第60話 反撃の銃弾
―――――【創錬 来架】視点―――――
――――――数分前。
「援護射撃ですか?」
「俺は結衣みたいにアストラルを使って武器を作り出すことは出来ないからな。あの教祖が何らかの武器を使った時に一瞬だけ気を逸らしてほしい」
「何か考えがあるんですね。ならば、必ず私がズドンと打ち抜いてみせます」
私は凪斗さんから協力を要請されるとそれを快く引き受け、落としたショットガンをもって一旦この建物外へと出ていきました。
それはもちろん、凪斗さんの期待に添えるように。
ここら辺一帯は開発地域となっているため、現在建設途中の建物と同じような高さの建造物が少なからずあります。
そして、タブレット端末で今頃三階にいる凪斗さんの位置が見える位置を地形マップと照らし合わせて、丁度いい建物を見つけるとそこに少しお邪魔させていただきます。
選んだ場所は近くの事務所の屋上。距離は約300メートルにして、風は南西から風速1メートル吹いている。
「錬成」
私はそう呟いて両手にアストラルを宿す。そして、手に持っているショットガンを素早く私専用のスナイパーライフルへと変形していきます。
このやり方でサブマシンガンをショットガンへと変えたのです。
私の不注意とはいえ、やはり凪斗さんを一度攻撃してしまって、傷つけてしまったことはどうしようもない罪悪感を感じます。なので、この信頼は結果でもって取り戻すとしましょう。
錬成でスナイパーライフルへと変形し終えるとそれとは別に作ったスコープとスナイパーライフルを安定させるための二本の足バイポッドを装着させれば、準備完了です。銃弾はアストラルから生成するので問題ありません。
そして、銃口を柵の外へと出しバイポッドを床に立てて、少しねつぼったい床に寝そべるとスコープから凪斗さんの様子を見ました。
どうやら戦闘は始まっているようで、凪斗さんは二体の藁人形のようなテールムによって教祖に近づけないようです。
となれば、私のやることも必然。その二体を同時に撃ち抜くこと。
『準備完了です。好きなタイミングで始めてください』
チョーカーの通信機をオンにして、凪斗さんにこちらの準備が完了したことを伝えます。そしたら、私も超本気モードです。
風向きや強さ、現在の空気温度を頭の中で計算しながら。銃口を微調整していきます。しかし、相手は動く物体なのでそれも考慮に入れなければいけません。
ジッとしている体に風が通り抜けて、髪のしっぽを揺らしたり、少しめくれ上がったスカートから見える太ももを撫でていきます。
しかし、そんなことに気を取られることはありません。チャンスは1回。外せば狙撃手がいることを感づかれて逃げられる可能性があります。
凪斗さんは言っていました。“相手は俺が弱いことを知っている”と。
それは恐らく自分自身でも本心なのでしょう。そして、相手がこれまでの一連の事件で手練れと理解しているから。
故に、その弱さによる油断を逆につけると考えたのでしょう。
その作戦自体の是非を問うならば、私は賛成です。こっちが捕まえる上で、相手が油断してくれればそれに越したことはないからです。
しかし、私情を挟むなら反対でした。だって、凪斗さんは弱くないですから。
確かに、戦闘能力はまだ未熟かもしれません。ですが、それはいきなりこの世界に入ったからむしろ仕方ないことと言えます。
それに凪斗さんはそれ以上に人の痛みに、人の死にしっかりと怒ったり、悲しんだりできる人です。
特務捜査官にとって時折失いがちになる優しさという感情をこんなにも熱を持っている人なんですから。
それもまだ入りたてだからと言えば、そうなのかもしれません。しかし、普通の人ならすくんでしまうような場所にすぐに駆け付けてくれる人です。
―――――本当は殺したくないんだよね
......全く、本当に凪斗さんには敵いません。恐らく、こんなに早く思ったのは初めてかもしれません。
凪斗さんが言った通り、私は人を殺したくありません。もっといえば、過去のトラウマが引きずって引き金にかける指が震えてしまうのです。
まあ、もとより殺すことはほとんどありませんから。相手が強敵で止む終えずの場合がほとんどです。
とはいえ、きっと私があの時凪斗さんに過去を話したのは恐らく衝動的に殺そうとしてしまいそうになる私を止めて欲しかったのかもしれません。
ただの後付けです。あの時に話した気持ちを今も鮮明に思い出すことは出来ませんし、今は今やるべきことに集中しなければいけません。
ですけど、私は実際にその自分ですら隠していた本心に気付いてもらえたことが嬉しかったのかもしれません。
不思議と心が落ち着いています。前はもう少し自分の心臓の鼓動が聞こえていたのに、今は安心して引き金を引けそうな気がします。
スコープから覗く私の目は凪斗さんが立ち上がって、ポケットに手を突っ込んだ状態になったのを確認しました。恐らく、電話を鳴らすのでしょう。
「スーーーーーーハァーーーーーー」
一つ息を大きく吸って、大きく吐きます。これで私の集中力はさらに深度を増して相手の動きを捉えることに、狙いを外さないためにその集中力を費やしていきます。
凪斗さんがスマホをぶん投げました。それをメソメソ顔の藁人形がガードして弾き、その横からすぐにプンプン顔の藁人形が横を通り抜けていきます。
「スゥー」
短く息を吸って―――――引き金を引きました。
長い銃口の先からライフリングによって高速回転を得た銃弾が空気を切り裂きながら、標的二体に向かって直進していきます。
「ハァー」
短く吸った息を吐き出すころには高速移動した銃弾が防護ネットの隙間を抜けて、メソメソ顔の藁人形とプンプン顔の藁人形の頭を貫いていきました。
「後はお願いします」
*****
――――――主人公視点――――――
「何が起こった......!?」
突然自身の作り出した人形が自壊していく姿を見て教祖は驚く顔をした。何が起こったのか全く理解できない様子だ。
それはこっちにとっては好都合。
俺はそのまま直進して二体の藁人形の間を通り抜けると最短コースで教祖へと急接近していく。
「おらあああああ!」
「くっ!」
俺は大きく振り上げた拳を鋭く振り下ろす。しかし、その攻撃は教祖が咄嗟に突き出した右手によって僅かに逸らされる。
そして逆に、教祖から左拳が顔面へと迫ってきた。
「何が起こったかわからないけど、僕が対人戦闘に心得が無いと思ったか――――――い!?」
「ああ、それぐらいは想定してた。それ込みで突っ込んだ。お前を確実に仕留めるためにな!」
俺は咄嗟に左手で教祖の左肩を掴み、左ひじで教祖の右肩を押していく。そして、素早く引き戻した右拳を腰に据える。
その右拳は俺が纏っている電撃よりも数倍バチバチと危なそうな音を立て、その電撃によって耐えられなくなった俺の右腕にはいくつもの皮膚が裂けて、血が溢れ出している。
「ま、待て!? そんなのくらったら、さすがの僕でも――――」
「俺の最高威力の雷だ。スタンガン以上のを食らってあの世逝かねぇようにしっかりと歯を食いしばりやがれ!――――雷拳!」
「待て、がはっ!――――あ"あ"あ"あ"あ"あ"!」」
俺の拳は教祖に見事をボディブローを決めて、そのまま後ろにあった壁に叩きつけた。
右拳を伝って激しい電撃が感電していき、それによってスタンガンが当てられたような痛みに襲われた教祖が、体をビクッとさせながら断末魔にも似た痛みを上げる。
「かはっ.......」
拳を離すと電撃を食らって意識を完全に途絶えさせた教祖がすぐ下にあった椅子に座りながら、だらしなく口を開けて天井を仰いでいる。
「これ以上の痛みが来架ちゃんが感じた痛みだ」
俺は聞こえてないだろう教祖に捨て台詞気味に呟いた。
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