第59話 襲来する一撃
「やあやあ、同士討ちのケリはついたかい?」
俺が二階から三階に続く階段を上がると教祖が椅子に座って足を組んだ状態で迎えた。
その笑みはとても腹立たしいもので、声は俺と来架ちゃんが戦ったことに対する嘲笑じみたものだった。
恐らく爆炎でついたススと腕の擦過傷を見て判断したのだろう。
「よく逃げなかったな」
「前に言っただろ? 君は僕が本当の意味で神になるためにはとても邪魔な存在だ。なんせ、僕の能力で操れないんだからね。それに、君は新人のようだ。手練れだったらまだしも、未熟者ならば早くに芽を摘んでおくのも悪くないかと思って」
「.......」
「怒ったかい?」
「いや、確かに俺は未熟者だ。戦闘経験も浅いし、基本的なことも出来てない。来架ちゃんにもフォローされるほどだ。だけど、俺は“一人じゃない”。あまり舐めてると痛い目見ることになるぞ」
俺はスッと重心を前に傾けていく。
「それは楽しみだ」
教祖はニタリと笑うと同時に一気に走り出した。
最初から最高速だ。相手が自分より手練れとわかってる以上、半端に挑むことなんてしない。
そして、一瞬にして教祖の目の前に接近すると鋭く拳を突き出した。
「守れ、クレイ。そして、殴れ、アグリー」
「!」
しかし、俺の拳は突然現れた巨大な2メートルほどの藁人形に止められ、もう一体の藁人形が俺に向かって拳を振りかざす。
咄嗟にその場から離れる。すると、襲ってきた藁人形の拳は床を簡単にへこませた。
この具現化能力は結衣の鎌ラヴァリエと同じだ。
「攻撃せよ、クレイ、アグリー」
クレイ、アグリーと呼ばれた藁人形にはそれぞれ顔があり、名前の通り泣き顔と怒り顔で別れている。
そして、まず襲ってきたのはアグリーで移動スピードはクレイよりも速くこちらへと接近してくる。
アグリーは俺に大振りに拳を振りかざす。しかし、アグリーが確かに速いと言っても俺ほどではない。当たればひとたまりもない攻撃だが、当たらなければ意味がない。
俺はアグリーが振りかざした拳を避けると胴体に蹴り込んで吹き飛ばす。すると、すぐにクレイがやって来た。
だが、やることは同じだ。俺よりも遅いなら、先に俺の方が拳が届く。
「あたっ!」
俺がクレイの顔面に振りかざした拳は弾かれた。まるで鋼鉄を殴ったかのようだった。むしろ、俺の拳の方が痛い。
「くっ!」
その一瞬の隙を突かれ、クレイのタックルをもろに受けた。しかし、クレイからは思っていた入りもダメージを受けることなかった。とはいえ、吹き飛ばされたが。
地面に叩きつけられながらも、転がりながら距離を取り体勢を立て直した。
すると、教祖が何かを独り言ちている。
「なるほど、彼は雷を操る第一世代の“自然タイプ”か。通りで相性が悪いわけだ。自然は自然エネルギーで守られているからな。しかし、こうなると似たタイプは他にもいそうだな。くそ、それは厄介だな」
自然タイプ? 初耳の言葉だ。まあ、この世界に入ってまだ日は浅すぎる方だし、知らないことがあっても当然か。
教祖は何かをうなづくと俺に話しかけてくる。
「どうかな? 僕のクレイとアグリーは? 素晴らしいだろ。攻めのアグリーと防御のクレイ。いわば最強の鉾と最強の盾が同時に手元にあるようなものだ」
「なるほど、道理でアグリーとやらの方は簡単に吹き飛ばせたけど、もう一方は全然攻撃が通らなかったわけだ。だけど、アグリーの方は吹き飛ばせばいいだけだし、クレイとは避けてそもそも戦う必要がないとなれば、残すはお前だけになると思うが?」
「確かに、君の速さならそうなるだろう。しかし、君の攻撃が僕にまともに通ればの話だけどね。君がいくら速く動こうと、数の利というのはやはり大きなアドバンテージでしかない。もう一人の少女を味方にいれば別だろうけどね。まあ、それだと3対2じゃなくて、4対1になっちゃうけどね」
「いいや、宣言するぜ。お前は必ず一人になるとな」
「さっきから“アルガンド”も使わない―――――いや、使えない君がどうやって僕に勝とうというのか教えて欲しいものだね!」
教祖はスッと右腕を掲げる。すると、再びアグリーとクレイが襲ってきた。しかし、その二体が捉えきれない速度で隙間を駆け抜けると一気に教祖へと強襲する。
顔面に向かって右足を鞭のようにしならせながら、一気に引き戻し蹴りつける。
「がっ!」
しかし、教祖に当たる前にいつの間にか近くにやって来ていたクレイの腕によって弾かれる。相変わらず蹴った自分の方が痛い。
そして、反対側からアグリーが鋭い右ストレートをかましてくる。
その軌道を見ながら突き出された腕に手を触れさせ、僅かに自分に当たらないように逸らしていく。
「ほらね。数は利でしょ?」
「ぐふっ!」
しかし、正面にいた教祖の拳はまともに腹部に突き刺さった。強制的に空気が吐き出される。そして、吹き飛ばされ地面を転がっていく。
体勢を立て直すと呼吸を整える。腹部にジリジリとした痛みを感じる。殴られた時の痛みってこんな感じなのか.......くっそ痛てぇ。
それにしても、さっきのクレイとアグリーはいつの間に近くに接近していたのか。本当は俺よりも高速で動けるとか?
.......いや、恐らく違うな。考えうるに再召喚したのだろう。
俺が二体を抜けて視界から消えた瞬間、すぐに二体を消す。二体は教祖のアストラルによって作られたものだからな。
そして、俺が接近したところで召喚。その後の流れはさっきと同じだ。となれば、接近して攻撃すれば、俺一人では無理そうだ。
一撃でも与えられれば恐らく勝てる。そのためにはもう一人の協力が不可欠。合図はまだ来ない。
「そういえば、お前の異能はあの宗教に入ってるときは洗脳類かと思っていたが、似てるが違うみたいだな」
「確かに、その解釈は間違いないと思うよ。僕の異能は人工動作。僕のさじ加減で相手を人形同然にできる。相手の意識を残したまま操ったり、相手の頭の中の常識に関する認識を狂わしたり。まあ、最後のは洗脳に近いかもね」
「それじゃあ、その二体の人形はそういう意味だったりするのか?」
「深くは考えたことはないけど、そうかもしれないね。泣き顔に怒り顔はそれぞれ操られた人の感情を表しているかもしれない。まあ、結局こんな顔してたって僕の前では何もできないんだけどね」
教祖はケラケラと腹を抱えて笑う。どうやらこいつには人の心の痛みが見えないらしい。そんなやつをこのままにしておけない。
『準備OKです』
合図が来た。
俺は腹を片方の手で腹を支えながら、もう片方をスーツのポケットに突っ込む。
「それで時間稼ぎは出来たかな? かなり深くまで拳が入ったしね」
そっちか、あぶね~。気づかれてたらどうしようかと思ったけど、どうやら本気で俺一人を相手にしているみたいだな。
「ああ、律儀に待ってくれると思わなかった」
なら、ここからはもうターンは譲らねぇ!
―――――――プルルルル、プルルルル
「!」
突然この場にスマホの電話の音が鳴り響く。それも教祖の方からだ。そのことに教祖は思わず驚き、咄嗟に自分のポケットの方を見た。
「そらよ!」
教祖のスマホを鳴らしたのは俺だ。操っていた信者から奪ったスマホですぐに電話を掛けられるようにセットしておいたのだ。
そして、そのスマホを思いっきり教祖に向かって投げる。その後を追って走り出す。
クレイが腕をクロスさせながら投げたスマホの軌道上に出る。そして、固い体でスマホを弾き返す。すると、すぐ横からアグリーが俺を迎撃をしようと飛び出した。
「なるほど、僕を油断させたのはこのためだったか。だけど、残念だったな。言っただろ? 数の利があると―――――」
「そんなのねぇよ!」
その瞬間、クレイとアグリーの頭を一発の銃弾が貫いた。
読んで下さりありがとうございます(*≧∀≦*)




