銀髪になり前髪が上がった状態の俺の姿があった。
そして、その鏡のすぐ背後には美容師さんがいて、その後ろには焔薙さんの姿がある。
そう、結局俺は焔薙さんに連れて行かれるままに美容院に辿り着くとこの髪色に変えられたのだ。俺が選んだわけではなく、焔薙さんチョイスだ。
ハッキリと断れずにここまで来てしまったわけだが......なんだろうか。恥ずかしい気持ちはあるが、新たな自分を発見したような気分でもある。
存外似合ってるのではないか? まあ、こういう時の自信って後で恥ずかしくなるやつだけど。
美容院代は焔薙さんが奢ってくれた。強引に連れてきてしまったことに対しての正統なる対価らしい。というか、強引という自覚あったのか。
そして、美容院に出ると焔薙さんは俺に告げる。
「なあ、なぎっち。これで終わりだと思っていないか?」
「え、まだ何かやらせる気なんですか?」
「そのスーツは特別製のやつとしても、中のワイシャツは違う。そして、そのワイシャツを着こなすためにも装飾品は必要不可欠だ。というわけで、レッツ、パーリーショッピングだ!」
「え?」
そう言われて、再び連れ回される。
俺のワイシャツは白からギラギラしたシルバーに変わり、金のネックレスをつけ、両手に指輪、そして目にはサングラスと焔薙さんに似たような姿になってきた。
しかし、なんだろうか。次第に俺のテンションもバカになってきた気がした。恐らく恥ずかしさを封じ込めるための苦肉の策なのだろうが、今は完全に――――――
「りっちゃん、次はゲーセンとかどうっすか?」
「お、いいね~。どっちが少ない金額でクレーンゲームの商品を多く取れるか勝負と行こうじゃん?」
「ウィっすウィっす! 俺、こう見えてもその手のゲーム強いんで」
「ほほう、言うねなぎっち。なら、その実力見せてもらおうじゃないか! いくぜ、レッツゲーム!」
頭のおかしいパリピみたいなテンションであった。明らかに口調もおかしいし、ついでに言えばほぼため口だ。
しかし、りっちゃん的にはそれがいいらしいので、俺もオールオッケー! つーか、クレーンゲームとか久々だな。マジいけっかな?
それから数時間は軽くゲーセンに入り浸った。
最初はクレーンゲームから始まり、途中で飽きたからエアホッケーしたり、ガンシュートしたり、マ〇カーしたりとまあ、とにかくやったね、うん。
それで終わり? ノンノンそんなわけないじゃないか。ノリと勢いで人生初に女の子口説きに言ったわ。
正直、あれはいくらパリピモードであってもクッソ緊張した。つーか、何話したらいいか全くわっかんね。つーか、これ結衣にバレたら殺される臭くね? つーか、マジやばたにえんだろ。
正直、女の子口説いている時のりっちゃんマジ凄かったわ~。何がすごいってまず話途切れねぇの。知識が深いっつーか、博識っつーかマジそこら辺がパネェ。
俺の方はなんつーか緊張しちまって上手く言葉が交わせなかった。けど、なんか相手がリードしてくれた。というか、合コンに誘われた。
いやまあ、それはまだ昼間の午後の時間帯だったからね。冗談かと思ったらガッチガチのガチモードだったわけと。マジびびりんこ。
なんだかんだいうてもね? 俺ってやつはヘタレって自覚は少しはあるから、りっちゃんに相談してみたらゴーサイン。りっちゃん、パネェ。マジパネェ。
んだけど、酒は飲むなと言われた。まあ、もとよりまだ未成年だから飲めねぇし、そもそも警察が法律やぶんのダメっしょ?
と、思ったら、そういう理由じゃないらしい。りっちゃん曰く「この先の楽園に手を出すと二度と地獄から抜け出せない」とのこと。
最初は何言ってんのかわかんなかったけど、そう言えばりっちゃんが最初に所長のこと「女帝」って言ったの思い出してから、肝っ玉冷えたね。うん、これ本気で本気。
つーことで、ガチの肉食女子からあの手この手で逃げつつ、合コンを終えたってわけ。
つーか、最近の女子って積極的以上にもはや怖いわ。所長も然り、結衣も然り。天使の来架ちゃんを見習ってほしいものだわ。
そんで、夜も更け始めてきたから終わりと思ったら、りっちゃんのこっちでの行きつけのバーにゴーよ。結局、りっちゃん飲むんかい! と思ったけど、まあそこは本人次第だよね。俺、マジ理解力ある。
そんなこんなで更に夜は更けていく。
「うぅ......気持ち悪いぃ......」
「りっちゃん、俺に見え張って飲みすぎるから。カッコつけるのもいいっすけど、結局こうなったら逆にカッコ悪いっすよ?」
「く、なぎっちの言う通りだ。全く、俺っていう奴はおちゃめに抜け目がねぇんだから」
「今の地味に上手いっすね。いや、それよりもどこかで―――――――!」
俺が肩を貸してりっちゃんを指定されたホテルまで運んでいく夜道に気配を感じた。ファンタズマの気配だ。
しかし、現在いる場所は飲食店や大型ショッピングモールがあるようなネオン街。煌びやかな様々な色が彩るこの場所にはまだ多くの人が往来する。
ファンタズマは基本的に人目につくことを避ける。しかし、それは人目が多い場所を狙わないということではない。
むしろ、こういう場所の方が狙われやすいのだ。人が多すぎて、一人減っても周りは気づきにくいという状況を利用して。
どうする? こんな人目の多い場所で人間離れした動きを見せるわけにはいかない。基本的に特務は秘匿組織なのだから。
しかし、このままではファンタズマに一般人が襲われてしまう。いや、もう襲った後かもしれない。すぐに対処しなければ被害は拡大する一方だ。
「お困りかい、なぎっち? まあ、ここは見ときな」
「りっちゃん......?」
りっちゃんは俺から離れると少しおぼつかない足取りながらも、二本足で大地に立つ。そして、両腕を伸ばし、指を揃えながら親指と人差し指で三角形を作るように構えると唱えた。
「この地に降り立つ神よ。炎の囲いし堅牢な陣を作り上げたまえ」
その瞬間、空間が水面に浮かんだ波紋のように揺らいでいく。
すると突然、上空から四つの隕石のような巨大な火球が降り注いできた。そして、その火球は遠くの地面に降り立ったのかビルを超えて砂煙が舞っているのが見える。
砂煙が見えると見えてきたのは巨大な鳥居であった。それこそビルを楽々と請えるほど大きなのが、北、南、西、東と四方向に。
それで終わりではなく、その四つの鳥居をつなぐように炎の壁が出来始めた。ここを中心にしているようなので、かなり遠い場所にあるにもかかわらず少し温度が上がった気がした。
俺は思わず唖然とした。これがなんとなくマギによって作り出されているのはわかるが、これほど体中から感じることは今までなかった。
「りっちゃん、これは.......?」
「まあ、簡単に言えば、敵を逃さないための柵みたいなもんだ。敵が一体だったら未だしも、数がそれなりに多く感じたからな」
「多く?」
その言葉にあまりピンと来なかった。なぜなら、俺が感じた気配は一つだったから。
「後はおもてなしって感じだな」
「おもてなし?」
「ああ、これから成長していく若人にこの力の凄さをもっと知ってもらおうというね。正式名称は火炎烈円陣。だけど、俺達風に言うと炎のカッケー結界さ」
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