表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/186

第58話 取り戻す表情

 突如として襲った背中に突き抜ける衝撃と痛みに俺は声にもならないうめき声が漏れた。

 何十発とサブマシンガンから撃ちつけられる銃弾は容赦なく俺の背中を襲う。

 衝撃で前に倒れそうになる中、そっと背後を振り返った。

 そこには今にも泣きそうな来架ちゃんの姿があった。


 正直、痛すぎていて痛すぎて今にも意識が飛びそうだ。だけど、結衣と戦った赤鬼と比べればまだこの痛みなら何とかなる。

 それよりも、一旦来架ちゃんをこの場から離さないといけない。原因がわかっているからこそ。


「来架ちゃん、ごめん!」


 俺はなんとか倒れずに足で踏ん張ると今にももう一度銃弾を放ちそうな来架ちゃんにタックルした。

 雷と集中強化で身体能力を強化した俺の方が一瞬速い。

 そして、そのまますぐ後ろにある階段を落ちていく。来架ちゃんは引き金を引いていたのか銃口から放たれたいくつもの弾丸が天井に当たって、オレンジ色の火花を散らしながら乱反射する。


 来架ちゃんを抱えたまま階段をゴロゴロと転がっていく。

 最下段を転がり落ちたあとも、少しだけ転がり続けた。


「ぐっ」


 来架ちゃんにすぐに胴体を蹴られた。なかなかに重たい一撃によって軽く吹き飛ばされる。

 しかし、転がりながらもすぐに体勢を立て直して来架ちゃんを見る。

 来架ちゃんはゆらゆら立ち上がり、こう告げた。


「ごめなさい、凪斗さん。凪斗さんは今回が初の対人戦だから心配で急いで来たのですが、私のせいで怪我を.......」


「大丈夫だよ。優秀な所長がこういうのを想定していたらしくて、俺の着ているスーツは高性能な防弾チョッキのようになっているから」


「でも、私......私......凪斗さんを傷つけて......またあの時みたいに殺してしまいます! だから、私を殺してください!」


「おいおい、そんなことを俺が出来るとでも」


 涙を流しながらもサブマシンガンの銃口を向ける来架ちゃん。その持つ手は小刻みに震えている。

 恐らく教祖の能力によって操られているのだろう。教祖をどうにかするにもまず来架ちゃんをどうにかしないといけない。


「そよかさんは安全のために下の階に降りてください! そして、もしスマホがあれば警察に連絡を!」


「は、はい!」


 転がる俺達を追って降りてきたそよかさんに指示を送る。そして、動き出すそよかさんに来架ちゃんは無反応。

 教祖の目的はあくまで同士討ちらしい。クソ野郎が。


「凪斗さん、ごめんなさい!」


「!」


 来架ちゃんは引き金を引くとサブマシンガンから一斉に銃口が放たれた。

 この場は建設途中であるために何もない。強いて言うならば中央に太い鉄筋コンクリートの柱があるぐらいだ。一先ずそこに退散しよう。


 俺はすぐにその場に移動すると俺の動きに合わせて無数の銃弾がガガガガガッと放たれ、柱や地面に打ち付ける。

 本当なら弾切れを狙うのがセオリーだが、今回はそうもいかない。

 というのも、来架ちゃんが撃っている弾は自身のアストラルで作ったものだからだ。前に本人がそう言っていたから間違いない。

 ということは、来架ちゃんがアストラルを切らさないとこの銃撃は止まらないということになる。


 だが、俺は来架ちゃんのアストラルの総量を知らないので、下手に待ち続ければそれは教祖を逃がすことになる。

 それに来架ちゃんは罪悪感で感情が高ぶっている。それはアストラルの総量がいつもより多い可能性があるということだ。

 

 加えて、来架ちゃんは俺よりも実戦経験が多い。だから――――――下手に長期戦が出来ない。


「あぶねっ!」


 来架ちゃんは銃撃を止めるとこっちに向かって走ってくる。そして、レッグポーチにつけているピンのついた小さな筒を手に取ると口でピンを外し、投げた。

 さらにそれが柱を通り過ぎた所で、それを狙って銃弾を放つ。

 銃弾はそれに当たると途端に爆発を起こした。

 いわば小型手榴弾だ。しかも、対ファンタズマ用であるために高火力の爆炎がすぐ近くに接近してくる。


 体に紫電を纏わせた俺はその場からすぐに跳躍を開始して、壁を蹴って階段側の方へと脱出する。

 すると、銃口が俺の方へと向いていた。しかも、銃の形が先ほどのサブマシンガンから変わってショットガンになっている。

 恐らく来架ちゃんの<錬金術師(アルケミスト)>の能力で変えたものだろう。


 バンッと炸裂音とともに先ほどよりも速い銃弾が向かって来る。

 咄嗟に床を手で押して体を無理やり流していく。それでも僅かに腕は掠った。すぐ近くでバチュンッとオレンジ色の火花を散らしながら黒い影が床に弾かれる。


 俺は転がりながら体勢を立て直すとすぐに来架ちゃんの方を見た。案の定、銃口はこちらを向いている。

 ここはすぐに避けるのが定石だろう。だが、恐らく来架ちゃんはそれを読んでいる。


「凪斗さん!?」


 だから、あえて前に出る。そのまま来ないだろうと思うコースを取る。単純な戦闘素人の浅知恵だ。それにあの銃をどうにかするには結局近づくしかない。


 来架ちゃんは少し動揺しながらも銃弾を放つ。いや、正確には放たせられる、だ。

 俺は指が引き金を引くタイミングを見ながら、サッと横に移動した。すぐさま黒い影がそばを通る。一度でも銃弾を躱せれば、後は俺の速度で間合いに接近できる。


「ちょっと、ごめんね」


 来架ちゃんはすぐさま俺の位置を確認して銃口を向ける。だが、その前に俺の手がショットガンを掴み、手前に引く。

 それによって、来架ちゃんは少し前につんのめると腕ごと拘束するように――――――抱擁した。


「凪斗さん......一体何を―――――あっ!」


 来架ちゃんは一瞬体をビクつかせる。それは突然俺に抱きつかれたこともあるだろうが、抱きついたと同時に流した電流の影響である。


 来架ちゃんが教祖によって操られているのなら、何らかの影響を体が受けているからだ。それは教祖の能力が俺にだけは効かなかったことから。

 普通、操るだったら糸とか使ってと考えるだろう。だがそれだったら、俺が操られないのはおかしな話だ。

 となれば、来架ちゃんの頭の意識自体に刷り込みがかけられている可能性が高い。

 来架ちゃんにかけられた教祖の暗示は三階で会った一瞬のものだったから、恐らく体にショックを与えれば治るはず!


 電流を流し続けてからしばらくして、俺を引き離そうとしていた来架ちゃんの抵抗は静まった。もしかしたら、正常に戻ったのかもしれない。


「落ち着いた?」


「はい.......ありがとうございます。そして、足を引っ張ってごめんなさい」


 来架ちゃんはショットガンを手放すとそっと抱きしめ返す。そして、肩に泣き顔を埋めた。


「足を引っ張ったって? 俺はそんなこと一度も思ったことないよ。任務中で俺が暴走しかけた時に止めてくれたのも、この場所まで犯人を突き止めたのも来架ちゃんがいたおかげだからさ。俺一人では何もできなかった。だから、大丈夫だよ」


「う"ぅ......あ"り"がと"う"ござい"ま"す"」


「それに来架ちゃんは過去を話した時に教祖を殺したいのかはぐらかしたけど、本当は殺したくないんだよね」


「......」


「それでいいと思うよ。俺だってたとえいずれそういう場面に出会うとしても出来る限り人を殺すなんて選択肢は取りたくない。だから、戦う前に俺にあんなことを言ったんだろ」


「.......ぐすん、お見通しなんですね」


「なんとなくな」


 来架ちゃんはそっと顔を上げる。そして、少し距離を取ると涙を拭った。


「来架ちゃん、戦うのは俺がやる。トラウマもありそうだしな。だから、最高のサポートを頼む」


「はい! この来架に全てをお任せください!」


 来架ちゃんは天使のように明るい笑みで返事をした。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ